この記事は2020年1月27日に掲載しております。
常にさまざまなチャレンジを続けるジャズピアニスト、国府弘子。還暦のアニバーサリーイヤーである2019年には「音楽のまち・かわさき」の川崎市文化賞を受賞、2020年には記念アルバム『ピアノ・パーティ』をリリースするなど、その勢いに拍車がかかる。
- pianist
国府弘子 - 国立音楽大学ピアノ科卒業後単身渡米、帰国後1987年デビュー、現在まで23枚のアルバムを国内外で発表。自己のトリオやソロピアノでの演奏会、オーケストラとの競演まで幅広い活動で、全国的な人気を集めるピアノ界のスーパーレディ。常に様々なチャレンジに挑み、音楽の喜びと躍動、そして安らぎにあふれるピアノの魅力で人々の心を捉えている。現在、川崎市市民文化大使、埼玉入間市文化創造施設のアドバイザー、平成音楽大学、尚美学園大学客員教授。
音色の贅を極めたソロアルバム「ピアノ一丁!」に続き、岩崎宏美×国府弘子のデュオ作品「ピアノ・ソングス」が好評。2019年秋に川崎市文化賞を受賞。
2020年2月に24枚目のアルバム「ピアノ・パーティ」をリリース。
▶国府弘子オフィシャルサイト
※上記は2020年1月27日に掲載した情報です。
人生にはさまざまなパーティがある
還暦を迎え、人生の哀歓を味わってきた彼女が万感の思いを込めたニューアルバム「ピアノ・パーティ」が、2020年2月19日にリリースされる。
5年ぶりとなる新作は、ピアノの音色の贅を極め、聴き手を虜にした『ピアノ一丁!』とは趣が異なり、あうんの呼吸で自由自在の演奏を放つ国府弘子スペシャルトリオのサウンド。ゲストには、タンゴを牽引するバンドネオン奏者・小松亮太、唯一無二のバイオリニスト・早稲田桜子、天使の声を持つディーバ・露崎春女を迎え、絶妙なコラボレーションをプロデュースした。
結成22年目のトリオをはじめ、旧知の仲の演奏家たちとつくり上げた楽曲は、クラシックを超え、ジャズをも超えた国府流だ。
収録曲はタイトル通り、元気で躍動感あふれる音の粒がダンシング?もちろん、直球で表現するそんな楽曲もあり、だ。しかし、本アルバムを聴いたなら、最高の意味でその想像は覆されることになるだろう。
ここ数年、国府は大切な人を見送ることも多かった。ピアノ6連弾をともにし、兄貴分だった佐山雅弘や同じくジャズ界のレジェンド・前田憲男、音大時代の教授であり、第二の母と慕っていた恩師……。
「大切な人が逝ってしまうのはとても悲しいけれど、その方たちが残された者たちの心をつないでくれているんですよね。すてきなプレゼントをいただいた気がして、“お見送り”も人生の大切なパーティだと思うようになりました。出会い、旅立ち、セレブレーション。人生にはいろいろなパーティがあるんだって」
2019年8月に行われた「国府弘子還暦バースデイコンサート」の歓声と拍手が冒頭を飾る『パーティ開演を待つ人々』にはじまり、収録曲は全10曲。
クラシックの名曲、メンデルスゾーン『結婚行進曲』やエルガー『威風堂々』も、名アレンジによって新たな息吹が吹きこまれた。トリオの合言葉のような曲『ミストラーダ~トンボ』は、斬新なバージョン。つらいことに遭遇している人にエールを贈る『リボーン』などのオリジナル曲では、彼女のメロディメーカーぶりをあらためて見せつけた。
ピアソラの『アディオス・ノニーノ』は、いつか自分流の解釈で録音したいと思い続けていた曲だという。
「タンゴというのは、実は奏法を教えてもらわないと難しいんです。数年前、小松亮太さんをゲストに招いたときには、うちにお稽古に来てくださいと言われて通いましたね。本物のタンゴを知る小松さんと、彼が認める『アディオス・ノニーノ』が録音できたので達成感があります」
そして、もっとも“楽しい苦労”を味わったのが、リストの名曲『愛の夢』編曲版につけた歌詞だった。
「音大時代、18歳でジャズやバンドに傾倒し始めた私に、恩師が“クラシックのすばらしさもちゃんと知らずに途中で投げてはダメ”と、これでもかと名曲を弾かせてくれたんです。その最初の一曲が『愛の夢』でした。それを自分流にアレンジしようと思ったとき、天使のような歌声が聴こえてきたんです。露崎春女さんのキーに合わせることで、ピアノカンデンツァも新しいオリジナル版が生まれましたね。しかも、ピアノが伴奏のレベルを超えて歌と包み合うような曲に仕上がりました」
多くの人々や音楽との出会いのなかで見つけてきたパーティ。歓びも涙も…この1枚のアルバムに集約されている。ニューアルバムを引っ提げてのコンサートも予定。愛に満ちた最高のピアノ・パーティになることだろう。
同アルバムの録音には、ヤマハコンサートグランドピアノCFXが使用された。
バンドの録音の場合、ソロとは違って音の美しさ以外の要素も絡んでくる。しかし、仲間と一緒でもこんなに幸せで極上の音になることを証明できたと国府は顔をほころばせる。
「初めてCFXを弾いたときの鳥肌が立つような感動は今でも覚えていますし、CFX愛はますます深まるばかり。自分のイマジネーションや表現力を倍増させてくれるピアノですよね。自分のプレイが成功していると思わせてくれて、感動をくれる。感動をくれたら、その感動を聴き手の方に返せますから」
88鍵弾いていなくても、すべてが鳴っている──。その感覚を彼女は“宇宙”と表現する。