【イマーシブオーディオソリューション「AFC」使用事例レポート】イマーシブ音響研究会「ロームシアター京都」サウスホール / 京都

Japan/Kyoto Apr.2024

2024年4月23日、京都市左京区にある「ロームシアター京都」のサウスホールにおいてヤマハ音像制御システム「AFC Image」、音場支援システム「AFC Enhance」を使用した“イマーシブ音響研究会”が行われました。

主催者であるロームシアター京都 舞台技術課 音響担当 土肥 昌史 氏に「AFC」を使ったイマーシブ音響研究会の趣旨やシステム構成、研究会の内容、そしてテスト結果や印象などについてうかがいました。


イマーシブ音響研究会 概要

今回の研究会では、日本の伝統芸能における「自然な拡声」をテーマとし、その場面として「落語」を選び、ヤマハ「AFC」を用いた自然な音像定位によるイマーシブな音響体験の実現を目指しました。

本研究会の主催者「ロームシアター京都」のサウスホールでは、能楽、狂言、落語といった伝統芸能の公演が定期的に行われており、従来のSRシステムにおける課題を、音像制御システム「AFC Image」による音像定位、および音場支援システム「AFC Enhance」のボイスリフトという手法でどのように改善できるか、さまざまなアプローチに取り組みました。また、落語家として桂 米輝氏を招き、落語および三味線の実演を交えながらの研究会となりました。

今回行った主なアプローチおよび、システム概要は以下の通りです。

1. 音像制御システム「AFC Image」を用いた落語の自然な音像定位

  • 高座マイク信号をサウンドオブジェクトとし、自然な音像を得るためのオブジェクト配置を実施
  • 音像定位用に使用するOBA*スピーカーのアサイン、配置調整、バランス調整、ディレイ調整
  • 既設L/Rサイドスピーカーとの比較試聴

2. 音場支援システム「AFC Enhance」を用いた落語の自然な音像定位

  • 舞台上部マイクによる集音と初期反射音拡声による「ボイスリフト」の活用
  • 既設L/Rサイドスピーカー、および「AFC Image」音像定位との比較試聴

3.「AFC」を用いた三味線の音像定位および音場支援

  • 「AFC Image」のサウンドオブジェクトを用いた音像定位と、3Dリバーブによる残響付加
  • 「AFC Enhance」のマイク集音と残響付加による音場支援
イマーシブオーディオの重要なポイントである「どの客席からも演者に定位して違和感無く聴こえる」を確認するため、研究会の参加者は客席のさまざまな場所に移動しながら、その定位感や聴こえ方を評価。

「AFC Image」「AFC Enhance」用仮設スピーカー・マイク構成

FOHスピーカー

客席最前列の上方、プロセニアムサスバトンにFOH用のNEXOスピーカーシステム「P15」を5台仮設吊り設置。1-2階席の広い範囲において横方向の音像定位に寄与。

舞台中吊りスピーカー

舞台奥のバトンにNEXOスピーカーシステム「P10」を3台仮設吊り設置。音像の奥行き感に寄与。

リップフィルスピーカー

舞台上最前面にリップフィルとしてNEXOコンパクトスピーカー「ID24」を7台、専用グランドスタック金具を用いて仮設。横方向の音像定位感に大きく寄与しながらも、客席前方補助と音像を下方に下げる役割を担った。

スピーカーシミュレーション

「NS-1」によるスピーカーシミュレーションデータ。広い範囲で音像定位を実現するためのカバレッジを仮設NEXOスピーカーと既設スピーカーを含めて検討、スピーカー台数、角度、間隔等を決定。劇場既設のサイドスピーカー、ウォールスピーカー、シーリングスピーカーもAFC Image/Enhanceで使用した。

AFC Enhanceマイク

舞台上部のバトンに「AFC Enhance」初期反射音用のマイクを4本(赤丸)、残響音用マイク(青丸)を4本設置。

音響機器のシステム構成

「AFC Image」と「AFC Enhance」はシグナルプロセッサー「DME7」を用いてプロセッシングおよびマトリクスでサミングし共通のスピーカーを使用して拡声
「AFC Image」コントロールとしても使用したデジタルミキサー「QL5」
「AFC」のエンジン部分(最上段)とシグナルプロセッサー「DME7」(2段め)

イマーシブ音響研究会 ロームシアター京都 サウスホール ミニインタビュー
落語などの伝統芸能の舞台でも「AFC Image」「AFC Enhance」が有効であることを確認
ロームシアター京都 舞台技術課 音響担当 土肥 昌史 氏

「ロームシアター京都」では定期的に落語が開催されているそうですね。

土肥氏:
はい。「ロームシアター京都」は「京都会館」が正式名称ですが、「京都会館」が開館して間もない1957年から年に5回開催されており、2024年5月21日で370回を数えます。「ロームシアター京都」の大切な催しとして今後も続けていく予定です。

市民寄席のチラシ

このたび「ロームシアター京都」のサウスホールで「AFC Image」「AFC Enhance」の研究会を開催した理由を教えてください。

土肥氏:
いつもサウスホールで市民寄席を開催しているんですが、この劇場は間口に対して客席の奥行きが短いんです。そのため日本的な舞台、いわゆるパノラマ型の舞台には適しているのですが、寄席や能などの伝統芸能の音響空間としては難しい面があります。その点をヤマハ「AFC」によって改善できるのではないかと考え、ヤマハさんにご協力をお願いして「AFC Image」と「AFC Enhance」を使ったイマーシブ音響の研究会を開催しました。

劇場が横長であることで音響的にどのような問題が生じるのですか。

土肥氏:
寄席の場合、高座が舞台の真ん中にありますが、通常のPAでは落語家さんの声は舞台の両サイドのスピーカーから聴こえてきます。この劇場はかなり横長なので、落語家さんは真ん中にいるのに、声はかなり横の方から聞こえてくることになります。つまり視覚と聴覚の方向が一致しないわけです。

これまで私たちはこの問題を解決するため、舞台中央の上方にスピーカーを追加するなどしてできるだけ自然な音響環境を作ってきました。しかし、それでもかなり上方に音像が寄ってしまいます。

今回「AFC Image」を使うことで落語家さんの口元から言葉が聞こえるように拡声できるか、それが最大の検証ポイントでした。

「AFC Image」はこれまで話者の動きが多い演劇などでの導入例が多かったのですが、なぜ「落語」なのでしょうか。

土肥氏:
たしかに多くの方から「なぜ落語なの?」と言われました。でも落語のような単純な構成こそイマーシブ音響の効果を試すのに最適だと思っています。

落語は高座にたった1本のマイクしかありません。しかも落語家さんは高座に座ってほとんど動きません。ですから定位が非常に重要です。視覚と聴覚が一致する自然な状態であるからこそ、観客は落語の世界に没入していけるわけです。それを今回「AFC Image」によってどこまで実現できるか、2階席を含め劇場のどこに座っても落語家さんの声が自然に聴こえるかを実際に検証しました。またヤマハさんからのご提案で「AFC Enhance」のボイスリフトという機能で、どのように話者の声が拡声できるかもテストしました。

実際に「AFC Image」、「AFC Enhance」を検証してみてどんな印象を持ちましたか。

土肥氏:
素晴らしい技術だと感じました。特に「AFC Image」は高座の落語家さんから実際に声が出ているように聴こえました。しかも劇場内のどの席からでもその効果が感じられ、2階席で聴いても舞台の中央の高座から声が聞こえました。これは従来方式の拡声方法では表現できなかった定位感です。

「AFC Image」には可能性があると感じられましたか。

土肥氏:
感じました。今回は限られた時間で細かい設定まで追い込むことはできませんでしたが、基本的な設定だけでここまでできるということがわかりました。今後はデザイナーやプランナー、オペレーターがAFCをどう現場にマッチさせていくかですね。演目によって最適化していけばさらに良くなると思います。

「AFC Image」の操作画面

「AFC Enhance」のボイスリフトはいかがでしたか。

土肥氏:
「AFC Enhance」のボイスリフトは邦楽や演劇などの公演に適していると感じました。特に能のように、できればマイクを使いたくない公演でかなり有効だろうと思います。

たとえば能舞台には反響板の役割をする「鏡板」があり、さらに舞台上には屋根や庇もあって、それらに演者の声が反射して観客に届く仕組みになっています。また舞台下に甕が埋め込まれていて、演者が踏む足拍子がよく響く構造になっているところもあります。しかし通常の劇場にはそのような仕組みがないので、劇場での能の公演ではどうしてもマイクが必要になります。

これまではバウンダリーマイクやピンマイクを使って通常のシステムで拡声していましたが、不自然さは否めませんでした。しかし「AFC Enhance」を使えばより自然で、しかも舞台内で完結する音響を提供できそうな気がします。ただそのためには舞台上で演者が感じる響きをもうすこし強める調整が必要だと感じました。

三味線の演奏で検証した「AFC Image」の3Dリバーブの印象はいかがでしたか。

土肥氏:
空間が鳴る感じのリバーブでよかったです。ただここは劇場自体が響くので、この舞台であれば隠し味程度にちょっと足すだけでいいと思います。お芝居などで効果音的に残響を使うシーンでは抜群でしょうね。

舞台下手御簾での桂 米輝氏の三味線演奏。「AFC Image」の3Dリバーブを使用して立体的な響きを付加

最後に今回の研究会で感じたことを教えてください。

土肥氏:
ヤマハのイマーシブ音響技術である「AFC」は素晴らしいと感じました。今後日本にイマーシブ音響が根付くためには、これらの技術が古典芸能でいかにうまく使えるかが大切だと思います。今後古典芸能でイマーシブ音響が有用であると認知され、今後作られる劇場には「AFC」が設備として導入される、そんな方向で発展していくことを期待しています。

お忙しい中インタビューのお時間をいただき、ありがとうございました。

ロームシアター京都
https://rohmtheatrekyoto.jp


ヤマハ音場支援システム「AFC Enhance」、音像制御システム「AFC Image」について

「AFC Enhance」とは

「AFC Enhance」は、空間の固有の音響特性を活かし、音の響きを豊かにすることで、コンサート、講演会、演劇など多様なシーンで最適な音響空間を提供する音場支援システムです。

主な特長

  • 自然な音の残響感や音量感の調整により、用途に応じた細やかな音響環境の制御が可能
  • 空間固有の音響特性を生かした音場作りにより、リアルで満足度の高い聴取体験を実現
  • 高度な信号処理技術により、多様な音響調整が可能で、さまざまな空間での使用に対応・規模に応じたモデル選択で、小規模から大規模な空間まで幅広くカバー

詳しくは「AFC Enhance」製品ページをご覧ください。

「AFC Image」とは

「AFC Image」は、音像を3次元的にかつ自在に定位・移動させることで、演劇、オペラ、コンサート、インスタレーションなど多彩なシーンでイマーシブな音響演出を可能にするオブジェクトベースの音像制御システムです。

主な特長

  • 洗練されたGUI上でのオブジェクト操作や音像サイズ調整により、緻密かつ迅速な音像コントロールが可能
  • 特定のスピーカーセットにのみオブジェクト再生を割り当てできるスピーカーゾーニング機能を搭載
  • 3Dリバーブシステムを搭載し、それぞれのリスニングエリアにて臨場感ある残響と音場を実現
  • DAWやコンソールのパンニング操作を実空間の形状に最適化するレンダリングエリアコンバージョン機能を搭載

詳しくは「AFC Image」製品ページをご覧ください。

AFC

AFC(アクティブフィールドコントロール)は、あらゆる空間において、音を自在にコントロールし最適な音環境を創り出すことができるヤマハのイマーシブオーディオソリューションです。