コンサートレポート

コンサートレポート

ソロ、室内楽、指導と多岐にわたる活動に意欲的に取り組んでいる若手実力派ピアニスト、平山麻美さん。文化庁と日本演奏連盟が主催する新進演奏家育成プロジェクト〈リサイタル・シリーズ〉に登場し、ベートーヴェン、ブラームス、ショパンの晩年の作品を中心にしたプログラムを、味わい深く聴かせた。

2019年12月24日(東京文化会館小ホール)

■プログラム
バッハ:イタリア協奏曲 へ長調 BWV971
ベートーヴェン:ピアノソナタ第30番 ホ長調 作品109
ブラームス:4つの小品 作品119
ショパン:マズルカ 作品59
ショパン:ピアノソナタ第3番 ロ短調 作品58

 キラキラとラメが入ったシックなブルーのドレスで登場した平山麻美さん。バッハ《イタリア協奏曲》を、ヤマハCFXの天上から降り注ぐような鮮烈な音色でみずみずしく奏で、クリスマス・イヴのステージの幕を開けた。
 続いてベートーヴェン《ピアノソナタ第30番》。晩年のベートーヴェンがフーガと変奏曲の様式を探求しながら創作した珠玉の作品を、抒情豊かに楽しませてくれた。とくに第3楽章では、主題と6つの変奏曲からなるポリフォニックな楽想の絶妙な展開が、ベートーヴェンの指示記号「歌うように、心の奥から感情を込めて(アンダンテ・モルト・カンターヴィレ・エド・エスプレッシーヴォ)」の通り、神との対話のように色彩豊かに描き出され、聴衆を深い感動で包んだ。

 前半のステージを締めくくったのは、ブラームス最後のピアノ作品、《4つの小品》。ヤマハCFXの重厚で繊細なニュアンスに満ちた音色が、ブラームスの晩年の心境を映し出すように平山さんの演奏に寄り添い、温かな情緒あふれる音楽が会場いっぱいに広がった。

 後半はショパン・プログラム。ショパンが故郷への想いをポーランドの民族舞曲に託して生涯を通じて日記のように綴ったマズルカの中で、とくに美しく洗練された作品として知られる作品59の3曲は、持病の悪化、最愛の恋人、ジョルジュ・サンドとの破局など、辛いことが重なった時期の作品だが、当時のショパンの心情に迫るような哀しさと優しさを秘めた演奏で、幻想的な世界を繰り広げた。そして《ピアノソナタ第3番》。冒頭からヤマハCFXの華やかで充実した響きを操り、34歳の若き晩年を迎えたショパンの渾身の作品をエネルギッシュに奏でた。第3楽章の中間部の陰影に満ちた荘重なコラールの美しさはまさに絶品。第4楽章の圧倒的なフィナーレでコンサートを締めくくり、鳴りやまない拍手に応えてアンコールは、ショパン《ノクターン第2番》。静謐な響きで、聖夜のコンサートは幕を閉じた。

 終演後、この日の演奏のパートナーとなったヤマハCFXについて、平山さんは「ヤマハCFXには、初めて出会ったときからエレガントな音色という印象を持っています。今日も素敵な音色で私の演奏を支えてくれました。レガートの歌い回しの表現が、気持ちよくできて幸せでした。想ったことがそのまま音になる楽器です。リハーサル中に、ピアノ技術者の方にいろいろお願いしたところ、本番でそれがすべて実現されていて驚きました。今回のピアノはとくにショパンの作品に合っていて、ファンタジーあふれる多彩な音色で歌ってくれて、インスピレーションを刺激されながら演奏することができました」と語った。

Text by 森岡葉