この記事は2016年7月1日に掲載しております。
野上真梨子さんは、2014年第5回野島稔・よこすかピアノコンクールに優勝。また、2010年、2015年にはショパン国際ピアノコンクールに出場し、端正でみずみずしいショパンが注目を集めたピアニストだ。今年の春、桐朋学園大学研究科を修了し、新たな一歩を踏み出す。そんな今、彼女がピアノや今後の活動によせる想いを聞いた。
© 井村 重人
- pianist
野上 真梨子 - 千葉県出身。2002年青少年ショパン国際ピアノコンクール(ポーランド)日本人初の第1位。第61回全日本学生音楽コンクール高校の部東京大会第2位、全国大会第3位。第4回北本コンクール高校生部門第1位・ならびに全部門通じての《最優秀賞》を受賞。第16・17回ショパン国際ピアノコンクール(ポーランド)・ディプロマ。第25回市川市新人演奏家コンクール優秀賞。第20回やちよ音楽コンクール第1位。ザルツブルク=モーツァルト国際室内楽コンクール2014第3位。第5回野島稔・よこすかピアノコンクール第1位。2015年10月第17回ショパン国際ピアノコンクール本選会に出場。これまでに、東京フィルハーモニー交響楽団、九州交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、ニューフィルハーモニーオーケストラ千葉と共演。2010年桐朋女子高等学校音楽、2014年桐朋学園大学音楽学部を共に首席で卒業。卒業演奏会、大学代表として皇居内の桃華楽堂での演奏会に出演。現在、同大学研究科2年在学中。下田幸二、高橋多佳子、野島稔の各氏に師事。
※上記は2016年7月1日に掲載した情報です。
ピアノとともに、自分の可能性を広げたい
野上さんが初めてポーランドを訪れたのは、10歳の頃のこと。ショパンにゆかりのある街アントニンで開催されるジュニア・ショパンコンクールに出場し、優勝に輝いた。日本人としては初めてのことだった。
「自宅でピアノ教室をやっていた母の影響で始めたピアノでしたが、このコンクールをきっかけに、ピアノを弾くのは楽しい、前向きにがんばろうという気持ちが芽生えたのだと思います。先生や両親など、周囲の人たちも熱心にサポートしてくれるようになりました。それ以来、ピアノから離れたいと思ったことはありませんし、ピアノ以外の道を考えたこともありません。ピアノは人生の一部です」
彼女とショパンの音楽との縁は深い。小学校4年生からショパンの研究者、演奏者として知られる下田幸二さんのもとで、また桐朋女子高等学校に入ってからは、1990年ショパン国際ピアノコンクール入賞者の高橋多佳子さんのもとで学んだ。
「下田幸二先生からは、テクニックや曲の組み立て方などの基礎、そして特にショパンについては、楽譜の読み解き方について教えていただきました。そして高橋多佳子先生のレッスンでは、ピアニストならではの視点でくださるアドバイスから多くのことを学びました。先生の演奏それ自体も、とても刺激になります。ショパンコンクールに出る前には、高橋先生が出場された時のコンクールの演奏も聴きました」
実際ショパンコンクールの舞台に自ら立ったときは、「子供の頃から知っていたあの場所だ、という気持ちでいっぱいだった」という。
「ワルシャワ・フィルハーモニーホールの響きの中でショパンを聴くことや、ショパンの存在が街になじむ雰囲気を感じることで、ショパンがより身近で大切な存在になりました。演奏家にとってコンクールがすべてだとは全く思っていませんが、参加することで、レパートリーを増やすことはもちろん、自分を見つめなおすきっかけにもなると感じています」
そんな2015年のショパンコンクールの舞台で野上さんがパートナーに選んだのは、ヤマハCFXだった。
「子供の頃からヤマハを弾いてきていますから、タッチにも安心感がありました。やはり1次予選のエチュードなどでは、弾きやすさがとても大切です。そしてとにかく、華やかで安定した響きが魅力でした。低音が鳴ることで、全体的な響きもダイナミックによく鳴ってくれるように感じました」
桐朋学園大学研究科時代に師事した野島稔さんからは、「思い描く響きを“耳”でどう作っていくかを教えられた。ベースの響きが足りないといわれることが多かった」という。彼女は小柄なわりに大きな手の持ち主で、幅広い音を掴むうえでは恵まれている一方、「指が細いので、重さをうまく伝えることに意外と苦労してきた」という。だからこそ、楽器のポテンシャルが低音の響きを助けてくれるようなものだと、より自由な表現が可能になるのだろう。
「自分が力まなくても豊かに響いてくれるピアノは、理想的です。会場ですばらしい響きを持つピアノに出会えると、テンションがあがって演奏にも良い影響が出ます!」
「個性的な先生方や楽しい友人たちに恵まれて過ごした」9年間の桐朋学園での生活を終え、今は留学を視野に入れて新生活の準備をしている野上さん。
「自分の可能性を広げたいという気持ちがあります。例えばこれまでは、レパートリーとしてショパンを取り上げることが多かったですが、ドイツものや、バロック、古典派の作品に取り組んでいきたい。特に古典派の作品では少ない音で語ることが求められますから、音の種類を増やす必要があります。音の幅を広げることは、私の今の課題の一つでもあります」
大好きなピアノで聴く人に楽しんでもらうことが、この上ない喜びだという。新たな扉が開かれることで、今後の彼女の音楽にどんな変化が現れるのだろうか。
Textby 高坂 はる香
※上記は2016年7月1日に掲載した情報です。