2023年の第14回リヨン国際ピアノコンクールで史上最年少優勝を果たした八木大輔さんが、ショパン《ピアノ・ソナタ第2番「葬送」》とラヴェル《クープランの墓》を軸にしたプログラムを披露。ピアノとホールが響き合う空間に、古(いにしえ)へのオマージュと死者への想いが鮮やかに描き出されました。
2023年12月25日(ヤマハホール)
■プログラム
ショパン:ノクターン 第8番 変ニ長調 Op.27-2
ショパン:ピアノ・ソナタ 第2番 Op.35
クープラン:クラヴサン曲集 第2集第 第6組
5.神秘の防壁
クープラン:クラヴサン曲集 第3巻 第18組曲
6.ティク・トク・ショック、またはオリーブしぼり機
ラヴェル:クープランの墓
第1曲〈前奏曲〉
第2曲〈フーガ〉
第3曲〈フォルラーヌ〉
第4曲〈リゴードン〉
第5曲〈メヌエット〉
第6曲〈トッカータ〉
[アンコール]
シューベルト=リスト:アヴェ・マリア
ショパン:ポロネーズ 第6番 変イ長調 Op.53
2023年12月25日のクリスマスの夜、最初に演奏されたのはショパン《ノクターン 第8番》。ゆったりとしたテンポで、ひとつひとつの音を慈しむように美しい旋律が紡ぎ出されていきます。繊細な装飾音を煌めかせ、徐々に音量を増して歌い上げ、そのまま《ピアノ・ソナタ第2番》の序奏に入りました。激情と穏やかなテーマが交錯する第1楽章、躍動感あふれる第2楽章、そして第3楽章の「葬送行進曲」では、天国のような中間部を味わい深く奏で、ミステリアスな和声が渦巻く第4楽章まで、ヤマハCFXの幅広いデュナーミクを絶妙に操って、全体を隅々まで俯瞰した壮大なドラマを構築しました。
後半の冒頭、リサイタルのテーマについて「ショパンの《葬送ソナタ》とラヴェルの《クープランの墓》を組み合わせ、死者を想うイメージを考えた」と語った八木さん。後半のプログラムについては、「クープランの作品とラヴェルの《クープランの墓》を並べて弾くことで、どのような音楽的効果が得られるか試してみたかった」と語りました。
在籍している慶應義塾大学の石井明氏の自由研究セミナーで受講したチェンバロ演奏の経験を活かしたクープラン《神秘の防壁》では、ヤマハCFXからチェンバロのような典雅な響きを生み出し、《ティク・トク・ショック、またはオリーブしぼり機》では、右手と左手の音域が重なるフレーズを鮮やかなテクニックで弾き分け、バロック音楽を現代に蘇らせる生き生きとした演奏を楽しませてくれました。
ラヴェルがクープランの時代の組曲形式で、自身も従軍した第1次世界大戦で亡くなった友人たちとの思い出に捧げた《クープランの墓》では、透明感のある音色を美しく響かせ、ラヴェルの古(いにしえ)へのオマージュ、悲しみ、哀悼の想いを、しなやかなピアニズムで描き出しました。
大きな拍手に包まれて、アンコールはシューベルト=リスト《アヴェ・マリア》。「お葬式、お墓の後は祈りです」と語り、深い想いを込めた清らかな演奏が、この日のプログラムの意味を感じさせました。さらなる拍手に応えて、ショパン《英雄ポロネーズ》。若さあふれるみずみずしい演奏でリサイタルの幕を閉じました。
Text by 森岡葉