クララ・シューマンの生誕200年を記念して梅村知世さんが企画したシューマン夫妻の室内楽チクルス。最終回となるVol.3は、ヴァイオリニストの石原悠企さん、チェリストの佐藤晴真さんを迎えて、シューマン夫妻のピアノトリオを中心としたプログラムを楽しませてくれました。
2021年7月31日(ヤマハ銀座コンサートサロン)
■プログラム
R.シューマン:幻想小曲集Op.73
C.シューマン:ピアノ三重奏曲 ト短調Op.17
R.シューマン:5つの民謡風の小品集Op.102
R.シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調Op.63
東京藝術大学、同大学院修了後ベルリンに留学し、2021年7月にベルリン芸術大学国家演奏家資格課程を修了した梅村知世さん。第34回ピティナ特級グランプリ、第17回ロベルト・シューマン国際コンクール最高位など、数々のコンクールで輝かしい成績を収め、日本とベルリンを拠点に活躍しています。
シューマン作品の演奏と研究をライフワークとしている梅村さんは、シューマンの妻で
優れたピアニスト、作曲家でもあったクララ・シューマンの女性として、母としての生き方に感銘を受け、彼女の生誕200年を記念して、このチクルスを企画しました。第1回(2019年4月)はヴァイオリンとのデュオ、第2回(2019年8月)は歌曲、そしてコロナ禍のために1年半延期となった最終回の第3回は、ベルリンで共に学んだヴァイオリニストの石原悠企さん、チェリストの佐藤晴真さんを迎えて、シューマン夫妻のピアノトリオの作品を中心としたプログラムを聴かせてくれました。
冒頭に演奏されたのは、ロベルト・シューマン《幻想小曲集》。クラリネットとピアノのために書かれた作品ですが、ヴァイオリンやチェロなど様々な楽器で演奏されている美しい小曲集です。ピアノの揺れるような3連符に乗ってヴァイオリンがゆったりとした旋律をのびやかに歌う第1曲、ピアノとヴァイオリンの掛け合いがチャーミングな第2曲、情熱にあふれた第3曲、言葉を交わし合うような絶妙なアンサンブルで幻想的な世界が繰り広げられました。
続いてクララ・シューマン《ピアノ三重奏曲》。クララが書いた唯一のピアノ三重奏曲ですが、彼女の持ち味の繊細さ、優しさに加えてダイナミックで壮大な意志を感じさせる作品です。梅村さんがヤマハCFXから紡ぎ出す凛としたピアノの音色がヴァイオリンとチェロのニュアンスに富んだ音色と溶け合い、変化に富んだ抒情あふれる音楽を堪能させてくれました。
終演後、梅村さんは「シューマン夫妻のたくさんの室内楽作品を演奏する機会をいただき、とても幸せでした。クララの隠れた名作や、チェロの佐藤さんと演奏したロベルトの《5つの民謡風の小品集》など、演奏する機会の少ない作品に触れ、私とシューマンとの旅がさらに大きく広がっていくような予感がしています。ヤマハCFXは多彩な音色でチェロとヴァイオリンの音色に溶け合い、この瞬間にしか生まれない音楽の感動を生み出してくれました」と語り、佐藤さんは「人生で初めてシューマンの世界にどっぷり浸かり、素晴らしい経験をさせていただきました。この1年半ほど演奏の機会が減っていたので、演奏できることの幸せを感じながらシューマン夫妻の愛にあふれたプログラムを演奏しました」、石原さんは「ロベルトの《ピアノ三重奏曲第1番》は、ずっと弾きたいと思っていたので貴重な体験でした。クララの三重奏曲も、なかなか取り上げられない作品ですが、ロベルトにはないチャーミングな一面や素直な歌心が感じられ、楽しく演奏しました」と語ってくださいました。
Text by 森岡 葉