コンサートレポート

コンサートレポート

PIANO JOINT CONCERT KANA YOSHIHARA & YUHI OZAKI

2025年3月2日(ヤマハグランドピアノサロン大阪)

 ヤマハグランドピアノサロン大阪にて、ピアニストの吉原佳奈さんと尾崎有飛さんのジョイントコンサートが開催されました。演奏当時は昭和音楽大学の修士課程2年生として研鑽を積んでいる最中であった吉原さんと、すでに同大学の専任講師として後進の指導にもあたっている先輩の尾崎さん。それぞれにステージの異なる2人のピアニストが、多彩な演奏を繰り広げてくれました。

 前半は吉原さんが登場し、クレメンティの「ソナタ 嬰へ短調 Op.25-5」で幕開け。緊張感のある面持ちで弾き始め、第1楽章から丁寧な音づくりが光ります。一音を展開するごとに思索が繰り広げられるようで、スピードアップした第3楽章もその姿勢を崩すことなく上質な演奏を繰り出しました。
 続くはリストの「パガニーニによる大練習曲 第6番」。パガニーニによるモチーフがさまざまな超絶技巧とともに展開する変奏曲ですが、求められる技術力の高さに屈することのない安定感ある演奏。何度も繰り出される旋律を、じっくり表現したり、ときにはウィットを醸し出したりと、聴衆を飽きさせない工夫も十分です。
 雰囲気がうってかわり、穏やかに始まるのはショパンの「バラード第3番」。ポーランドのアダム・ミツキェヴィチの詩にインスパイアされているとされている文学的な作品にフィットするように、吉原さんの紡ぐ旋律の一つひとつに、まるでおとぎ話を伝承するかのようなさまざまなバリーションの語り口があったのが印象的でした。
 そして前半最後に演奏したのは、シマノフスキの「変奏曲」。歌心ある主題の旋律を控えめにほの暗く演奏した後、変奏を展開。それぞれの変奏ごとに特色を打ち出し、憂いや希望を感じさせるような明朗さ、もしくは繊細さを感じさせる一方で、その根底にある切なさや哀愁が会場を包み込み、吉原さんの音楽性をくまなく堪能できる時間となりました。

 後半に登場したのは、尾崎さん。最初のラフマニノフの「ヴォカリーズ」(A.リチャードソン編)ではたっぷりと歌い上げて演奏を開始します。続くラヴェルの「高雅で感傷的なワルツ」は、センセーショナルかつ華やかにスタート。第2ワルツで瞑想的な音楽を広げたかと思えば、軽やかと思いきや伸びやかでメランコリーさを感じさせる第3ワルツと、そこからなだれ込み洒脱に満ちた第4ワルツ、そして作品全体のクライマックスを飾る第7ワルツまで大きな山をつくり上げていき、謐けさの漂う第8ワルツでそっと作品を終えます。
 次は再度ラフマニノフを取り上げ、「前奏曲 変ニ長調」を演奏。会場中に響き渡るような重厚なハーモニーで幕を開けながら、徐々にリズミカルさと技巧性を増し、大きな滝をなすかのような荘厳さを成し、機敏に反応するCFXの音色を十分に引き出します。そして最後のバッハ=ブゾーニによる「シャコンヌ ニ短調」では、しっかりと主題であるモチーフを提示し、渦を巻くように変奏を積み重ね、堂々とフィナーレを飾りました。

 アンコールでは、吉原さんと尾崎さんがモーツァルトの「四手のためのピアノソナタ 第3楽章」を連弾で演奏。ラストにぴったりの華やかさと小気味の良さで、息の合った演奏で本公演を締めくくりました。

 終演後、おふたりからこの公演の感想のコメントをいただきました。

 吉原さんは、「出身地である大阪で演奏できたことはもちろん、大先輩である尾崎先生とご一緒できたことが何より光栄で幸せな時間でした。この会場は自分の音がダイレクトに響きますし、楽器も素直に応えてくれるため、難しくもありましたが、それは良い点でもあり、音のコントロールのしがいがありました」と充実した表情を見せてくれました。
 そして尾崎さんはCFXについて、「私自身がヤマハの楽器に慣れ親しんできたこともあり、現代に至るまでの進化を感じられました。フレッシュな楽器で、非常に弾きやすかったです」と感想を教えてくださりました。

Text by 桒田 萌、写真:武藤章