東京音楽コンクールの歴代入賞者が出演するリサイタルシリーズ「上野 de クラシック」のVol.36に、東京芸術大学の同期でもあるピアニストの今田篤さんと梅田智也さんが出演。ソロと2台ピアノによるジョイント・リサイタルが行われました。
2019年11月23日(東京文化会館小ホール)
今田篤さんと梅田智也さんは、東京芸術大学の同期で、高校3年生の頃からの友人同士。卒業後、今田さんはイギリスとドイツで、梅田さんはオーストリアで学び、その音楽性を育んだ。2018年の第10回浜松国際ピアノコンクールでは、梅田さんが日本人作品最優秀演奏賞を受賞、今田さんは第4位に入賞し、それぞれに演奏が評価された。
東京文化会館小ホールで行われたこの日のジョイント・リサイタルでは、そんな旧知の仲である二人が、ソロと2台ピアノの演奏を披露。 東京音楽コンクールの開催地であり、また、東京芸術大学の所在地でもある上野は、二人にとって思い出の詰まった場所だそうだ。
■プログラム
ベートーヴェン:創作主題による6つの変奏曲 ヘ長調 op.34(梅田)
リスト:「詩的で宗教的な調べ」より第7曲「葬送 1849年10月」S.173(梅田)
シューマン:ピアノ・ソナタ第1番 嬰ヘ短調 op.11(今田)
ブラームス:2台のピアノのためのソナタ ヘ短調 op.34b(今田&梅田)
前半は、ソロによる演奏。
最初にステージに登場したのは、梅田さん。ベートーヴェンの「創作主題による6つの変奏曲」では、空間に溶け込んでいくような音、力強く響きわたる音を巧みに鳴らしわけ、場面を切り替えながら、見事に構築されたベートーヴェンの変奏曲の魅力を伝えた。なかでも、終曲の最後にヤマハCFXから引き出された高音の繊細な響きが印象的だった。
曲間に、「学生時代から憧れていた東京文化会館での演奏を、二人ともとても楽しみにしていた」という挨拶をはさんで、ピアノの前で気持ちを落ち着けるような仕草ののちに、リストの「詩的で宗教的な調べ」より第7曲「葬送 1849年10月」が演奏された。幻想的な空気をまとって始まった音楽が、徐々にふくらんでいく。楽器が持つ表現の幅を生かし、ドラマティックな調べを奏であげた。
続いて今田さんがステージに登場。演奏前に話すのは緊張するといいながら、「今日は、ドイツ古典派のベートーヴェンから、彼を尊敬した、ロマン派のリスト、シューマン、そしてブラームスという良い流れのプログラムとなった」と語ったのち、シューマンのピアノ・ソナタ第1番の演奏へ。夢見るような音楽を、優しく滑らかなタッチで演奏する。めまぐるしく浮き沈みし、さまようようなシューマンの心情を丁寧に再現。感情が一気に解き放たれる場面では、CFXからクリアな音を響かせ、突然に光がさすような情景を見せてくれた。
後半はステージに2台並んだCFXにより、ファーストピアノ今田さん、セカンドピアノ梅田さんという形で、ブラームスの「2台のピアノのためのソナタ」が演奏された。両者とも豊かなあたたかい音を鳴らし、ブラームスの世界の幕を開ける。絶妙に音を重ね合わせ、静かな情熱を感じるブラームスらしい厚いハーモニーを紡いでいった。穏やかな音楽が流れる第2楽章では、肩の力の抜けた様子でナチュラルに歌う今田さんの音と、優しく丁寧にコントロールして奏でられる梅田さんの音、それぞれの美点が混ざり合い、立体的な音楽が流れる。終楽章では、それぞれの音を際立たせることで、オーケストラのようなスケールの大きな音楽をホールに響かせた。
互いに演奏を称えあったのち、客席からの大きな拍手を受けて、2台ピアノでの演奏についてそれぞれに一言。
「ソロは一人で作曲家と向き合わなくてはならないのでいつも心細いけれど、その恐怖も実は楽しみの一つ。でも今日のような2台ピアノでは、心から楽しみ、音楽だけに没頭できました」(今田さん)
「長い作品なので、体力的、精神的には大変ですが、この場を楽しみ、深い世界に行きたいという二人の想いが伝わっていたら嬉しいです」(梅田さん)
アンコールは、連弾による、ブラームスのワルツ集「愛の歌」より第1曲。甘く輝かしい歌声を思わせる音が、息ぴったりに鳴らされていった。
学生時代からお互いに刺激を与え合ってきたという二人によるリサイタルは、あたたかく穏やかな余韻とともに幕を下ろした。
Text by 高坂はる香