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桑原 志織 さん(Kuwahara Shiori) 奇跡の賜物のピアノ作品を通じて、感動を伝えられるピアニストになりたい。 この記事は2016年5月9日に掲載しております。

2016年3月に開催されたマリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクールで第2位を受賞し、今後の活躍が期待される桑原志織さん。2週間にわたるコンクールの日々を振り返りながら、これまでの歩み、今後の抱負などを伺った。

Profile

pianist 桑原 志織

pianist
桑原 志織
1995年東京生まれ。2014年第83回日本音楽コンクール第2位、岩谷賞(聴衆賞)受賞。2016年第62回マリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクール第2位、Youngest Finalist賞受賞。東京藝術大学附属高校在学中に、PTNA特級銀賞・聴衆賞・王子ホール賞、東京音楽コンクール第2位、ルーマニア国際音楽コンクール第1位・オーディエンス賞、福田靖子賞優秀賞等を受賞し活躍の場を広げる。2014年度ヤマハ音楽振興会奨学生。 これまでにソリストとして、十束尚宏指揮・新日本フィルハーモニー交響楽団、飯森範親指揮・東京交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、北チェコ・テプリツェフィルハーモニー管弦楽団等と共演。東京文化会館モーニングコンサート、日本財団、杉並公会堂等各地でリサイタルを行うほか、ホノルルNBCコンサートホールや、ウィーン国立音楽大学内フランツ・リストホールでの演奏会にも招かれて出演。2015年国際音楽祭ヤング・プラハでは、ドヴォルザークホール(プラハ)や在チェコ・ポーランド大使館にて演奏し、いずれも好評を博す。また国際アカデミーにて多くの著名な海外ピアニストの薫陶を受ける。現在、東京藝術大学3年在学中。伊藤恵氏に師事。学内にてアリアドネ・ムジカ賞受賞。江副記念財団第44回奨学生。東京藝術大学宗次德二特待奨学生。
※上記は2016年5月9日に掲載した情報です。

奇跡の賜物のピアノ作品を通じて、感動を伝えられるピアニストになりたい

4歳からピアノを習い始めたが、小さい頃はバレエや水泳など身体を動かす習い事の方が好きで、あまり練習しなかったと明るく語る。

「小学生の頃は発表会が近づけば一生懸命練習していましたが、普段は練習時間も短くて、専門の道に進むなんて考えてもいませんでした。中学生になった頃から少しずつ意識が変わり、中学2年のときに全日本学生音楽コンクールに参加して、突然練習量が増え(笑)、東京大会までしか進めませんでしたが、ステージで演奏するって楽しいなと思ったんです」

 のびやかに育ち、あまり緊張せずに本番を楽しむタイプ。ステージで演奏する楽しさに惹かれ、東京藝術大学音楽学部附属音楽高校に進学し、現在も師事する伊藤恵さんに出会った。

「現役のピアニストとして活躍している伊藤先生のレッスンは、いつも新鮮で刺激的です。美味しいものを食べるのも、きれいな景色を見るのも、様々な芸術に触れるのも、すべて自分の演奏のためとおっしゃる先生の演奏会は、ホール全体に独自の世界をつくり出していて、いつも感動させられます」

 伊藤恵さんの指導のもとで才能を開花させ、藝高2年のときに東京音楽コンクール第2位、藝大1年で日本音楽コンクール第2位・聴衆賞など、めきめきと頭角を現し、初めての海外でのコンクールとなったマリア・カナルス・バルセロナ国際音楽コンクールで、最年少ファイナリストとして見事に第2位を獲得した。


「応募したのは昨年の12月。その後、年末にリサイタルがあったり、お正月には飯森範親先生指揮、東京交響楽団との協演でモーツァルトのコンチェルトを演奏したり……、そして学校の学科試験、実技試験、気がついたら2月に入っていて、準備が間に合わず焦りました。特に今回初めて取り組んだ、ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番が間際まで仕上がらなくて大変でした。参加するかどうか迷いもありましたが、せっかく事前DVD審査に通ったのだからぜひ出場したいという思いで、出発直前まで必死に練習を繰り返してスペインに向かいました。」

 第1次予選で、バッハ《平均律第2巻第15番》、ベートーヴェン《ピアノ・ソナタOp.111》、ラフマニノフ《エチュードOp.39-1》、第2次予選で、池辺晋一郎《ゆさぶれ 青い梢を》、ラフマニノフ《ピアノ・ソナタ第2番》、ラヴェル《スカルボ》、セミファイナルで、グラナドス《アンダルーサ》、ストラヴィンスキー《ペトルーシュカからの3楽章》、リスト《ピアノ・ソナタロ短調》を演奏。わずか10日間足らずで、これだけの重量級の曲目を演奏するのは大変なことだ。

「第1次予選では58人中26番目の演奏順だったのですが、第2次予選からセミファイナルまでは2番目で、夜遅くに通過者が発表され、翌朝弾くことになり、体力、精神力ともに鍛えられました!」

 ファイナルのステージではトップ・バッター。マネル・バルデビエソ氏指揮、カタルーニャ・ユース・オーケストラとの協演で、ラフマニノフ《ピアノ協奏曲第2番》を生き生きと演奏し、会場から大きな喝采を浴びた。

「指揮者の方が、合わせてあげるから好きなように弾きなさいと言ってくださって、オーケストラの方たちも、本当に音楽が好きなんだなというのが伝わる熱い演奏で私を支えてくれました。歌うところはお互いに自由に歌い、世界遺産となっているカタルーニャ音楽堂の荘厳な雰囲気の中で、気持ちよく演奏できました」

 コンクール期間中、ヤマハCFXが桑原さんの心強いパートナーとなった。

「コンクールで弾いたヤマハCFXには、本当に助けられました。ヤマハヨーロッパ・アーティストサービスの調律師、花田拓郎さんがきめ細かく対応してくださって、「何か調律の要望があったら遠慮なく知らせて」と試弾の後におっしゃってくださいました。それで、私が2、3点お願いしたことが、本番でまさに絶妙に実現されていたのには驚きました。弾けば弾くほどインスピレーションが湧き、出したい音を自由自在に出すことができて、幸せな気持ちで演奏しました」

 初めての国際コンクールでの受賞をステップに、さらに大きく飛躍しそうだ。

「伊藤先生にいつも言われているのは、優れたピアノ作品は奇跡なのだということ。作曲家が作品に込めた想いを感じ取り、一音一音を大切に弾かなければならないと思っています。自分自身がその作品に感動していなければ、聴く人に感動は与えられない、そして、その感動を自分の言葉にして表現しなければならないという先生の教えを胸に刻んで、ゴールがない道を歩み続けたいと思います」

 おおらかに、ひたむきに、未来に向かって羽ばたこうとしている新星の今後の活躍が楽しみだ。

Textby 森岡 葉

※上記は2016年5月9日に掲載した情報です。