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ケヴィン・ケナー 氏(Kevin Kenner) 発見の連続と音楽の奥深さこそが、 ピアノを弾き続けていられる理由なのです。 この記事は2017年2月11日に掲載しております。

1988年から90年にかけて、ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール、チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際ピアノ・コンクールなど、いくつもの世界的コンクールに入賞。まさに彗星のごとく音楽シーンに登場したケヴィン・ケナーさん。多彩な演奏活動と並行し、名教師としても高く評価されている現在、その音楽観や教育方針などをうかがいました。

Profile

pianist ケヴィン・ケナー

pianist
ケヴィン・ケナー
【1990年の快挙】
1990年はピアニスト ケヴィン・ケナーにとって記念すべき年となった。彼の芸術的手腕が3つの名声ある賞の受賞によって世界に認められる年となったからである。その3つとは、ショパン国際ピアノコンクール(ワルシャワ)での最高位(同時に聴衆賞、ポロネーズ賞の受賞)、国際テレンス・ジャッド賞(ロンドン)、チャイコフスキー国際コンクール(モスクワ)での銅賞の受賞(同時にロシア作品最優秀演奏賞受賞)である。それに先立つ1988年にはジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクール(ソルトレイクシティ)や1989年ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール(フォートワース)でも輝かしい成績を残した。【指揮者、オーケストラとの共演】
ソリストとして、ハレ管弦楽団、BBC交響楽団、ベルリン交響楽団、ワルシャワ・フィルハーモニー、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団、ベルギー放送フィルハーモニー管弦楽団、NHK交響楽団等の世界的に著名なオーケストラ、また米国ではサンフランシスコ、カンザス、ニュージャージー、ローチェスター、ボルティモア他多数の主要オーケストラと共演を果たしている。また、チャールズ・グローヴズ、アンドリュー・デイヴィス、ハンス・フォンク、スタニスワフ・スクロヴァチェフスキ、イェジー・マクシミウク、カジミエシュ・コルト、イルジー・ビエロフラーヴェク、アントニ・ヴィット等著名な指揮者との共演も数多い。

【数々のプロジェクト】
近年の主な活動として、フランス・ブリュッヘンと18世紀オーケストラの共演、Ensemble XIXとの演奏及び録音、1826年のグラフを用いてパリのシテ・ドゥ・ラ・ムジークでのショパン作品リサイタル、またパデレフスキ生誕150周年の記念コンサート及び録音、日本、米国、メキシコ、カナダ、ドイツ、フランス、イギリス、ポーランドでの演奏ツアー等が挙げられる。2015年には、ショパンの2つのピアノ協奏曲 室内楽版(ピアノ+弦楽五重奏)をポーランドのナショナルエディション版として出版。

【録音作品の数々】 
録音も数多く行っており、ショパン、ラヴェル、シューマン、ベートーヴェン、ピアソラと多岐に渡る。近年ポーランドで室内楽カテゴリーにおいて最優秀賞の“フレデリック賞”を授与された。またピリオド楽器にも造詣が深く、1848年のプレイエルを用いて国立ショパン研究所のレーベルで録音したショパンのソロ・ピアノ作品集はフランスのディアパソン誌にて5つ星を獲得した。

【チョン・キョンファとの共演】
2011年以降、ヴァイオリニスト チョン・キョンファからの熱烈なオファーを受け彼女の10年ぶりとなる活動始動に伴いデュオパートナーとして世界ツアーに参加。“美しく穏やかな真珠のような輝きを放つピアニズム”(英・テレグラフ紙)と絶賛されるなど、キョンファのヴァイオリンを引き立てつつ存在感を放つアンサンブルは彼の高度な美的音楽性を聴衆に再認識させている。2016年7月、ヴェルビエ音楽祭にデュオとしてデビュー、ワーナー・クラシックスとの録音プロジェクト(デュオ・ソロ)も進行中。

【教育者として】
英国王立音楽大学教授を経て、2015年9月より米国マイアミ大学フロスト音楽校教授。近年では、第17回ショパン国際ピアノコンクールに参加したチョ・ソンジンからの依頼によりコンクール直前に集中レッスンを行い、見事優勝に導いたことで、ケナーの教育者としての手腕が改めて認められた。
ケヴィン・ケナー オフィシャルサイト
※上記は2017年2月11日に掲載した情報です。

生徒が自分自身を発見できるようなレッスンを

 俊英という形容詞が似合うピアニストとして1990年代を駆け抜け、21世紀になると多忙なソロ・ピアニストとして、また名ヴァイオリニストのチョン・キョンファとデュオを組むなど、卓越した室内楽奏者として注目されてきたケヴィン・ケナー。ヤマハでのマスタークラスを含む数々のレッスンや、ロンドン(イギリス)の王立音楽大学ほかで教鞭を執るなど、教育者としても実績を積み上げてきた。2015年9月からは母国であるアメリカのマイアミ(マイアミ大学フロスト音楽校)で教授職に就き、未来ある音楽家たちをじっくりと育てている。
「豊かな才能を秘めた生徒が世界にはもっといるはずだと信じて、私自身が足を運んで発掘しています。日本を含むアジアの国々にも大いに期待していますし、すでに高度な演奏技術を身に付けているのでしたら、さらに音楽家として大成することでしょう。しかしながら私の教え方は、単に演奏のテクニックや知識を詰め込んだり、決められたレッスンのステップに沿って進んでいくというものではありません。むしろ私自身が、生徒一人ひとりのバックグラウンドや音楽性を見抜き、彼らにもっとも適したレッスンをするためのプロセスを探っているのです。私の役割は、それぞれが自らの個性を発見できるように導き、それを開放させ、自分の音楽を自由に奏でることができるよう準備してあげることなのですから」

 インタビュー中、何度か「音楽とは教えられるものではないのです」と発言していたことが興味深く、その真意をうかがってみた。
「これまで私に師事したいとやって来た若い音楽家の中には、『著名なピアニストにさまざまな演奏テクニックを伝授してもらい、曲の解釈に新しいヒントをもらい、手っ取り早くコンクールで優秀な成績を勝ちとればピアニストとしてのキャリアが開ける』と信じていた人もいたでしょう。しかし、優れた音楽家になることと、商品価値を高めることはまったく別のものです。コンクールやコンサートの契約といった結果などは二の次であり、時間がかかっても『自分は何者なのか、音楽家として何をしたいのか』を見つけることこそ重要だということを知ってもらいたいのです。私も特定の伝統や自分の考え方を、生徒たちに押しつけるようなことはしません。そうすることで未知の才能が埋もれてしまうのは、とても悲しいことですから。日本の音楽教育は非常に素晴らしく、技術的に申し分のない若者もたくさんいます。しかし、さらに音楽家として高いレヴェルを目指したいのであれば、自分を探求する時間とプロセスの重要さに気づいていただきたいと思います」

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ケヴィン・ケナーさんへ “5”つの質問

※上記は2017年2月11日に掲載した情報です。