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黒岩 航紀 氏(Kuroiwa Koki) 一音楽ファンとして、お客さんとともに音楽を楽しんでいるピアニストでありたい。 この記事は2017年1月16日に掲載しております。

2013年には東京音楽コンクールピアノ部門、そして2015年には日本音楽コンクールピアノ部門と、国内の主要コンクールで次々と頂点に輝き、ソロや室内楽など幅広い演奏活動を行う黒岩航紀さん。2017年春には東京芸術大学修士課程を修了予定。今後さらなる活躍が期待される黒岩さんに、お話を伺いました。

Profile

pianist 黒岩 航紀
© 井村重人

pianist
黒岩 航紀
1992年生まれ。4歳よりピアノを始める。2010年東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校より選抜派遣され、北京中央音楽院及び上海音楽院での「中日青少年演奏会」に出演。2014年東京藝術大学ピアノ科を首席で卒業。卒業時に大賀典雄賞、アカンサス音楽賞、安宅賞、同声会賞、三菱地所賞を受賞。2013年第11回東京音楽コンクールピアノ部門第1位、及び聴衆賞受賞。その様子は「"デモーニッシュで光輝ある音色とリズム感(ドビュッシー、スクリャービン)斬れるリズムと確固たる打鍵からの多彩な響き。攻めの姿勢の俊敏さは牛若丸の如く(ピアノ協奏曲ラフマニノフ第3番)"~音楽の友より~」等各音楽誌で取り上げられる。2013年第8回仙台クラシックフェスティバル(せんくら)にてサクソフォン奏者須川展也氏の共演者として2公演に出演。2014年桃華楽堂での音楽大学卒業生演奏会に出演(御前演奏)。2015年松方ホール音楽賞(第一位)受賞。NHK-FMラジオ「リサイタルノヴァ」にソロ、共演等多数回出演。ピアノソロ以外に、声楽、弦楽器、管楽器とのアンサンブルや室内楽での演奏も多い。「東名高速サクソフォンクインテット」「Trio Explosion」メンバー。これまでに梅田俊明、山下一史、曽我大介、各氏の指揮のもと、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、藝大フィルハーモニアと共演。2013年公益財団法人青山財団奨学生。2015年宗次エンジェル基金/公益社団法人日本演奏連盟新進演奏家国内奨学金制度奨学生。芹沢直美、秦はるひ、江口玲、各氏に師事。現在、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程に在籍。
黒岩航紀オフィシャルサイト
※上記は2017年1月16日に掲載した情報です。

一音楽ファンとして、お客さんとともに音楽を楽しんでいるピアニストでありたい

 東京藝術大学付属高等学校から、同大学、大学院で学んだ10年間を振り返り、「思い描いていた通りの楽しい学生生活を送ることができた」と語る、黒岩航紀さん。そもそもピアニストを目指したのは、東京芸術大学に憧れたことがきっかけだったという。
「小学3年生のときに東京藝術大学の存在を知り、芸大付属高校を見学して、音楽を中心に和気藹々とした学生生活を送るという環境に一目ぼれしてしまって。さらに大好きなピアノの勉強で大学に進めるなら、こんなに幸せなことはないと思い、芸大付属高校を目指すようになりました。振り返れば、これがピアニストの道に向かう最初の一歩でしたね」

 「寂しがり屋で人と接することが好きなタイプ」だという黒岩さんにとって、音楽好きの友人たちと過ごす学生時代は、かけがえのないものだった。自身の音楽に最も大きな刺激を与えるのも、そんな同世代の演奏家たちだ。
「学校の友人たちはじめ、同世代の日本人の演奏会は、ピアノに限らず積極的に聴きに出かけます。日本には海外のアーティストがたくさん来ますが、僕にとって、やはり一番親近感を持って聴き、ダイレクトに自分の活力にできるのは、同世代の日本人の演奏。同じ年代の人がこんなに深い音楽をしているのだと思うと、とても刺激になります。そのため、室内楽にも積極的に取り組んでいます。この秋は、2015年日本音楽コンクールの優勝者ツアーに参加しました。各部門で優勝した日本一の若手と同じステージで共演できて、とても楽しかったです。ピアノは一種の打楽器で、一音で泣かせたり歌ったりすることが難しいので、弦や管楽器の歌い方を間近で聴くことはとても勉強になりました」

 黒岩さんが自らの音楽を磨くうえで最近取り入れているもうひとつの方法。それは、「巨匠の演奏を聴いて、“完コピ”してみること」だという。
「自分が取り組んでいる作品について、アルゲリッチ、リヒテル、ルービンシュタインなどいろいろな演奏を真似して弾いてみるんです。インテンポで演奏しているように聞こえても、実際に合わせて弾いてみると計算しつくされた揺れがあって、意外と簡単に真似できません。両極端な演奏をなぞってみることで、自分の解釈の幅も広がり、多くの発見があります。もちろん自分で楽譜を分析することは大切にしていますが、先人の演奏から魅力的な表現を見出し、自分の音楽とリンクさせることで、いろいろな可能性が広がると思うのです」

 大学院修了後は留学も視野に入れ、さらに勉強を続けたいと意気込む。
「海外のコンクールにも積極的に挑戦したいです。きっと悩むことも出てくると思いますが、どんどん壁にぶつかっていきたい。そしてこれから演奏機会が増えていっても、毎回のステージに全力で臨みたいです。芸大で師事していた江口先生からも、いつも“明日ピアノが弾けなくなるかもしれない、死んでしまうかもしれないというくらいの気持ちで演奏しなさい”と言われました。常に作品に真剣に向き合う、一切妥協をしないなどいろいろな意味が込められている言葉です。思い出すたび、いつもハッとします」

 この冬には、ヤマハ銀座サロンでデビューアルバムの録音を行った。ヤマハ音楽教室でピアノを始め、子供のころから自宅のヤマハピアノで練習してきた黒岩さんにとって、「ヤマハのピアノは最も親近感がある、相棒のような存在」だという。
「ヤマハCFXは、倍音が多く、ふくよかでオーケストラのような音を鳴らすことができるのが魅力です。柔らかい音から鋭い音まで幅広い表現が可能で、持つ力をすべて反映できる楽器だと思います。
今回のアルバムには、ベートーヴェン、ショパン、ドビュッシー、リストなどいろいろなタイプの曲を入れて、僕の表現の可能性を知っていただけるものにしたいと思いました。なかでも、リスト=ブゾーニ=ホロヴィッツ編の『メフィスト・ワルツ』は、低音部の豪華なCFXを生かした演奏を心がけました。僕はもともとピアニストによる編曲作品に興味があって、自分で編曲を手掛けることもあります。子供の頃、ヤマハ音楽教室で作曲を勉強しましたが、今思えばその時の経験が生かされていますね。ピアノは技術の進歩とともに変化していますから、それに応じて新しい表現を切り拓くことに興味があります。現代のピアノを昔の作曲家が手に入れたら一体どんな曲を書くのか、見てみたいですね」

 これから世界に向かって新たな一歩を踏み出す黒岩さん。どんなピアニストを目指しているのだろうか。
「いつも身近に感じてもらえるピアニストでありたいと思っています。僕は家族に音楽家がいるわけでもありませんし、ピアノに対して堅苦しいイメージを持ったこともありません。クラシックは深い音楽ですが、映画を観て感動するのと同じ感覚で、シンプルに感動したり興奮したりする楽しみ方もいいのではないかと思います。もちろん、演奏するほうは多くのことを勉強し、突き詰めていく必要がありますけれどね。一音楽ファンとして、お客さんと一緒に音楽を楽しんでいられるピアニストでありたいと思います」

Textby 高坂はる香

※上記は2017年1月16日に掲載した情報です。