コンサートレポート

コンサートレポート

2021年8月に東京藝術大学で初めて開催された藝大ピアノコンクール。記念すべき第1回の受賞者3名が、みずみずしい魅力あふれる演奏を披露しました。

2022年4月13日(ヤマハ銀座コンサートサロン)

終演後の記念撮影。左から、曽根美咲さん、堀内龍星さん、荒川浩毅さん。



■〈第1位〉荒川浩毅
F.ショパン/ピアノソナタ第3番 Op.58 ロ短調

■〈第2位〉堀内龍星
J.ブラームス/6つの小品 Op.118

■〈第3位〉曽根美咲
J.S.バッハ/トッカータ ハ短調 BWV911
R.シューマン/ピアノソナタ第3番 Op.14 へ短調第1楽章

 2021年8月24日(予選)と27日(本選)に東京藝術大学にて開催された第1回藝大ピアノコンクール。ピアノを専攻する附属高校から大学院までの35名の学生が参加し、予選を経て6名が本選に進み、3名の受賞者が決定しました。審査委員は学外のピアニストや専門家で、参加者が新たな視点から将来への課題を探求することを目的とし、受賞者には奨学金と褒賞演奏会への出演の機会が与えられます。

 2022年4月13日、ヤマハ銀座コンサートサロンで行われた受賞者演奏会では、3名の受賞者が、それぞれの個性が際立つ鮮烈な演奏を聴かせてくれました。

 最初に登場したのは、第3位を受賞した曽根美咲さん。バッハ《トッカータ ハ短調》では、冒頭の単音の導入パッセージから充実した音色を響かせ、哀愁に満ちたアダージョ、多彩な表情を見せる長大なフーガをしなやかなテクニックで奏でました。さらにシューマン《ピアノソナタ第3番 第1楽章》では、若き日のシューマンのクララへの想いがあふれ出すような抒情豊かな音楽世界を繰り広げました。

 続いて登場した第2位の堀内龍星さんは、ブラームス《6つの小品》を演奏。ブラームスの晩年の境地が、詩情豊かに描き出されていきます。幻想的な第1曲「間奏曲」、優しさを湛えた第2曲「間奏曲」、力強いエネルギーに満ちた第3曲「バラード」、自由なカノン形式による愁いを秘めた第4曲「間奏曲」、青春の日々を追想するような第5曲「ロマンス」、深い精神性を感じさせる第6曲「間奏曲」、柔軟なピアニズムで、愛、喜び、哀しみなど、人間のさまざまな情感を温かく繊細に歌い上げました。

 休憩をはさんで、後半のステージに登場した第1位の荒川浩毅さんは、ショパン《ピアノソナタ第3番》を演奏。第1楽章の冒頭からヤマハCFXの色彩豊かな音色を自在に操り、たっぷりとしたフレージングで優美な曲想を清々しく描き出していきます。軽快でチャーミングな第2楽章のスケルツォ、荘重な美しさに満ちた第3楽章のラルゴ、華麗でスリリングなフィナーレを飾る第4楽章まで、強靭なテクニックでショパンの傑作ソナタを堪能させてくれました。

 終演後、曽根美咲さんは、「初めて開催されたコンクールだったので、とにかく受けてみようと挑戦しました。思いがけず賞をいただけてうれしいです。本選でも弾いたヤマハCFXは弾きやすく、まろやかな音色がサロンの空間を満たし、気持ちよく演奏できました。この春に藝大を卒業し、現在はヨーロッパへの留学を目指しています。私は手がとても小さいので、小さい手のためのメソッドやレパートリーを研究しながら演奏家、指導者を目指して研鑽を積みたいと思います」
 堀内龍星さんは、「付属高校3年生で参加したコンクールだったので、気負わず自分の音楽を自由に表現できたかなと思います。ヤマハCFXは、ブラームス後期の抒情的な歌にあふれた作品に敏感に応えてくれたので、インスピレーションを刺激されながら演奏しました。とくに低音の響きがすごく好きで、スッと弱音にしたときに色が変わる音色に魅せられました。これからの大学4年間で、音の深みを、身体の使い方を含めて追求していきたいなと思っています。聴いてくださる方の心に深い余韻を残せるような演奏家を目指しています」
 そして、荒川浩毅さんは、「準備不足で臨んだコンクールだったので、第1位という結果に驚きました。演奏の機会をいただけて素直にうれしく思っています。ショパン《ピアノソナタ第3番》は大好きな作品で、いつか弾いてみたいと思っていました。2月の半ば頃から取り組み始めたので、まだ完成度は低く、今後への課題を感じましたが、大切なレパートリーにしていきたいと思います。ヤマハCFXは弾きやすく、音がきれいに鳴って、響きをつくりやすい楽器だと思いました。自分の空気感をつくり、聴く人にほかの曲はどのように弾くのだろうと思っていただけるような演奏家を目指して努力していきたいと思います」と語ってくださいました。

 3人の受賞者の今後の活躍が楽しみです。

Text by 森岡葉