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三浦 友理枝 さん(Miura Yurie) ピアノはチャレンジする存在、気軽に友達や恋人とは呼べません。 この記事は2012年2月13日に掲載しております。

ピアニストの三浦友理枝は、昔から演奏するプログラムに非常に凝る人である。ある作曲家と他の作曲家の共通項を見出し、それらの作品をとことん探求して組み合わせたり、ひとつのテーマをもとにしてさまざまな作品を研究し、思いもかけない共通点を見つけ出し、それらを有機的な方法で並べてみたり……。そうして仕上がったプログラムは、三浦友理枝の財産となり、今後の活動へのイマジネーションを喚起するものともなっている。

Profile

pianist 三浦 友理枝

pianist
三浦 友理枝
1981年東京生まれ。3歳よりヤマハ音楽教室に入会、1993年よりヤマハマスタークラスに在籍。江口文子、ヴェラ・ゴルノスタエヴァ、浦壁信二各氏に師事。2001年に英国王立音楽院に入学、クリストファー・エルトン氏に師事。05年7月同音楽院大学課程を首席で卒業。07年9月同音楽院・修士課程を首席で修了。95年「第3回ゲッティンゲン国際ショパンコンクール」第1位受賞。これを機にドイツなどでコンサート活動を開始。99年「第3回マリエンバート国際ショパンコンクール」最年少で第1位受賞。01年「第47回マリア・カナルス国際音楽コンクール」ピアノ部門第1位、および金メダル、最年少ファイナリスト賞、カルロス・セブロ特別メダル賞を受賞。06年9月には「第15回リーズ国際ピアノコンクール」にて特別賞を受賞した。02年ロンドン・ソロイスツ室内オーケストラとの共演でロンドンデビュー。04年には国際ショパン協会ウィーン本部の招きでリサイタルを行いウィーンデビュー。同年、ロンドン・ソロイスツ室内オーケストラと再共演。これまでに、東京フィルハーモニー交響楽団、読売日本交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、群馬交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、大阪交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、札幌交響楽団、広島交響楽団、九州交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、山形交響楽団、シンフォニア・ヴァルソヴィア、ポメラニア・フィルハーモニー管弦楽団、ジリナ国立室内管弦楽団、リエパーヤ交響楽団、ロンドン・ソロイスツ室内オーケストラ、カイロ交響楽団、フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州立交響楽団など国内外の主要オーケストラと多数共演している。10年には東京オペラシティ主催のリサイタルシリーズB→Cに出演し話題となる。また、仙台クラシックフェスティバルには3年連続(09,10,11年)で招かれている。「名曲リサイタル」「ベスト オブ クラシック」「クラシック倶楽部」「みんなのショパン」などテレビ、ラジオの出演も数多い。室内楽の分野でも積極的な活動を展開しており、オランダ人ヴァオリニスト、シモーネ・ラムスマとはエルガーのCDをリリース(NAXOS)、イギリス、オランダ等でコンサート・ツアーも行った。また09年には川久保賜紀(ヴァイオリン)、遠藤真理(チェロ)とピアノ・トリオを結成、10年には全国ツアーを行い好評を博す。05年、エイベックス・クラシックスよりCDデビュー。これまでにソロ・アルバム4点と、川久保賜紀、遠藤真理とのトリオのCDをリリース。10年にリリースした「ショパン:24のプレリュード」は「レコード芸術」(音楽之友社)で特選盤に選ばれた。
三浦 友理枝オフィシャルサイト
※上記は2012年2月13日に掲載した情報です

ピアノはチャレンジする存在、気軽に友達や恋人とは呼べません。

「2011年はコンチェルトの演奏が多く、各地でモーツァルト、ベートーヴェン、ショパンなどのコンチェルトを演奏しましたが、今年はソロ・リサイタルが多くなりそうです。私はいつもリサイタルのプログラムを考えるときには自分に高いハードルを課してしまう。
だいたい1年半ほど前にプログラムを提出するのですが、その時点であれもこれもと弾きたい作品を欲張って入れてしまうのです。そして本番の半年ほど前、実際に仕上げていく段階になって後悔することが多い。ええっ、こんな難しい曲を組んで、どうしようって(笑)。でも、自分で決めたわけですからやるしかない。いつもその繰り返しですね」

自分にきびしく、常に前向き。難しい作品に取り組むことを喜びとし、過酷な練習を乗り越え、本番では120パーセントの力を出しきる。そして再び高いハードルを前に置き、それを飛び越えていくことを目指す。

そんな彼女が渾身のプログラムでコンサートに臨んだのが、2010年9月7日に行われた「東京オペラシティ リサイタル・シリーズ B→C(ビー・トゥー・シー)」という人気シリーズに出演したときだった。これはバッハからコンテンポラリーへというテーマをもとに、演奏家が独自のプログラムを組むもの。多数の演奏家のなかから選ばれ、事前にプログラムの構成と内容に関してレポートも提出しなければならないというきびしさ。それに当選し、ようやく準備に入ることになる。
「B→Cは以前から憧れていたんです。いつか出られたら、と願っていました。思いっきりこだわりの選曲ができるものですから(笑)。実際に出演してみたら、お客さまがとても熱心に聴いてくれ、プログラムを喜んでくださったのですばらしい思い出となりました。私にとっては生涯忘れられないリサイタルです」
これは課題として「バッハ」と「現代音楽」が出されている。彼女は「フランス音楽」「20世紀前半の音楽」「シマノフスキ」を選曲した。これらをつなぐキーワードは「ポリフォニー」と「悲劇性」。当日はラヴェル、メシアン、リゲティ、バーバーなどで真価を発揮した。
「ピアニストにとって、多声音楽を完璧に弾き分けることこそが究極の超絶技巧なのでは、と考えたからです」

三浦友理枝は、2007年9月に英国王立音楽院の修士課程を首席で卒業しているが、その修士課程の卒業試験の論文も非常に凝っている。ショパン、シマノフスキ、スクリャービンの「マズルカを核としたピアニズムの共通点」をテーマに選んだのである。
「ショパンは子どものころから大好きな作曲家で、長年さまざまな作品を演奏し続けています。シマノフスキも大好きですので、各々のマズルカをくらべてみました。そしてスクリャービンをそこに加えてひとつのテーマとしました。これは論文だけでなく、1時間の演奏も行う形式。先生たちからは、確かに似ている、ユニークなテーマだといわれました」
こだわりの選曲はここでも発揮されたのである。そしてこれだけにとどまらず、今後もこの3人のマズルカはもっと追究していきたいと意気込みを示す。

「シマノフスキは作風が変遷していますので初期はショパンと並べ、中期はラヴェルやスクリャービンとくらべ、後期はバルトークとも考え合わせました。スクリャービンはポーランド人ではありませんが、マズルカには特有の響きというか、いわゆる“スクリャービン語”が存在しています。ショパンもポーランド各地に残る民族舞曲を聴いて自身の音楽に投影していますが、シマノフスキも民衆の歌っていた曲を採取し、リアルな旋律を書いています。本当にこういうテーマは興味が尽きないですね」
そして今年のリサイタル(3月28日 東京文化会館小ホール 19時開演)にも、意欲的なプログラムを用意している。今年はドビュッシー生誕150年のメモリアルイヤーだが、そのドビュッシーの「前奏曲集」第1巻より「音と香りは夕暮れの大気にただよう」からスタート。同じくドビュッシーの「ベルガマスク組曲」より「月の光」へと続け、フォーレの「ノクターン第13番」へと進み、プーランクの「ナザレの夜会」で前半を終える。
後半はメシアンの「鳥のカタログ」より第6曲「モリヒバリ」から開始し、ラヴェルの「夜のガスパール」の3曲を演奏し、ラヴェルの「鏡」より「道化師の朝の歌」で幕を閉じるという趣向だ。

「私はラヴェルがすごく自分に合うと思っているんです。デビュー以来少しずつ録音もしてきましたし、コンチェルトもトリオも演奏しています。ラヴェルは突き詰めていく音楽で、楽譜にスキがまったくない。音色の探求をした人ですし…。私はそこが好きで、今回のプログラムは《夜のガスパール》が弾きたくて、まずそこから組み立てていったんです。実は、このプログラムは《夜》がテーマで、曲順は夕暮れから明けがたにかけて時系列に並べているんですよ、凝っているでしょう(笑)。いろんな作品を思いっきり調べて、究極の形に仕上げています。演奏時間も考慮しながら。ドビュッシーから始めたのは記念の年を意識したわけではなく、偶然ですね。作品が導いてくれたのです。まず、夕暮れどきの歌から始めます。このタイトルに魅了されているんですよ。音で香りを表現する、音楽で匂いを表すなんて、すばらしいですよね。ここから聴いてくださるかたを異次元の世界へと導いていけたら、と考えています。そしていまでは私のアンコールの定番となっている《月の光》をシンプルに表現したい。昔はもっといろんなことを考えながら弾いていたのですが、いまはそれをそぎ落としてどんどん表現がシンプルになっています。そこから作品のよさを受け取っていただけたらと思います。次いでフォーレでは、この作品のすばらしさを教えてくれたホロヴィッツに感謝しながら、流麗さを表現したいと考えています。高校生のときにホロヴィッツの録音でこの曲を聴いて、作品に開眼したものですから」

彼女は、あまり演奏される機会に恵まれないが、作品自体がすばらしいという曲をいつも盛り込んでいる。このプログラムにも、なかなか演奏されないプーランクの「ナザレの夜会」が登場する。これは1930年から1936年にかけて作曲された作品で、前奏曲、8つの変奏、カデンツァ、フィナーレで構成されている。
「プーランクが、ナザレに住む叔母さんのサロンに集まった人々を音で描写した作品で、それぞれものすごくユニークなタイトルがついています。シニカルであったり、豊かなロマンが息づいていたり、とてもおもしろい曲想です。プーランクらしいおもちゃ箱にいろんな物が詰まっている感じ。ぜひ楽しんで聴いてほしいですね。後半のメシアンは、留学時代にメシアン・フェスティヴァルで《鳥のカタログ》のなかの2曲を弾いてから作品のすばらしさに目覚めました。今回は夜を意味する鳥を選んでいます。最後のラヴェルの2曲は、詩の結びつきを理解しなければなりませんし、音色の多彩さや難度の高いテクニックなどが要求される難しい音楽ですが、それらを求めたラヴェルの意図に少しでも近づく演奏をしたいと思っています。テーマは夜ですから全体が暗いのですが、最後はからっと明るく終わります。さて、アンコールは何にしようかしら。またまた考えるのが楽しみですね(笑)」

三浦友理枝はよく通る声ではっきり話す。テンポも速く、リズミカル。その語りはそのまま演奏を連想させる。8月にはフィリアホールでもリサイタルを行う予定だが、そのときはまたすべてのプログラムを一から組み直すという。この根性、気合い、好奇心、前進あるのみというエネルギッシュな姿勢は、聴き手に大きなエネルギーを与えてくれるもの。演奏からその熱き思いを受け取りたい。

Textby 伊熊よし子

三浦 友理枝 へ “5”つの質問

※上記は2012年2月13日に掲載した情報です