この記事は2016年11月1日に掲載しております。
演奏活動やレッスンに加え、ピアノ指導者を中心に人気を集める講座など、多方面にわたって活動する赤松林太郎さん。最近はハンガリーでリスト音楽院と共催のマスタークラスを受け持つなど、国内外各地を飛び回り多忙な毎日を送る。そんな赤松さんに、音楽かける想いについて伺った。
- pianist
赤松 林太郎 - 2歳よりピアノとヴァイオリンを、6歳よりチェロを始める。幼少より活動を始め、5歳の時に小曽根実氏や故・芥川也寸志氏の進行でテレビ出演。10歳の時には自作カデンツァでモーツァルトの協奏曲を演奏。1990年全日本学生音楽コンクールで優勝して以来、国内の主要なコンクールで優勝を重ねる。1993年には仙台市教育委員会より平成5年度の教育功績者に表彰。神戸大学を卒業後、パリ・エコール・ノルマル音楽院にてピアノ・室内楽共に高等演奏家課程ディプロムを審査員満場一致で取得(室内楽は全審査員満点による)。ピアノを熊谷玲子、ミハイル・ヴォスクレセンスキー、フランス・クリダ、ジャン・ミコー、ジョルジュ・ナードル、ゾルターン・コチシュ、室内楽をニーナ・パタルチェツ、クリスチャン・イヴァルディ、音楽学を岡田暁生の各氏に師事。2000年にクララ・シューマン国際ピアノコンクール(審査員にはマルタ・アルゲリッチやネルソン・フレイレなど)で第3位を受賞した際、Dr.ヨアヒム・カイザーより「聡明かつ才能がある」と評された。国際コンクールでの受賞は10以上に及ぶ。国内各地の主要ホールはもとより、アメリカ、ロシア、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オーストリア、ハンガリー、台湾、コロンビアなどを公演で回る。近年では2013年よりウィーン各地で室内楽コンサートを開始、2013年秋にデュッセルドルフにてリサイタル、2014年春に生前のバルトークが使用したピアノ(ハンガリー科学アカデミー所蔵)でリサイタル、また2015年春のドナウ宮殿におけるドナウ交響楽団との共演を成功させ、夏はミラノでソロリサイタル、秋はブダペスト、ウィーンにて公演。これまでに新田ユリ、手塚幸紀、堤俊作、西本智実、山下一史の指揮のもと、東京交響楽団やロイヤルメトロポリタンオーケストラ、ロイヤルチェンバーオーケストラなどと共演。NHK交響楽団や東京フィルハーモニー管弦楽団などのメンバーと室内楽も行い、多くの音源(YouTube)に残している。2014年にキング・インターナショナルから《ふたりのドメニコ》(レコード芸術準特選盤)と《ピアソラの天使》をリリースして各誌で絶賛される。500名以上の指導に携わり、国内外の主要なコンクールで多くの受賞者を輩出している(PTNA特級グランプリ・銀賞・銅賞など)。審査員やマスタークラスの講師はもちろん、エッセイストとして新聞や雑誌にも連載を持っている。「美しいキモノ」ではモデルも務める。現在は全日本ピアノ指導者協会評議員・演奏研究委員、ブダペスト国際ピアノ国際ピアノマスタークラス(ハンガリー国立リスト音楽大学共催)講師、洗足学園音楽大学客員教授。
※上記は2016年11月1日に掲載した情報です。
次々やりたいことが溢れている状態でなければ、
ピアニストは続けられない
赤松林太郎さんは2歳でピアノを始め、10歳のときにコンチェルトデビュー、子供の頃は、全日本学生音楽コンクールをはじめ数々のコンクールで優勝を重ねた。まさにピアノの天才少年といった経歴だが、当時は外交官に憧れていて、ピアニストになろうとは思っていなかったという。しかし、音楽の道への見切りをつけるつもりで挑戦したクララ・シューマン国際ピアノコンクールで3位に入賞したことをきっかけに、気が付けば、ピアニストとしての人生を歩むようになっていた。
現在の活動は実に精力的だ。リサイタルで毎回異なるプログラムを取り上げながら、加えて、「ピティナ・ピアノ曲事典」に提供する演奏動画収録、レッスンや講座で全国各地をまわる過密スケジュールをこなす。
「これは簡単なことではありませんが、私にはやりたい曲がたくさんあるので、リサイタルでは、全く同じプログラムを二度弾かないようにしています。そのため、毎回のコンサートでクオリティをどう保つかが、常に課題になります。今のスケジュールだと、ピアノに向かいながら暗譜する時間はとれませんので、移動中などに暗譜しておきます。楽譜は、いろいろな版を徹底的に集めないと気が済まないので、それらもいわばスキャンするように頭に入れていきます。そうしておくことで、指導するときにもとても役に立ちますね。……ちなみに、暗譜は得意なのですが、数字を覚えるのはすごく苦手。パスコードとかホテルの部屋番号とかは、全然ダメなんです(笑)」
楽曲研究の成果と豊富な知識が生かされた講座は、とくにピアノ指導者から絶大な支持を集める。それには、内容はもちろん、わかりやすく心を掴む話術にも理由があるようだ。
「比喩などを的確に使って、聞く方々の体に言葉が刻印されるような話し方をしなくてはいけません。そして聞き手が自ら考えることにつながるよう、話の内容を心がけています。なんとなく刷り込まれて無意識のうちにやっているものを、言語化してみせることで、ちゃんと頭で考え直すきっかけになります」
聴き手を惹きつけるうえで大切なことは、ステージでも共通している。
「作品と向かい合っているときは、楽譜が言い表したいことを幾層にも読み取り、そのつど決めた解釈に基づいて、どのようなテクニックを使っていくかを考えます。これは作曲家と語り合う、とても充実した時間です。しかしステージに立ったときは、聞いて下さる方々に意識を集中させます。コンサートにしろ、講座にしろ、相手側の空気感を機敏に察知して、自分と同じ呼吸に合わせてもらうための仕掛けが必要なのです」
最近は国際コンクールの審査員も務め、一方で、コンクールに挑戦する若者の指導にも熱心にあたっている。
「コンクールのステージはリサイタルと同じで、自分というストーリーをいかに描き出せるかが大切だと思っています。でも自分は何をどう表現したいのかがわかっていないと、どうしても、コンクールで強い曲は何かという発想になってしまう。弾きたくて仕方がない作品を取り上げることで、ようやく自分の"顔"を見てもらうことができるのだと理解しなくてはいけません。私が生徒のコンクール演目の相談に乗るときは、徹底的にディベートをします。彼らが本当は何を感じているのかをあぶり出すのに時間をかけ、最良と思われるプログラムを提案するようにしています」
昨年はピアソラの作品集を、そして今年は、ペルトからスクリャービンまで幅広い作曲家の作品を取り上げたアルバム「そして鐘は鳴る」をリリースした。録音のパートナーは、ヤマハのCFXだ。
「2010年にCFXが登場した時には、感動しましたね。技術者のハングリー精神を感じる、本当にすばらしい楽器だと思いました。もっとも驚いたのは、ダンパーペダルの性能です。ペダルを踏みながらどんなに太く大きな低音を鳴らしても、離せばピタッと響きが止まるんです。例えば体操競技でも、いくら回転がうまくいっても最後にピタッと止まれなければ美しく見えません。それが怖いと、リスクを避けるため、事前にパワーをセーブしてしまいがちです。でも、CFXでは楽器を信頼し、思い切り力を出しきることができます」
また11月には、自伝「虹のように」が出版される。作曲家の故・芥川也寸志との交流や、戦後の文化交流に貢献した祖父など、少年時代の自身に影響を与えたこと、留学時代に恩師フランス・クリダから学んだこと、現在の練習術や音楽をめぐる考えなど、多岐にわたる音楽話が綴られている。
赤松さんは、“闘うピアニスト”と呼ばれている。十年ほど前、留学直後のインタビューで、彼の言葉の中に「自身の数歩先をゆく幻影を求め、常に戦っている姿勢」が見られたことから、記者の方がつけたキャッチフレーズなのだそうだ。
「ピアニストとしての人生は、苦しいけれど楽しい。次はこれがやりたいという“中毒”になっていなければ、音楽家を続けることはできないと思います」
そう語る赤松さんは、これからも多彩な活動を通して高みを目指してゆくことだろう。
Textby 高坂 はる香
※上記は2016年11月1日に掲載した情報です。
CD情報
- そして鐘は鳴る
- 品番:KKC-045
ジャンル:クラシック
価格:オープン価格
発売予定時期:2016年12月初旬
- ピアソラの天使
~ピアソラ・オン・ピアノ - 品番:KKC-038
価格:オープン価格
発売中
書籍情報
- 虹のように
- 単行本: 236ページ
出版社: 道和書院
ISBN-10: 481053300X