コンサートレポート

コンサートレポート

活躍が期待される8名の若きピアニストが登場
「ヤマハ ライジングピアニストコンサート Vol.11」

2025年5月16日、17日(ヤマハホール)

 可能性に満ちた若手ピアニストが登場する「ヤマハ ライジングピアニストコンサート」。第11回目を迎えた今回は、5月16日、17日の2日間に渡りヤマハホールで開催され、これから活躍が期待される8名がフレッシュで活き活きとした熱演を繰り広げました。

■5月16日(金)19:00開演

森永冬香 ———————————————————————✦
J.ブラームス:8つの小品 Op.76
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 鮮やかなブルーのドレス姿で登場した森永冬香さんは、カプリッチョ(奇想曲)とインテルメッツォ(間奏曲)が4曲ずつ構成されたブラームスの作品を披露しました。それぞれの特徴をよく捉え、奇想曲では重厚な音色やユーモラスで躍動感に満ちた演奏を、間奏曲では煌めく音色で優美さを際立たせたり、柔和な雰囲気を作り出したりと、表情豊かに8つの小品をつづりました。そして、終曲の第8番は、滑らかに流れるアルペジオで華やかに終結しました。

リュ・ジュンヒョン ——————————————————✦
F.J.ハイドン:ソナタ 第35番 変イ長調 Hob.XVI:43 Op.41-4
M.ラヴェル:「鏡」より第2曲「悲しい鳥たち」 、第4曲「道化師の朝の歌」
J.ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 第1巻 Op.35-1
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 韓国のリュ・ジュンヒョンさんは、快活で歯切れの良いタッチでハイドンのソナタを演奏したあと、ラヴェルの《悲しい鳥たち》では美しい音色で情景を描き、ストーリー性のある音楽を聴かせました。さらに、《道化師の朝の歌》では、繊細かつ正確な同音連打で高いテクニックを見せつけ、息を整えてから弾き始めたブラームスでは、ダイナミックでパワフルな面も披露。全体を通して、メリハリのあるプログラムを楽しませてくれました。

辻本莉果子 ——————————————————————✦
D.スカルラッティ:ソナタ ハ短調 K.56 L.356
G.クルターグ:ピアノのための《遊戯 第3集》 第32曲 Hommage à D. Scarlatti
F.J.ハイドン:ソナタ 第13番 ト長調 Hob.XVI:6
R.シューマン:アラベスク ハ長調 Op.18
S.プロコフィエフ:風刺(サルカズム) Op.17
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 シックな黒いドレス姿の辻本莉果子さんは、楽曲毎に十分に間を取り、作品ひとつひとつと対峙しながらプログラムを進めました。躍動感に満ちたスカルラッティ、短い曲ながらも張り詰めた空気が印象的なクルターグ、跳ねる音が小気味よく溌剌としたハイドン、優美で夢見るようなシューマン、そして力強く情熱がほとばしるプロコフィエフと、楽曲それぞれの特徴を表現するのはもちろん、どの作品にも辻本さんの個性が遺憾なく発揮されていました。

佐川和冴 ———————————————————————✦
F.J.ハイドン:ピアノソナタ第47番 ロ短調 Hob.XVI:32 Op.14-6
C.ドビュッシー:前奏曲集第2巻より第7番「月の光が降りそそぐテラス」、第12番「花火」
J.ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 第2巻 Op.35-2
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 佐川和冴さんが演奏するハイドンのソナタは、楽曲の構造が明確で、続くドビュッシーの2作品では、ハイドンの作品で見せた緻密さがそのまま引き継がれた上に、ドビュッシーならではの色彩豊かな音色が加わりました。ブラームスでは、ヤマハCFXから繰り出される迫力の低音で力強さをみせるだけでなく、メロディアスに歌うところもあり、多彩なバリエーションを披露。全体を通して、理知的で説得力のある音楽を聴かせた佐川さんの演奏で、1日目は幕を閉じました。

■5月17日(土)15:00開演

デイヴィッド・チョエ —————————————————✦
D.スカルラッティ:ソナタ ニ長調 K.491 L.164
M.ラヴェル:「夜のガスパール」より第3曲「スカルボ」
P.グレインジャー:リヒャルト・シュトラウスの歌劇「薔薇の騎士」 終幕の愛の二重奏によるランブル
F.メンデルスゾーン:幻想曲 (スコットランド・ソナタ) 嬰ヘ短調 Op.28 U92
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 デイヴィッド・チョエさん(アメリカ/韓国)は、軽やかなスカルラッティのソナタに続いて、迫真のラヴェル《スカルボ》を活き活きとしたタッチで奏でました。その後、じっくりと間をあけてから歌劇「薔薇の騎士」の《ロマンティックな愛の二重唱によるランブル》を繊細につづり、最後のメンデルスゾーンは、徐々に回転数をあげていくような勢いのある展開を披露。プログラム毎の明瞭な切り替えによって、多彩な世界を表現しました。

西本裕矢 ———————————————————————✦
F.ショパン:マズルカ風ロンド ヘ長調 Op.5
F.ショパン:24の前奏曲 Op.28より 第19~24番
F.ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22
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 「第19回ショパン国際ピアノコンクール」の予備予選を通過し、今秋に行われる本大会に出場する西本裕矢さんは、オールショパンのプログラムを披露。《マズルカ風ロンド》ではポーランドの民族舞踊のリズムに乗って煌めくメロディを歌い、《24の前奏曲》は雰囲気の異なる各曲で、可憐さや重厚さを的確に表現しました。また、《アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ》では、ヤマハCFXの艶やかな高音を美しく響かせました。どの作品も丁寧かつ着実な演奏で、観客を心地よくショパンの世界へ誘いました。

進藤実優 ———————————————————————✦
F.ショパン:ノクターン第4番 ヘ長調 Op.15-1
F.ショパン:ピアノソナタ第2番 「葬送」 変ロ短調 Op.35
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 上品な紺色のドレスに身を包んだ進藤実優さんのプログラムも、オールショパン。西本裕矢さんと同じく、「第19回ショパン国際ピアノコンクール」の本大会に出場します。進藤さんは、《ノクターン第4番》の1音目から聴衆を魅了し、表現したいことを演奏で明確に伝えました。楽曲の面白みが際立った《葬送ソナタ》では、まるで展開の早い物語の世界に身を投じたような気分になり、進藤さんの引き出しの多さに驚かされました。浮遊感と不安定さに満ちたフィナーレの第4楽章が終わると、会場のあちこちでため息がこぼれていました。

島多璃音 ———————————————————————✦
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻 第5番 ニ長調 BWV 874
G.リゲティ:ピアノ練習曲集 第1巻より第2番「開放弦」
F.リスト:巡礼の年 第2年「イタリア」より「ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲」 S.161/R.10-7 A55
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 トリを務めた島多璃音さんは、ホールの響きを確かめながら穏やかな笑顔を浮かべてピアノを奏でました。楽曲の構造を明確にしつつも、音楽的な美しさが際立ったバッハの平均律のあとは、幻想的なリゲティの《開放弦》で豊かな表現力を披露。さらに、《ダンテを読んで-ソナタ風幻想曲》では、自身の思いを解き放ってエネルギーを爆発させました。ラストは身体全体を使って激しい音色を轟かせ、圧巻の演奏で2日間のコンサートを締めくくりました。

Text by 鬼木玲子、写真:武藤章