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© 三好 英輔
- pianist
高木竜馬 - ウィーン国立音楽大学及びイモラ国際ピアノアカデミー在学。故E.アシュケナージ、故中村紘子、P.B.スコダ、M.クリスト、B.ペトルシャンスキー各氏に師事。第16回グリーグ国際コンクールや第26回ローマ国際コンクール等、7つの国際コンクールで第1位。今後は東フィル定期公演デビューやオスロフィルとの共演、ウィーン楽友協会、エルプフィルハーモニー等でのリサイタルが予定されているなど、日本とウィーンを拠点に世界各地で演奏活動を続けている。NHK総合アニメ『ピアノの森』雨宮修平のピアノ演奏を担当。TV『題名のない音楽会21』を始め、TV、ラジオ、雑誌、等のメディアにも多数出演する。(公財)江副記念財団第35回奨学生。
※上記は2019年1月28日に掲載した情報です。
Q1.自分で影響を受けたと思われるアーティストは?
オーケストラの曲が大好きで、昔の指揮者だと、フルトヴェングラーやムラヴィンスキー、現代ではティーレマンが好きです。ウィーンのムジークフェラインでティーレマンがミュンヘンフィルを指揮した最後のツアーを聴きましたが、ブルックナーの5番が、口では言い表せないほどすばらしいものでした。良い演奏を聴くと、普通はここから学びたいとかすばらしいという具体的な考えが浮かびますが、この時はそれを超越していて、自分が響きそのものと溶け合っているような感覚になりました。人生の中でも数少ないそんな感覚が訪れて、衝撃的でしたね。
またピアニストでは、ラフマニノフ、ヨゼフ・ホフマン、エドウィン・フィッシャー、ホロヴィッツが僕のアイドルです。小学生の頃から、お小遣いをもらうとCDを買って、いろいろな演奏を聴いていました。10歳頃の僕にとっては、ホロヴィッツ、ソフロニツキー、ギレリスの3人がアイドルで、硬い音ならギレリス・フィンガー、ツヤを出すような音はホロヴィッツ・フィンガー、その間がソフロニツキー……だなんて言いながら、3人の音を真似して弾いていました。
現代のピアニストで好きなのは、少し前に聴いたばかりのソコロフ。全ての音に魂がこめられ、顕微鏡で眺めても美しい、俯瞰してみてもすばらしい建物ができているような、奇跡的な演奏でした。
また、同年代だと、ダニール・トリフォノフと、ルーカス・ヴォンドラチェクが好きです。
自分が目指したいスタイルがあったとしても、違うものを聴かないと幅を狭めることになってしまうと思うので、できるだけ会場で生の演奏を聴くようにしています。
Q2.ヤマハピアノに対するイメージと印象は?
理想の楽器を目指し、少しでも良いものをというヤマハのみなさんの想いからこの楽器ができていることを感じます。イモラでもウィーンでも学校にヤマハのピアノがありますが、学生たちは、ヤマハのピアノがある練習室にあたるとみんな大喜びします。それくらいの安心感がある、世界で最も信頼されているブランドです。
ピアニストは会場ごとに置かれたピアノで演奏しなくてはならず、それは新しい出会いがあるという意味で楽しいことでもあり、大変なことでもあるのですが、やはりそのピアノがヤマハだとわかった時の安心感は大きいですね。無理な力をかけなくても、豪華な響きが出る、心強い楽器です。ヤマハのみなさんの努力の結晶として生まれた楽器に、自分は少しでも応えたいと思っています。
Q3.あなたにとってピアノとは?
究極をいうと、生きている意義そのものです。そして、伝統や歴史を継承して現代によみがえらせることのできる、大切な楽器でもあります。他の楽器にもそれぞれの魅力があるなか、僕はたまたまピアノを弾いているわけですが、やはり作曲家たちも多くはピアノで実験をしながら曲を作っています。ピアノはそんな、軸になり得る楽器だと思います。
過去に行くことができ、未来の世界も描くことができて、時には深海や地底深く、天上界、時間軸を取り払った森羅万象の世界と、あらゆるものを表現できる可能性を秘めているのがピアノです。無限の可能性があるからこそ、ピアノの表現を会得することは、一生かけて学び続けたいことです。
クリストフ先生が以前、ピアニストとして歩むなら、自分を音楽に捧げなさいとおっしゃっていたことが印象に残っています。そんな、自分を捧げるだけの魅力と可能性のある楽器、それこそがピアノだと思います。
Q4.印象に残っているホールは?
やはり、ウィーンのムジークフェライン大ホールで弾いたのは、夢のような時間でした。ウィーンに暮らしていた僕にとって、世界で一番憧れていたホールです。リハーサルではお風呂場で弾いているかのような響きだったのですが、お客さまが満員になったらちょうどよくなるところなど、さすが伝統のホールです。あの感動は忘れませんし、また戻れるように頑張りたいと思っています。
Q5.ピアノを学ぶ(楽しむ)方へのメッセージ
音楽は人を豊かにするもので、だからこそクラシック音楽は何百年も時空を超えて人の手から手へと継承され、現代まで伝わってきたのだと思います。それぞれの作曲家は、先人から学び、新しいことを取り入れながら、自分が伝統の継承者になろうとしました。伝統という礎があるからこそ、新しいことを加えたものが、良い形で次の継承者に渡されてきたのだと思います。
その一員となるためには、歴史や同時代の他の芸術に触れること、そうして少しでも作曲家に近づくことが大切だと思います。僕自身も、これを続けていきたいと思います。
また、ホールに出かけて生の音楽を聴くということも財産になると思います。ネットなどで手軽に聴けることは、便利ですばらしいのですが、やはり実際ホールで音を聴くと響きが全然違います。奏者が音に魂を込めている姿に触れることは大切です。
伝統に学ぶということと、直接音を感じて魂を見るということの二つが、重要だと思います。