コンサートレポート

コンサートレポート

クシシュトフ・ヤブウォンスキ氏 圧巻のテクニックと多彩な表現力で魅了!

2017年2月26日(ヤマハホール)

 1985年第ショパン国際ピアノコンクールでの第3位入賞をはじめ数々の国際ピアノコンクールで輝かしい成績を収め、現在はワルシャワのフレデリック・ショパン音楽大学で後進の育成にも携わるクシシュトフ・ヤブウォンスキ氏のピアノリサイタルが、ヤマハホールで行われました。

■プログラム
ドビュッシー:子供の領分
ラヴェル:水の戯れ
ラヴェル:夜のガスパール
ムソルグスキー(V.ホロヴィッツ、K.ヤブウォンスキ 編):組曲「展覧会の絵」

 冒頭、たっぷりと時間をかけてから鍵盤に触れると、独特のベールを纏った音色で「子供の領分」の1曲目「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」がスタート。快活な曲想ながらデリケートな音色と弱音のコントロールが要求される場面が多い中、完璧なテクニックとシフトペダルの多彩な効果により、いきなり会場の空気を一変させました。4曲目の「雪は降っている」では重なり合う旋律それぞれに異なる質感を与え、立体感だけでなく質量や温度の変化まで音色によって顕示し、5曲目の「小さな羊飼い」では絶妙なペダルコントロールによるレゾナンスをまるで残り香のように漂わせる効果を見せるなど、各曲で高度な表現力を見せました。

 続いてラヴェルの「水の戯れ」。ドビュッシーと同様に独特な音色から入りますが、明らかにドビュッシーとは異なる、少し凝縮して硬質にしたクリスタルのような分離の良い音粒を会場中に振りまきます。曲が進み構造が複雑になってきても全く澱み無く、提示部のテンポをキープして文字通り水のように曲が流れていくあたりは確固たるテクニックの証と言えるでしょう。

 前半の最後は同じくラヴェルの「夜のガスパール」。1曲目の「オンディーヌ」で全体を支配するアルペジオでは繊細さだけでなく劇的なデュナーミクの変化を引き出し、スケールの大きさを感じさせます。「絞首台」では低音弦の震えが不気味な空気を増幅させ、それまでホールに包まれていた幻想的な香りをガラリと変えました。そして「スカルボ」ではその不穏な音色引き継ぎつつ、一瞬の間を置いて小悪魔「スカルボ」が現れる瞬間にはまるで会場に風圧を感じさせるような鋭い切れ味で衝撃を与えます。ヤマハCFXの性能をフルに引き出すかのように、曲中のあちこちに散りばめられた高速連打も一点の曇りもなく軽快に捌き、その後も凄まじいスリル感で一気に駆け抜けて前半を締めくくりました。

 後半はムソルグスキーの「展覧会の絵」。ヤブウォンスキ氏自らも編曲に手を加え、一層すっきりと、かつ厚みを感じさせる仕上がりです。
 横に流れるような前半のフランス近代作品の数々から一転、縦のラインを基軸に積み上げていくような冒頭のプロムナードではここまでとはまたひと味違う剛健な音色をヤマハCFXから紡ぎだします。「卵の殻をつけた雛鳥の踊り」では軽快な指さばきで雛鳥の小気味よい動きをコケティッシュに表現する一方、「小人」や「サムエル・ゴルデンベルクとシュムイル」などではドラマティックな場面転換を見せるなど押し引きの絶妙な表現力。またそれらをつなぐプロムナードの空気感にも工夫が凝らされ、次に現れるシーンへの予感や期待を聴衆からグイグイと引き出していました。
「バーバ・ヤーガ」で一気に爆発したエネルギーの余波を引き継ぎ、最終曲の「キエフの大門」では剛性の高い下支えの上にスケールの大きなフィナーレを築き上げていきます。「バーバ・ヤーガ」の攻撃的な曲調の後で、弾き手によっては細って聴こえないよう鍵盤を叩きつけてしまいがちになるところですが、重心を低く置き脱力しながら余裕を持って楽器を鳴らし、もはやピアノソロではなくオーケストラを目の当たりにするような圧倒的な重厚感で締めくくり、会場から万雷の拍手が起こりました。

 熱気に満ちた会場から呼び戻され、更にアンコールを3曲。ピアソラの「オブリビオン」では憂いを帯びながらゆったりとロマンティックな表情を見せ、続くショパンのエチュード「黒鍵」では一転、驚異的なスピードで駆け抜ける高度なテクニックに客席からも大喝采。最後はバッハの「いざ来ませ、異邦人の救い人よ」で厳粛な締めくくりとなりました。

 終演後、ヤブウォンスキ氏は「最高のピアノ、最高のホール、最高の調律師。パーフェクトな条件でこれ以上望みようがなかった!」と笑顔でコンサートを振り返りました。ヤブウォンスキ氏の手によってヤマハCFXの幾千もの音色と幅広いダイナミクスが最大限に引き出された充実のコンサートは、聴衆にとっても奏者にとっても興奮冷めやらぬものとなりました。

Text by 編集部 Photo by Ayumi Kakamu