富士河口湖町で「富士山河口湖ピアノフェスティバル」が初開催。辻井伸行さんほか世界的ピアニストが参加し、4つの会場を舞台に4日にわたってコンサートを繰り広げました。最終日のガラ・コンサートでは、超贅沢なプログラムでピアノの多彩な魅力を堪能させてくれました。
2021年9月23~26日(河口湖ステラシアター、河口湖円形ホール、河口湖美術館ほか)
2002年8月に初めて開催された「富士山河口湖音楽祭」は、今や夏の風物詩としてすっかり定着しました。その20年目を節目として誕生したのが「富士山河口湖ピアノフェスティバル」です。辻井伸行さんをピアニスト・イン・レジデンスに迎え、第1回となる2021年は小曽根真さんや加古隆さん、三浦友理枝さん、アン・セット・シス(山中惇史と高橋優介)らが集結しました。
メイン会場は、古代ローマ劇場をほうふつとさせるすり鉢型の客席が印象的な〈河口湖ステラシアター〉。1995年に完成し、音楽の町のシンボル的存在でもあるこの劇場は、当初から住民の皆さんと一緒に運営していく計画だったそうで、そのため、企画から運営にいたるまで住民によるボランティア体制が確立しており、今回もその力が大きな役割を果たしました。
富士山河口湖ピアノフェスティバルのメインステージ「河口湖ステラシアター」
このフェスティバルは富士河口湖発の音楽文化を外に向けて発信していくと同時に、住民たちにも音楽をより身近に感じてもらいたいという目的もあり、辻井さんを招いて町内3校の小学生約280人を対象に音楽教室を行ったり、広大な芝生の公園や美術館で無料のプログラムを開催したりと、世界で活躍するピアニストたちが多様な魅力を伝えてくれました。
9月23日に開催された、辻井伸行 CHOPIN:THE BEST
9月24日に開催された、辻井伸行 音楽教室「この音 なに色」
9月25日に開催された、辻井伸行×山中惇史×高橋優介 ピクニック・コンサート
9月25日に開催された、小曽根真 60thBirthday Solo OZONE61 Classic × Jazz(写真左)と三浦友理枝 ミュージアムリサイタル《印象派》(写真右)
その最終日、9月26日にステラシアターで開催されたのは、ピアノ・フェスならではの豪華なガラ・コンサート。その名も「辻井伸行×加古隆×アン・セット・シス PIANO! PIANO!! PIANO!!!」。
万雷の拍手のなか、オープニングステージに姿を現した辻井さんはCFXの元へ。ピアニシモで始まる伴奏と幻想的なメロディーが、しんと静まり返った会場に響く。ショパン『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』が始まると、その研ぎ澄まされた演奏に会場中が惹き込まれていきます。
湖面を滑らかにわたっていくかのような優雅な音、そして後半の華やかで勇壮な響き……。劇場の雰囲気も相まって、美しさのなかにどこか哀しみと強さをたたえるその音は、観客の心を捉えて離しません。辻井さんにしか表現できないショパンで魅せてくれました。
魅惑的なステージが次から次へと展開するのが、このガラ・コンサートの贅沢さ。1stステージには、山中惇史と高橋優介というふたつの才能が出会ったピアノデュオ「アン・セット・シス」が登場しました。ステージ中央に向かい合わせで配された2台のCFXで、ジョン・ウィリアムズの映画音楽を演奏。唯一無二のオリジナルアレンジとデュオならではの広がりと厚みある響きで、聴き手を壮大な世界へと誘いました。
2ndステージは、映像音楽界の巨匠、加古隆さん率いるクァルテット。加古さんが弾くベーゼンドルファーとバイオリン、ビオラ、チェロの音が時にはひとつの声になり、時に語りかけ合い、ドラマチックな世界を紡いでいきます。映像音楽と四重奏の醍醐味が存分に味わえるステージとなりました。
ファイナルステージは、「辻井伸行with佐々木新平×東京佼成ウインドオーケストラ」。まず登場したのは、18人編成の東京佼成ウインドオーケストラです。『ジ・エンターテイナー』をはじめ、ラグタイムの巨匠、スコット・ジョブリンによる人気のラグが演奏されると、客席の子どもたちも音に合わせで体を揺らします。
ここで、辻井さんがステージに姿を現し、自身が初めて手掛けた映画音楽『神様のカルテ』を演奏。多くの人が心を震わせ涙した名曲が、オーケストラとともにさらなる情感をたたえ胸に迫ってきます。
ひときわ大きな拍手の後、この日初めて辻井さんからの言葉が。「ピアノソロ、ピアノデュオ、弦楽器や管楽器との共演など、フェスティバルを通してピアノという楽器はいろいろなことができることをわかっていただければと思います。最後の曲は、ガラ・コンサートにふさわしい曲です」
そして始まったのは、ガーシュウィン『ラプソディ・イン・ブルー』。印象的なクラリネットのグリッサンドに始まり、その後のピアノの独奏も圧巻。ジャズらしい響きと即興的な雰囲気に満ちたピアノソロをオーケストラが引き継ぎ、またピアノソロへ。再びオーケストラが登場し、掛け合いながら大迫力のクライマックスへ!
鳴り止まない拍手のなか、辻井さんがアンコールに応えてくれました。おなじみの『トルコ行進曲』に最初こそ手拍子を送っていた観客ですが、ファジル・サイ編曲の大胆なジャズアレンジと超絶技巧に息を飲んで聴き入るばかり。静かな興奮がありありと感じられます。このご時世でなければ、誰もが心の底から「ブラボー!」と叫んでいたことでしょう。
フェスティバルを終えた辻井さんは、「音楽教室では元気な子どもたちと一緒に曲を作ることができて楽しかったですし、子どもたちからの歌のプレゼントには感動しました。ピクニックコンサートで鳥の声を聞き、風を感じながら演奏するというのは貴重な体験で、とても気持ち良かったです。ステラシアターや円形ホール、美術館ではたくさんのお客様にお越しいただき、さまざまなピアノの魅力を楽しんでいただけたのではないかと思います。僕自身も小曽根真さんや加古隆さん、アン・セット・シスのおふたりの圧倒的な演奏を聴いて刺激を受けましたし、佐々木新平さん指揮、東京佼成ウインドオーケストラの皆さんとの共演はとても楽しかったです。来年は、もっと素晴らしいピアノフェスティバルにしていきたいと思います」とコメント。
これからの、秋の楽しみがひとつ増えそうです。
9月26日プログラム
■Opening 辻井伸行
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ
■1st Stage アン・セット・シス
ジョン・ウィリアムズ/山中惇史編曲:
《スター・ウォーズ》よりメインテーマ
《ハリー・ポッター》より『ヘドウィグのテーマ』『不死鳥フォークス』『ハリーの不思議な世界』
《ジュラシック・パーク》より『エンド・クレジット』
■2nd Stage 加古隆クァルテット
加古隆:白い巨塔
加古隆:それぞれの海
加古隆:テンペスト
加古隆:「映像の世紀」より『パリは燃えているか ~ピアノ・ソロ~』『ザ・サード・ワールド』『睡蓮のアトリエ』『パリは燃えているか ~エンディング』
■3rd Stage 辻井伸行 with 佐々木新平指揮 東京佼成ウインドオーケストラ
スコット・ジョプリン/三浦秀秋編曲:3つのラグ『ジ・エンターテイナー』『ソラス』『イージーウィナーズ』
辻井伸行/三浦秀秋編曲:神様のカルテ
ジョージ・ガーシュウィン/三浦秀秋編曲:ラプソディ・イン・ブルー
Text by 福田 素子
Photo by Tomoko Hidaki
■TV放送のお知らせ
辻井伸行in富士山河口湖ピアノフェスティバル~心の交流が生み出した色々な音楽たち~
放送局:BSフジ
放送日:2021年12月30日(木)19:00~20:55
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