カナダが生んだ2人の名手の饗宴!
マルク=アンドレ・アムラン&シャルル・リシャール=アムラン
2024年9月14日(神奈川県立音楽堂)
超絶技巧作品や知られざる作品の名演で圧倒的な人気を集めるマルク=アンドレ・アムランさんと、第17回ショパン国際ピアノコンクールの第2位入賞後活躍の場を広げるシャルル・リシャール=アムランさんの「二人のアムラン」によるデュオリサイタルが行われました。
前半は2台ピアノ作品として有名なモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K448」からスタート。高らかに歌い始める第一音目から、堂々とした音色が2台のヤマハCFXから響き渡ります。二人による目まぐるしい掛け合いが繰り広げられながら進んでいきますが、確かな技巧の持ち主の二人のアムランの手にかかれば音色がべたつくことは一切なく、さわやかで軽快な音の粒たちがホール内を満たしていきます。第二楽章ではゆったりと、朗々と長い息で歌い上げるメロディが印象的。そして第三楽章では再びテンションを上げて躍動感溢れる演奏にシフトチェンジ。繰り返される転調にもきめ細やかな音色の変化を見せ、世界の第一線で活躍する二人ならではの余裕すら感じられました。
続いて演奏されたのはショパンの「2台のピアノのためのロンド ハ長調 Op.73(遺作)」。もともとはソロ曲として作曲されたものが後に2台用に編曲され、当然ながらソロ版よりも音の厚みを増した内容となっていますが、ヤマハCFXならではの伸びと安定感のある豊かな低音が作品全体を大きく包み、煌めく高音部のパッセージと相まって作品全体の華やかさが際立ちました。演奏が終わった時点ですでに会場からはブラボーが飛び、後半の演奏への期待もさらに高まります。
休憩の後、後半はそれぞれが一曲ずつソロ演奏を披露。先にシャルル・リシャール=アムランさんがショパンの「華麗なるワルツ イ短調 op.34-2」を演奏すると、会場の空気が一変します。彼の持ち味である柔らかい美音が更に愁いを纏い、郷愁を誘うようなピアノの響きに聴衆も固唾を飲んで耳を傾けている様子が伝わりました。
次はマルク=アンドレ・アムランさんによるC.P.E.バッハの「ロンド ハ短調 Wq.59-4」。冒頭から鋭い打鍵で固めの響きにコントロールされた音色は、しかしながら豊かな倍音を含んで次々と紡がれていきます。所々に現れる静寂にも緊張感をたっぷり加え、ラストまで一気に弾き切りました。
1曲ずつのソロ演奏が終わると再び2台ピアノでの演奏に戻ります。続いてはメトネルの「2台のピアノのための2つの作品 Op.58」。1曲目の「ロシアの踊り」ではタイトルの通りリズミカルなメロディが繰り広げられますが、ロシア的な大きな音圧で圧倒するのではなく少しほのぼのとした、かわいらしさもある作風。二人のアムランはここでもまたキャラクターをガラリと変え、少しユーモラスな表情も加えていきます。2曲目の「遊歴の騎士」はゆったりとしたフーガ的な序奏から一転、切れ味鋭いテンポとタッチに切り替わると二人の音色が激情的に絡み合いながら展開していきました。
最後に演奏されたのはグレインジャーの「ガーシュウィンの歌劇『ポーギーとベス』による幻想曲」。ガーシュウィンが晩年に完成させたオペラ「ポーギーとベス」を題材とした編曲で、冒頭から目の覚めるような超絶技巧が二人のピアニストに要求されますが、二人のアムランはこれらも難なく飛び越えていきます。ブルース独特の気だるさも時に息を合わせるのが難しい部分ですが、二人の息はまるでぴったり。多くのジャズピアニストにも支持されるヤマハCFXならではの幅広い表現力も、こういった作風における二人の演奏に次々と応えていきました。
鳴りやまない拍手に対し、二人はアンコール曲としてマルク=アンドレ・アムランによる自作の「タンゴ」とシャミナードの「シンバルのステップ」を披露。最後の最後までバラエティに富んだ選曲と卓越した演奏に、客席の明かりが灯るまで拍手が鳴りやみませんでした。
演奏後、「今日のピアノは響きがとても豊かで大変演奏しやすかった」とマルク=アンドレ・アムランさんが語ると、シャルル・リシャール=アムランさんは「個性の違うピアノ同士だと2台ピアノのプログラムは難しくなるけれど、今日はそれぞれのピアノのキャラクターがぴったり合っていて素晴らしかった」と重ねてヤマハCFXについて述べられました。
終演後のサイン会も大盛況で、二人の再来日を早くも期待せずにはいられない一日となりました。
撮影:ヒダキトモコ
Text by 編集部