コンサートレポート

コンサートレポート

国内外の有望な若い演奏家を迎えて開催を重ねてきた、ヤマハ・ライジングピアニスト・コンサート。東京で新型コロナウイルスの感染が拡大する直前、2020年2月末に行われた公演以来、半年ぶりの、4回目となるシリーズコンサートが、8月24日、25日の2日間にわたってヤマハホールで行われました。

2020年8月24日(ヤマハホール)

 若いピアニストたちにとって、聴衆の前に立ち、ホールで良いコンディションのコンサートグランドピアノを演奏することは、音楽を深めていくうえで不可欠な経験。
 しかし今年は数々の演奏会が中止や延期となり、秋に予定されていたショパン国際ピアノコンクールも、予備予選を含め、1年延期となることが発表されています。
 そんな中、今回の、ヤマハ・ライジングピアニスト・コンサートには、ショパン国際ピアノコンクールの予備予選にエントリーしている12名の国内の若手ピアニストが集い、オール・ショパンによるプログラムを届けました。
 ピアニストたちが次々と登場し、一つのピアノを演奏するスタイルでしたが、それぞれの演奏の間には、丁寧に鍵盤をクリーニングする対策がとられていました。

 初日の8月24日、一人目の演奏者となった三好朝香さんは、エチュードOp.25-5からスタート。ヤマハCFXの豊かに鳴る音を存分に活かして弾いたマズルカ第13番には、物憂げな雰囲気のなかにも力強さが感じられました。舟歌Op.60では、波打つ水面を想起させるような低音がたっぷりと響きます。自由な感性で間合いをとりながら歌う音楽に、自分だけのショパンを届けようという気持ちがよく現れていました。

 中川真耶加さんは、冒頭、4つのマズルカOp.30を、凛とした美しさを漂わせながら奏であげます。ニュアンスが細やかに変化する音楽は、フレーズごとに踊る足どりが変わるさまを思わせました。バラード第4番Op.52では、ピアノの豊かな音を巧みにコントロールし、時に胸のしめつけられるような感情を表現していました。

 木村友梨香さんは、ロンドOp.16と舟歌Op.60でピアノからやわらかい音を引き出し、ホールを満たしていきます。響きを大切にした演奏が印象的。とくに舟歌では、時折、空間に広がっていく音の行く先を見送るような表情を見せながら、繊細なハーモニーの変化をたっぷりと聴かせました。

 水谷桃子さんは、ノクターン第7番Op.27-1からスタート。一音目から大切に音を鳴らし、情念たっぷりの音楽を奏でます。エチュードOp.10-4は、技術的な余裕をもって、自由自在に表情を変化させていきます。スケルツォ第2番Op.31では、思い切りの良いタッチで、堂々としたエネルギッシュな音楽を届けました。

 伊藤順一さんは、バラード第2番Op.38とロンドOp.16で、統制のきいた音楽づくりを披露。ショパンとまっすぐに向き合おうという姿勢が感じられます。ロンドでは、伸びやかに歌う場面、細やかにステップを踏むような場面を描きわけます。この日唯一の男性ピアニストは、ホールにひときわ繊細な音を響かせました。

 野上真梨子さんは、4つのマズルカOp.24、エチュードOp.25-5、ワルツ第2番Op.34-1を演奏。どの小品でも、自然な流れとドラマを持った、品のあるショパンを聴かせます。なかでも、CFXから落ち着いた声色を思わせる音を鳴らして奏でたマズルカからは、東欧の秋の農村の風景が思い浮かびました。最後の音の余韻まで大切にした演奏で魅了しました。

8月25日のレポートに続く >

Text by 高坂はる香