コンサートレポート

コンサートレポート

2023年12月23日(土)、西村由紀江さんが「ゆきえさんとクリスマスVol.13」を開催。全国7箇所を巡り、その締めくくりの会場となったヤマハホール(銀座)には、温かな音色のシャワーが降り注がれました。

2023年12月23日(ヤマハホール)

西村由紀江

■プログラム
[第一部]
G線上のアリア
前へ
パームトゥリーの下で見る夢は
雪の情景
あなたに最高のしあわせを
かけがえのない子供たちへ
出会い
ため息
[第二部]
みのりのテーマ
My Heart Will Go On

ビタミン
ラデツキー行進曲
セゾンコンチェルト
My Sanctuary
すき
[アンコール]
第九
扉をあけよう

 イルミネーションで華やぐ銀座の街を通り抜け、ヤマハホールへ。満席の会場には、赤いサンタの帽子をかぶって準備万端の観客の姿があちらこちらに見られました。ワクワクした雰囲気の中、にこやかに登場した西村さんは、深い呼吸をして一音目を噛みしめるように奏でます。
 1曲目は、《G線上のアリア》。木の温もりが感じられるホール全体に、神々しいピアノの音色が響きました。続いて、西村さんのオリジナル曲《前へ》。旅の始まりを彷彿させる温かな音楽に浸っていると、途中《きよしこの夜》のフレーズが挟まれ、クリスマスムードが一気に高まりました。

西村由紀江

「ようこそおいでくださいました。今日はピアノの音のシャワーを浴びて、1年の疲れを洗い流してください」と挨拶した西村さんは、自身のオリジナル曲を3曲続けて披露。ヤマハCFXから艶やかなメロディ、美しいアルペジオ、豊かな低音が繰り出され、「ダイナミックな音が出てきた気がしますね!」と観客に笑顔を向けました。

 次に演奏されたのは、カナダのアニメーション作家、フレデリック・バックさんとのコラボレーションで誕生した2作品。「自分の音楽性を見失った時期に彼と出会い、意思を貫く尊さを学びました」と語る西村さんは、スクリーンに映し出されたバックさんのイラストを眺め、柔らかな表情を浮かべながら音を紡いでいきます。《かけがえのない子供たちへ》では、ボールに見立てた地球儀をとりまく子どもたちの姿がイラストで描かれ、ドラマティックなピアノの演奏が物語の展開を後押ししました。優しい旋律がじんわりと染みこんでくる《出会い》では、バックさんに対する思いがさらに込められたように感じられ、出会いの喜びと感謝が音楽を通して伝わってきました。弾き終えると、西村さんはイラストに向けて拍手を送りました。

西村由紀江

 第1部を締めくくったのは、子どものころから憧れていたというリストの《ため息》。メロディラインを情感たっぷりに歌い、ヤマハCFXのずっしりとした低音ときらめく高音が最大限に活かされました。

 休憩後、鮮やかなオレンジのドレスにお召し替えした西村さん。可憐なメロディと時折あらわれる切ないハーモニーが心地よい《みのりのテーマ》から、静かにそっと始まる《My Heart Will Go On》へと演奏が続きます。転調を経てダイナミクスが広がり、第2部も冒頭から聴衆を引き込んでいきました。
 西村さんは、東日本大震災の被災地に「ピアノの音」と「ピアノ」を届ける支援活動『スマイルピアノ500』を、12年に渡って続けてきました。2023年は、福島県の浪江町と双葉町で被災したピアノを修理し、お披露目コンサートを開催。その際にリクエストされたという中島みゆきの《糸》を歌心たっぷりに、そして、躍動感に溢れいつも元気をもらえる《ビタミン》を、今回のコンサートでも届けてくれました。

西村由紀江

 ここで、「さあ、ちょっと気分転換しましょう!」と西村さん。《ラデツキー行進曲》に手拍子を合わせるコーナーが始まりました。ピアノ演奏のテンポや音の強弱の変化を敏感にキャッチし、観客が一丸となって調子を揃えます。西村さんとの楽しい共同作業に笑顔が溢れ、会場が一体感に包まれる時間となりました。

西村由紀江

 コンサートも終盤に入り、話題は今秋に来日した89歳のジャズピアニスト、デイヴ・グルーシンさんについて。彼の代表曲《RAG BAG》の1フレーズを弾き、デビューが決定した当初、混沌としていた自分の背中を押してくれた楽曲であることを紹介しました。そして、西村さんのデビューアルバムに収められた《セゾンコンチェルト》と《My Sanctuary》を披露。どこか不安げな旋律が綴られたあと、眩い光が差し込むようなジャズテイストの音楽が展開され、ラストは西村さんの力強いタッチが鍵盤を駆け上がり、その迫力に圧倒された聴衆からひときわ大きな拍手が送られました。

 本編の最後を飾ったのは、西村さんが感謝の気持ちを込めた《すき》。丁寧に紡がれた一音一音の余韻に浸りながら、アンコールの手拍子をしていると、どこからか鈴の音が。サンタの帽子とケープをまとった西村さんが再登場し、《レット・イット・スノウ》や《赤鼻のトナカイ》を忍ばせたクリスマスバージョンの《第九》を聴かせてくれました。西村さんにとって2023年の弾き納めとなるコンサートは、「これから新しい扉が開きますように」というメッセージが込められた《扉をあけよう》で閉幕となりました。

西村由紀江

 終演後は、長らく見送られてきた待望の握手会を開催。コロナ禍以降、握手会が再開されたのは本公演が初めてというヤマハホールのロビーには、西村さんとファンの方々との温かな交流の場が広がっていました。

Text by 鬼木玲子