この記事は2020年8月27 日に掲載しております。
３度にわたるベートーヴェンのソナタ全曲演奏をはじめ、音楽を深く探究する演奏活動を続ける、若林顕さん。奥様でヴァイオリニストの鈴木理恵子さんとのデュオでも多くのステージに立つ。若林さんの音楽性を育んだもの、演奏する上で大切にしていることについて伺った。
- pianist
若林顕 - 日本を代表するヴィルトゥオーゾ・ピアニスト。20歳でブゾーニ国際ピアノ・コンクール第2位、22歳でエリーザベト王妃国際コンクール第2位の快挙を果たし、一躍脚光を浴びた。その後N響やベルリン響、サンクトペテルブルク響といった国内外の名門オーケストラやロジェストヴェンスキーら巨匠との共演、国内外での室内楽やソロ・リサイタル等、現在に至るまで常に第一線で活躍し続けている。
東京芸術大学で田村宏氏に、ザルツブルク・モーツァルテウム、ベルリン芸術大学でハンス・ライグラフ氏に学ぶ。
2002年にカーネギーホール（ワイル・リサイタル・ホール）で鮮烈なリサイタル・デビューを果たし、カナダ・トロントの「ミュージック・トロント・チェンバー・ミュージック・シリーズ」やシカゴの「マイラ・ヘス＝リサイタル・シリーズ」などで大成功を収めて再招聘されている。
共演したオーケストラは、NHK交響楽団をはじめとする国内の主要なオーケストラのほか、ベルリン交響楽団、サンクトペテルブルク交響楽団、ロシア・ナショナル管弦楽団、エーテボリ交響楽団、ノールショピング交響楽団、リンブルク交響楽団、パドゥルー管弦楽団、スコットランド室内管弦楽団といった海外の名門オーケストラも多数。ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー、ゲルト・アルブレヒト、アレクサンドル・ラザレフ、ダニエル・ハーディング、オスモ・ヴァンスカ、ウラディーミル・スピヴァコフ、ゲルハルト・ボッセ、ヘルムート・ヘンヒェンといった名指揮者とも数多く共演している。
「ショパン：エチュード全集」など多数のCDをリリース、多くがレコード芸術・特選盤となり、極めて高い評価を受け続けている。
2014年に続き、2016年にも再び、サントリーホール（大ホール）でソロ・リサイタルを行い、大成功をおさめた。また、自身では3回目となる「ベートーヴェン：ピアノ・ソナタ全曲シリーズ」を2017年に完結し、2018年より「ショパン：ピアノ作品全曲シリーズ」を行っている。
第3回出光音楽賞、第10回モービル音楽賞奨励賞、第6回ホテルオークラ賞受賞。
若林顕オフィシャルサイト
※上記は2020年8月27日に掲載した情報です。
10代の頃から、演奏家は40歳からがスタートだと思っていた
キャリアが拓けたのは、20歳でブゾーニ国際ピアノコンクールに、22歳でエリザベート王妃国際コンクールに入賞したことがきっかけ。それから現在まで、ソリストや室内楽奏者として長きにわたって活躍してきた。
「コンクールでの成功は、確かに演奏活動のきっかけになりますが、長く続けられるかどうかはまた別の話です。良い結果が出れば嬉しいし、失敗すれば落ち込みますが、大切なのは、その結果をどう咀嚼するか。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、結果に惑わされず、自分を見失わないことが、結局は一番大切なのです。キャリアが順調で、自分では音楽的に正しいことをやっているつもりでも、知らない間に足を取られることだってあるのですから。
思い返すと私は、10代の頃からずっと、演奏家は40歳からがスタートだと思っていました。コンクールの結果やコンサートの数がどうであれ、すべてはあとあとピアニストとしてやっていくための準備です。そして、60代、70代になった時、自分の理想にどれだけ近づけているか。そうやって物事をとらえたほうが、音楽家として豊かに歩めるのではないでしょうか」
震災や災害、現在は新型コロナウイルスの蔓延など、世界では日常を脅かす出来事が次々と起きる。若林さん自身についていえば、10年前に手の故障を乗り越えた。音楽家として大きな目標を持って生きていれば、あらゆる経験を音楽の糧に、困難も乗り越えられるのだろうか。
「ええ、乗り越えることは可能ですよ。目先のことに惑わされないで、音楽家としての気持ちや姿勢、目指すものを、絶対に崩さないようにすることが大事です。それさえ忘れなければ、少しくらい傷ついても、良い経験だったと思って、そのあとさらに爆進できると思います」
演奏家人生を歩む中、自分の音楽を見失わないでいるためには、奥様でヴァオリニストの鈴木理恵子さんの存在も大きいと話す。
「ピアノは普段、一人で演奏することも多いですが、私の場合は、共演者でもある鈴木理恵子が客観的に見て、言うべきことはちゃんと言ってくれます。これは本当にありがたいですね。先生、友達、家族など、意見を言ってくれる信頼できる人がいることは、とても大切です」
