この記事は2017年3月8日に掲載しております。

新譜は「メランコリー」

　斎藤雅広はソロ、室内楽、歌手との共演、さらにさまざまな曲の編曲まで幅広い活動を行い、2016年は1978年から1986年の間にNHKに収録された音源をまとめた「メフィスト・ワルツ、イスラメイ」、杉並公会堂10周年記念コンサート「華麗なる3重弾」という録音をリリースした。
こうしたCDは、斎藤雅広のピアニストとしての足跡をたどるものであり、音楽仲間とのコラボレーションを大切にする彼の生き方も映し出している。
「ぼくはいろんな人と共演するのが好きなんです。他のピアニストや歌手など、共演者とは互いに相手の体調に気を配り、そのなかで最大限の演奏をしようと考えています。全員がさまざまな場で演奏してきた経験を生かし、そのときその場を盛り上げる方法を熟知しています。ですから一度ステージを聴いてくださった人には、もう一度聴きたいと思ってもらえるよう力を尽くすわけです。録音も同じですね。何度も繰り返して聴きたいと思ってもらえるよう、選曲段階からあるイメージをもって取り組み、納得いくまでとことん練り上げていきます」
　彼は「お客さまが喜んで聴いてくれる作品を演奏していきたい」と語る、徹底したプロ根性の持ち主。それゆえ、大作のみならず、親しみやすい名曲や耳になじみのある小品なども積極的にプログラムに組み込む。

　新譜はプーランクの作品から名付けた「メランコリー／Melancolie」(ナミ・レコード）。これは10年前に軽井沢の大賀ホールで録音した作品が含まれ、ここにヤマハホールで新録音した作品を加えるという構成になっている。10年前の録音は、当時ヤマハピアノを購入した人への贈り物として製作された録音で、親しみやすい名曲の数々が収録されていた。しかし、これは非売品ゆえ、多くの人に聴いてもらうことはできなかった。
「最近になってこの音源を聴き直し、いい曲がたくさん入っているため、ぜひ世に送り出したいと思ったのです。そこで選曲を練り直し、新たに曲を加え、全体の流れを重視して1枚のアルバムにまとめました。新しい録音は、ヤマハホールでCFXを弾いています。時期もホールも調律の方もピアノも異なりますが、演奏しているぼくはほとんど変わっていない。ですから昔と現在の音源が違和感なく調和し、自然に聴こえると思います」