この記事は2019年1月28日に掲載しております。
2018年は、秋に行われたグリーグ国際ピアノコンクールに優勝、またTVアニメ「ピアノの森」で雨宮修平役の吹き替えピアノを担当するなど、活躍の幅を広げている高木竜馬さん。師に恵まれてきたと語る彼から、留学生活の中で考えるようになったこと、印象に残った先生の教えや、今後目指したいことについてお話を伺った。
© 三好 英輔
- pianist
高木竜馬 - ウィーン国立音楽大学及びイモラ国際ピアノアカデミー在学。故E.アシュケナージ、故中村紘子、P.B.スコダ、M.クリスト、B.ペトルシャンスキー各氏に師事。第16回グリーグ国際コンクールや第26回ローマ国際コンクール等、7つの国際コンクールで第1位。今後は東フィル定期公演デビューやオスロフィルとの共演、ウィーン楽友協会、エルプフィルハーモニー等でのリサイタルが予定されているなど、日本とウィーンを拠点に世界各地で演奏活動を続けている。NHK総合アニメ『ピアノの森』雨宮修平のピアノ演奏を担当。TV『題名のない音楽会21』を始め、TV、ラジオ、雑誌、等のメディアにも多数出演する。(公財)江副記念財団第35回奨学生。
※上記は2019年1月28日に掲載した情報です。
人生の幹となる部分を太く育てる
ピアニストの母の影響で、2歳でピアノを始めた高木竜馬さん。父も音楽愛好家でアマチュアヴァイオリニスト、4歳年下の妹もピアニストという、音楽があふれる家庭で育った。
「生まれた瞬間から決まっていたというくらい、ごく自然に、気づいたらピアノの道に進んでいました。他の選択肢を考えたことも、ピアノが嫌だと思ったこともありません。一年前と比べても、今のほうがピアノを弾いている時間が楽しいと感じます。勉強するほど知識が蓄積され、新しいものの見方ができるようになり、音を出す方法も増えていくからです。多分ずっとこうして、ピアノを弾くことがより楽しくなっていくのだろうと思います」
子供時代の恩師、エレーナ・アシュケナージ氏からは、ピアノだけでなく多くのことに取り組むよう推奨されたと振り返る。
「サッカーも好きで、毎週日曜日午前中はサッカー、そのあとピアノのレッスンに通っていました。ゴールキーパーだったので泥だらけになるのですが、公園の水道で頭を洗って着替え、レッスンに伺っていました。先生はやめなさいというどころか、1日4時間以上ピアノを練習してはダメ、友達と遊ぶことも大事だし、もっとサッカーに行きなさい、そもそも音楽家には運動神経や体力も必要だとおっしゃっていましたね」
音楽の道を心に決めていたにもかかわらず普通高校に進学したことも、幅広い知識を身につけ、「人生の幹となる部分を太くしたい」と考えたからだという。
「音楽だけをやっていたら、上に伸びるスピードは早いかもしれませんが、すぐに折れてしまう細い枝が伸びることになってしまうかもしれない。簡単にはびくともしない太い幹を作りたいと思って、普通校を選んだのです。音楽以外の畑で一流を目指す友達と知り合うことも必要だと思いました」
「音楽家の背景には、受け継いできた伝統や歴史があります。例えばクリスト先生は、オーストリア、ドイツの伝統を、ネイガウス門下のペトルシャンスキー先生は、ロシアの伝統を受け継いでいます。そんな先生方から、それぞれの国の伝統や歴史を学びたい。当時の世界情勢を知り、絵画や哲学を学んで、作曲家が本当は何を言いたかったのかを知りたいのです。
二人の先生はそれぞれタイプが異なるのですが、”楽譜にはすべてがつまっているから尊重する”という出発点は同じです。でも、進む道が違うため、同じ曲の同じ小節について正反対のことをおっしゃることも少なくありません。そんな複数の解釈を受け入れ、考えることで、ベストな表現を見つけていきたい。それが目的で、お二人のもと勉強しています」
複数の師から違うことを言われれば普通混乱しそうなものだが、それをプラスの環境と捉え、自ら考えて答えを見つけるのが彼のやり方だ。
「実際、どうしたらいいのと思うこともありますが、演奏には必ず自分なりの方針を決めて臨みます。幸運にも、これまでお二方が同時に客席にいる機会がないので、今のところは問題ないともいえますが(笑)」
音についての指導にも、印象に残るものがある。
「中村紘子先生からは、一音目でお客さまの心をつかみなさい、それに成功すれば、あとは好きなことができるようになるのよと言われました。また、クリスト先生からは、全ていい音を出したい、解釈を完璧に磨きたいと思うと大変な道が待っているけれど、ピアニストとして進んでいきたいなら避けられない、それが楽しさに変わる時が絶対にくるといつも言われます」
そんな音を生み出すパートナーとして、高木さんが良い楽器だと感じるのはどんなピアノなのだろうか。
「鍵盤に少し重みがあって、倍音がきれいに響いてくれるピアノ、金属的な輝きと、木のぬくもりの両方が感じられる響きのするピアノが好きです。
ヤマハのピアノには圧倒的な信頼感があり、どんな場所で弾いても期待以上の音が出てきます。CFXはピアノ自身が輝いた響きを持っているので、無理な力をかけなくてもホールの隅々まで音が届くため、奏者としては心強い存在です。これは、楽器づくりに携わる全ての方が、少しでもより良くしようという努力を重ねて成し得たことだと思います」
※上記は2019年1月28日に掲載した情報です。