この記事は2018年2月22日に掲載しております。
東京藝術大学附属高校在学中に日本音楽コンクール優勝を果たし、ドイツで研鑽を積み、世界の数々の国際コンクールで成果を上げてきた佐藤卓史さん。帰国後はライフワークのひとつというシューベルトツィクルスをはじめ、ソロだけでなくデュオや室内楽でも活躍している。これまでの歩みと未来につながる活動についてお話を聞いた。
© Takaaki Hiratra
- pianist
佐藤 卓史 - 4歳よりピアノを始める。2001年第70回日本音楽コンクールピアノ部門第1位、併せて野村賞、井口賞、河合賞、三宅賞を受賞。03年秋田市文化選奨を受賞。翌年には史上最年少で第30回日本ショパン協会賞を受賞した。07年第11回シューベルト国際コンクールで第1位並びに特別賞を受賞。10年エリザベート王妃国際コンクール入賞。11年には第21回カントゥ国際コンクール(クラシック部門)で優勝し、12年11月の第8回浜松国際ピアノコンクールにおいても第3位および室内楽賞を受賞した。これまでに都響、東京フィル、東響、ミュンヘン室内管、シドニー響、ベルギー国立管等の公演に出演。室内楽奏者としても活躍しており、篠崎史紀、堀米ゆず子、大谷康子、山崎伸子、藤森亮一、澤和樹、佐藤俊介、カール・ライスター、山本貴志、米元響子などと共演している。最近では、ジョナサン・ノット指揮/東京交響楽団音楽監督就任披露演奏会、ユベール・スダーン指揮/広島交響楽団定期演奏会、現田茂夫指揮/NHK交響楽団地方公演に出演。録音においても多くのCDをリリースし、いずれも高い評価を得ている。なかでも佐藤俊介との共演によるCD「グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ集」(ナミ・レコード)は平成19年度文化庁芸術祭レコード部門《大賞》を受賞した。2014年より、シューベルトのピアノ関連器楽曲全曲演奏プロジェクト「佐藤卓史シューベルトツィクルス」を展開中。内外のアーティストから厚い信頼を寄せられ、今後の活躍が期待されるピアニストである。
BS ジャパン 「おんがく交差点」出演/毎週木曜23:00~23:30
▶佐藤卓史 公式ウェブサイト
※上記は2018年2月22日に掲載した情報です。
留学して、勉強に集中したかった
「それから生活が変わりました。昼は授業に出て、夜は演奏会に出演という日があり、また国際コンクールに挑戦するようになって、自分自身の音楽をもっと磨かなければならないと思うようになりました。演奏依頼があることはありがたいことですが、勉強に集中したい。環境を変える必要があると考え、留学を決めました」
たまたま聴講したアリエ・ヴァルディ氏のレッスンに感激し、数ヶ月後にマスタークラスに参加し、その場で猛アタックしたとか。氏も佐藤さんの実力を認め、氏が教授を務めるドイツのハノーファー音楽演劇大学に留学することとなった。
「先生には『もっと自由でいい』とよく言われました。型から抜け出して自由になるところに、アーティストとしての本領がある、ということなんです。先生は、演奏家として仕事をしていくための、実践的なアドバイスもくださいました。たとえば録音物(CD)をなるべく作れ、というもの。コンクール入賞したら、その賞金で録音し、コンサートの機会に売れなくてもいいから配る。それが次回のコンサート依頼につながっていく。その後も、生活費に余裕ができたら、また録音をする。もちろん高いレベルの演奏を録音しなければならないのですが、他の先生方からは聴けない貴重なお話だと思いました」
コンクールは「目から鱗」の体験の連続
数々の国際コンクールで優勝や入賞を重ねている佐藤さんだが、ファイナルに残れなかったショパン国際ピアノコンクールでは、貴重な体験をしたという。
「それまでは、ミスをせず誰からも文句を言われないような演奏をと、心がけていました。ところが、外国の参加者たちは、多少ミスしようがきちんと弾けていまいが、自分の長所をアピールすることに神経が向けられていました。彼らの方が審査員の評価も高く、聴衆の反応も良いのです。これはまさに『目から鱗』でした。ヴァルディ先生の『自由になれ』という言葉にも通じることでした」
入賞したエリザベート王妃国際コンクールも、思い出深い体験だった。
「ファイナル演奏前の1週間、ファイナリストたちは「シャペル」(寄宿舎制の音楽院)で合宿のような生活をします。電話もインターネットも禁止で、外界から隔絶された特別な時間です。ここで他の参加者たちとの交流もできました。ライバルだが音楽仲間でもあるという特別な関係の、同年代の人たちと音楽の話をする体験は、特別なものとなりました」
その翌年、開催地ブリュッセルでヴァイオリンの伴奏の仕事があり、コンクール事務局に挨拶に行った佐藤さん。「君は伴奏もするの?」と聞かれ「はい、アンサンブルは大好きです」と答えたら、後に公式伴奏者としての契約書が送られてきたという。
「ヴァイオリンとチェロの伴奏ピアニストを務めていますが、責任の重さを感じながらも、参加者たちの個性の違いを楽しませてもらっています。自分の勉強にもなっています」
※上記は2018年2月22日に掲載した情報です。