個性あふれる清塚ワールドに大興奮!
2016年12月11日(長野市芸術館メインホール)
ピアニスト、作・編曲家、さらには俳優と、マルチな活躍を展開中の清塚信也さん。TVドラマ「コウノドリ」(主演:綾野剛)ではピアノテーマ、監修を手がけ、俳優としても出演を果たすなど、年々、活躍の幅を広げています。そんな清塚さんのピアノとトークによる楽しいコンサート「K'z PIANO SHOW 2016~知って 得して 笑得るクラシック~」が開催されました。
■プログラム
バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
モーツァルト:キラキラ星変奏曲
ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番《熱情》 第3楽章
ショパン:ノクターン第2番 作品9-2
リスト:愛の夢
ショパン:英雄ポロネーズ
清塚信也:代償
清塚信也:恋 映画「恋」より
清塚信也編:Four Seasons Medley
春よ来い(松任谷由実)
summer(久石譲)
枯葉(コズマ)
Merry Christmas Mr.Lawrence(坂本龍一)
~ドラマ「コウノドリ」より~
清塚信也:Maze,Blaze&Raze
清塚信也:Baby,God Bless You
清塚信也:Brightness
清塚信也編:ガーシュウィンメドレー
コンサートへの期待に、しだいに熱気が満ちていく開演前の長野市芸術館メインホール。2016年5月にオープンしたこの新しいホールを埋め尽くしたのは、小学生から年配の方まで、家族連れやグループ、一人でじっくり楽しみたい方などなど、実に幅広いみなさんです。
大きな拍手に迎えられ、清塚さんは軽く手を振って笑顔で登場。とてもロマンティックなハーモニーが柔らかく響いた瞬間、会場全体が一気に音楽に集中していきました。美しいメロディからやがて静かに《主よ、人の望みの喜びよ》が聴こえると、その繊細な音色に耳を奪われます。続く《キラキラ星変奏曲》の、星のまたたきのようなキラキラした響きは、1曲目とは対照的です。
このホールのヤマハグランドピアノCFXと清塚さん、そしてホールが一体となり、溶け合って、多彩な音色を響かせます。たった1音のピアニシモに聴衆が引き込まれる一瞬にコンサートの臨場感が生まれます。
ここでさっそくマイクを持った清塚さん。「世界に誇るホールで世界に誇るピアノが演奏できることが幸せ」という挨拶に、このコンサートのテーマでもある「知って 得して」の曲紹介が続きます。
プログラム前半に演奏するベートーヴェン、ショパン、リストといった作曲家たちが活躍したロマン派は「作曲家が音楽で個性を表現するようになった時代。歴史を知ると曲の聴き方も違ってくると思います」と聴きどころを解説。時に笑いを誘う軽妙なトークに作曲家のマメ知識や名曲誕生の背景などが折り込まれ、会場はすっかりなごんだ雰囲気に包まれました。ここで演奏へ。
《熱情》では深みのあるフォルテにほとばしるエネルギーを感じさせ、《ノクターン》のささやき声のような美しい響きで涙を誘い、《愛の夢》がとろけるような甘い香りを漂わせました。前半最後の《英雄ポロネーズ》には、祖国を思うショパンのあふれる想いが客席に届けられました。
演奏者みずからが音楽の歴史や作品にまつわるエピソードを語ることで、よりリアルに豊かなイメージを持って聴ける……。とても貴重な体験でした。
後半には、清塚さんがドラマや映画のために作った個性あふれる作品が演奏されました。「お芝居や映画制作に関わることは、子どもの頃からやってみたかった」の言葉通り、後半ステージはまさしく清塚さんの真骨頂。
映像が浮かぶかのような透明感あふれる《恋》のメロディは、聴く人それぞれのストーリーにも寄り添っているようでした。「想い入れの強い作品」と紹介されたドラマ「コウノドリ」からの3曲は、物語の深いテーマが音楽によって描き出され、大きく心を揺さぶりました。
音楽家という枠にとらわれず、多岐にわたる活動を通じて音楽やピアノの魅力を伝え続ける清塚さん。「音楽を生活の一部にしてほしい」「ライヴの楽しさを知ってほしい」という語りかけにも力が込もっていました。
最後に《ガーシュウィンメドレー》でさらなる超絶技巧を聴かせ、アンコールでは《エリーゼのために》や《トルコマーチ》、歌劇《トゥーランドット》のアリア〈誰も寝てはならぬ〉、《子犬のワルツ》……などなど、めくるめく超速メドレーを披露。音楽で人を喜ばせたいという清塚さんの想いがあふれ出た、興奮のクライマックスでした。
終演後のサイン会に長蛇の列ができていたのは言うまでもありません。
進化と挑戦をし続ける清塚さんの今後の活動から、ますます目が離せなくなりそうです。
Text by 芹澤 一美