コンサートレポート

コンサートレポート

高橋多佳子ピアノコンサート
ピアノと対話するように描き出された色彩感

2015年4月22日(東京文化会館小ホール)

第12回ショパン国際ピアノコンクール(1990年)で第5位に入賞、日本やヨーロッパでの演奏活動とCDのリリース、さらにはピアノ・デュオ、デュオ・グレイスと、意欲的な活動を展開するピアニスト、高橋多佳子さん。音楽評論家で夫君の下田幸二氏をゲストに迎え、トークと共に名曲の数々を演奏する「高橋多佳子ピアノコンサート」が開催されました。

■プログラム
J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ
モーツァルト:キラキラ星変奏曲
ベートーヴェン:エリーゼのために
ベートーヴェン:ソナタ第14番「月光」
ドビュッシー:小組曲より「小舟にて」「行列」(連弾)/共演:下田幸二氏
~トークコーナー~
「2015年第17回ショパン国際ピアノコンクールを占う」/ゲスト:下田幸二氏
ショパン:バラード第1番
ガーシュイン:ラプソディー・イン・ブルー

おごそかなバッハで幕を開けたコンサートは、客席の緊張をほぐす高橋さんの巧みなトークによって、すっかりなごんだ雰囲気に。続く「キラキラ星変奏曲」では、メロディーがさまざまに形を変えて変奏されるたびに、ヤマハCFXから色彩豊かな音が繰り出されていきます。強い光を放つ星のようにきらめく音、星雲を思わせる柔らかな音、響きの消える瞬間まで繊細な音……。それはまるで、刻一刻と変化する星空のようです。

続く「エリーゼのために」は、誰もが知る名曲でありながら、コンサートで弾かれることの少ない曲。高橋さんは、何度も繰り返される有名なテーマを異なる表情で弾き分け、「ピアニストはこの曲をどう弾くの?」という聴き手の興味にみごとに応えてくれました。前半のラストを飾った「月光」ソナタでは、低音の響きの深さとほとばしる情熱の余韻が会場を包み込みました。

休憩をはさみ、下田氏との連弾で後半がスタート。開催中(予備審査)の第17回ショパン国際ピアノコンクールにまつわるトークコーナーでは、コンクールで弾かれているCFXが「まろやかで深く、キラキラした音色」の素晴しい仕上がりであること、注目のピアニストは誰か、といった最新情報に接することができました。
そして演奏された「バラード第1番」「ラプソディー・イン・ブルー」。圧倒的な迫力と壮大なスケール感、繊細に響くピアニシモの美しさが、何度も心を揺さぶりました。ピアニストとピアノとが一体となり、対話をしているかのような演奏に拍手は鳴り止まず、アンコール、ショパン:「別れの曲」で、この場を共にした人々は今一度、心の内に感動を呼び起こしました。
バッハに始まり、ガーシュインへとピアノ音楽と共に時代を駆け抜けたひと時。ピアノという楽器の豊かな表現力と音色の魅力を堪能した一夜でした。

Text by 芹澤 一美