コンサートレポート

コンサートレポート

国内外の有望な若い演奏家を迎えて開催を重ねてきた、ヤマハ・ライジングピアニスト・コンサート。東京で新型コロナウイルスの感染が拡大する直前、2020年2月末に行われた公演以来、半年ぶりの、4回目となるシリーズコンサートが、8月24日、25日の2日間にわたってヤマハホールで行われました。

2020年8月25日(ヤマハホール)

 翌8月25日、一人目の演奏者は、竹田理琴乃さん。ステージににこやかに現れ、プレリュードOp.45から演奏をスタート。空気をたっぷりと含んだようなやわらかい音で歌い、この日彼女が身につけていたドレスに似た、淡い色彩を思わせる音色がホールににじんでいきます。思い切りの良い音で始まった「華麗なる変奏曲」Op.12、音楽が次々と表情を変えるドラマティックなバラード第2番と、多様な表現力を発揮しました。

 続く重森光太郎さんは、即興曲第3番Op.51、エチュードOp.25-5、スケルツォ第4番Op.54を演奏。CFXから角の取れた重い音を引き出し、メリハリのはっきりとした音楽を奏でます。スケルツォでは、まっすぐに飛ぶようなクリアな音、輪郭のはっきりした音でドラマを描きあげました。
 興味深いのは、さきほどの竹田さんとは、全くタイプの異なる音色だったこと。密度が濃く、ずしりとした音によるショパンにも、また別の魅力がありました。
 こうした演奏会では、同じピアノも弾き手によって全く違う音がすることのおもしろさを味わうことができ、この2夜の演奏会でもたびたびそんな場面がありましたが、このお二人の間の音のタイプの違いは、特に印象深いものがありました。

 真っ白な衣装でステージに現れた小野田有紗さんは、ノクターン第7番Op. 27-1を、落ち着いた音で表情豊かに奏でます。フィナーレに向かって登りつめるように盛り上げていったバラード第1番、繊細な浮遊感が絶妙に表現されたバラード第3番は、いずれも詩情にあふれていました。低音で表現されるうごめくような空気、そこから抜けて光に向かっていくストーリーを見るようでした。

 開原由紀乃さんは、ノクターン第13番Op.48-1、マズルカ第13番Op.17-4と、憂いのある二つの小品で始め、会場を哀しく美しい音楽で満たします。十分に雰囲気をつくったところで、舟歌Op.60へ。ホールの響きの余韻を十分に活かしながら、ゆったりと流れるような演奏を聴かせます。しなやかさや繊細さ、華やかさを感じさせつつ、想いのこもった、ドラマティックな音楽をつくりあげました。

 沢田蒼梧さんは、演奏をはじめると、落ち着いた風貌のイメージが一転、音楽に没頭するような表情で、エモーショナルなショパンを届けます。丁寧に歌をつないで奏でた3つのマズルカOp.50は、懐かしい場所に思いを馳せるような第3曲が印象的。バラード第4番Op.52は、じわじわと感情を溜めて、フィナーレに到達すると、CFXの豊かな音を鳴らしきって一気にエネルギーを放出する、起伏に富んだ物語を描きました。

 12名のピアニストによるコンサートの最後を飾ったのは、齊藤一也さん。幻想ポロネーズOp.61では、音楽の自然な流れと空気感を大切に、優しく落ち着きのある幻想の世界を創出します。24 のプレリュードOp.28からの抜粋は、1曲ごとに異なる表情を細やかに描き分け、終曲の第24番を、緊張と熱い感情の入り混じった音楽で締めくくりました。

 一人30分弱のオール・ショパンによるプログラムで、それぞれの奏者が自分だけのショパンを客席に届けようと、全力でピアノに向き合う様子は、ショパン国際ピアノコンクールの1次予選さながらの雰囲気。ショパンの音楽への熱い想いの中にも、緊張感が漂います。
 ソーシャル・ディスタンスが保たれ、通常の状態よりもずっと聴衆の数が少なかったにもかかわらず、若いピアニストたちの熱演を讃えるように、客席からは大きな拍手が贈られていました。

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Text by 高坂はる香