仲道郁代さんピアノ・リサイタル ヤマハCFXとプレイエルの2台を並べ、ショパンを紐解く
2016年11月13日(東京文化会館小ホール)
今秋にデビュー30周年を迎えた仲道郁代さんが、東京文化会館 小ホールにてリサイタルを開催しました。メモリアルイヤーの幕開けに選んだプログラムは、オールショパン。その舞台には、発売された2010年より東京文化会館小ホールに常設されているヤマハCFXと、1842年製のプレイエルの2台ピアノが並び、名曲の数々が演奏されました。
■プログラム
ショパン:
ワルツ第1番 変ホ長調 Op.18「華麗なる大円舞曲」
エチュード 変イ長調 Op.25 No.1「エオリアンハープ」
プレリュード第7番 イ長調 Op.28 No.7
ワルツ第7番 嬰ハ短調 Op.64 No.2
ノクターン第20番(遺作) 嬰ハ短調「レント・
コン・グラン・エスプレッシオーネ」
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22
マズルカ第13番 イ短調 Op.17 No.4
プレリュード第15番 変ニ長調 Op.28 No.15「雨だれ」
エチュード ハ短調 Op.10 No.12「革命」
エチュード ホ長調 Op.10 No.3「別れの曲」
バラード第1番 ト短調 Op.23
幻想即興曲 嬰ハ短調 Op.66
ノクターン第2番 変ホ長調 Op.9 No.2
ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53「英雄」
期待に満ちた拍手のなか登場した仲道さんは、まずデビュー30周年を迎えたことへの感謝を述べました。「秋の午後、ショパンにひたってください」と言ってヤマハCFXの前に座り、ワルツ第1番Op.18「華麗なる大円舞曲」でリサイタルがスタート。2010年より東京文化会館小ホールに常設されているヤマハCFXは、6年の歳月を経てさらに豊かな音色を醸し出し、この楽曲が持つ華やかさを際立たせました。続くエチュードOp.25-1「エオリアンハープ」をプレイエルで演奏すると、会場はショパンが生きた時代にいざなわれ、別世界に包まれました。
今回のリサイタルでは、現代の最高峰ピアノCFXと、ショパンが愛した19世紀のピアノプレイエルが並び、1部は2台の違いについてのレクチャーを、2部はプレイエル、3部はCFXによる演奏という三部構成で進められました。「ショパンと向き合ったとき、光をあててくれた」と仲道さんが話すプレイエルは、現代のピアノに比較すると全体の大きさはもちろん、鍵盤の深さ、重さ、幅すらも異なります。音量も小さく、音程も低くと様々な違いがある中、2台のピアノを行き来しながら名曲を次々と演奏される仲道さん。アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズOp.22では、前半をプレイエル、後半をCFXで弾き分けました。序奏部分は、滑らかで甘美な旋律が紡ぎだされ、プレイエルの特性を捉えて弾きこなすテクニックに脱帽。一転して、CFXで弾くポロネーズの冒頭はファンファーレが高らかに響き、突き抜けるような力強さと共に細かな音の粒が鮮明に映し出され、現代ピアノによる表現力の幅に感嘆せずにはいられませんでした。CFXが、“ショパン国際ピアノコンクール”で最も多くのコンテスタントに選ばれるピアノである所以を、垣間見たように感じました。
3時間にも渡る贅沢な内容をすべて終え、最後に仲道さんは次のように語りました。「ピアノは現在のスタイルが完成形だと言われていますが、メーカーの方々は常に研究を続け、新しい可能性にチャレンジしています。それは、演奏家や作曲家にインスピレーションを与えてくれると同時に、お客さまにも新しい音楽を届けてくれるでしょう。これからも、進化する楽器の誕生を願いたいと思います」
Text by 鬼木 玲子