【導入事例】株式会社サイバーエージェント スタジオ戦略室 様 / 配信スタジオ / 東京
Japan/Tokyo Nov. 2025
東京都港区 浜松町に設けられた「Mリーグ専用スタジオ」は、ABEMA屈指の人気コンテンツであるプロ麻雀リーグ「Mリーグ」を撮影・配信するスタジオです。「Mリーグ2025-26シーズン(以下Mリーグ2025-26)」より開始された2卓同時配信に伴いスタジオの大規模改修を実施。
その音声調整卓としてヤマハのデジタルミキシングコンソール「DM7」が導入されました。その選定理由や使い勝手などについて、株式会社サイバーエージェント スタジオ戦略室 加藤 拓也 氏(写真左)、伊藤 和博 氏(写真中央)、島村 尚 氏(写真右)にお話をうかがいました。
「Mリーグ専用スタジオ」とはどんなスタジオですか。
加藤氏:
Mリーグ専用の撮影・配信スタジオで、これまでは1卓での競技の撮影をしていたスタジオでしたが、「Mリーグ2025-26」から2卓同時に使用する番組体制に変更され、それに伴い大規模なスタジオの改修を行いました。
2卓を同時に試合が行えるスタジオになったのはなぜですか。
加藤氏:
Mリーグは非常に人気が高くて、麻雀は大人の遊び、というこれまでのイメージから、小学生のファンも増えるなど世代を問わず楽しめる健全な競技へとイメージが変わりました。そうした盛り上がりを背景に、今回の2卓で同時に試合が行えるようなスタジオへの改修となりました。Mリーグの演出ではクレーンカメラを使ったスタジオ全体の俯瞰映像が欠かせません。2つの卓を壁で仕切ってしまうと空間が狭く見え、番組ならではのスケール感や迫力が損なわれてしまいます。そのため、あえて仕切りを設けず、同一フロアに白卓と黒卓を並列配置するレイアウトが採用されました。
スタジオの2卓化とDanteによるデジタルオーディオネットワークの導入
今回実施されたスタジオの大規模改修についてお聞かせください。
加藤氏:
当初は老朽化した機材を更新する部分改修を想定していました。しかし2卓化が決定したことでスタジオの構造そのものを見直す必要が生じ、インフラ設備や内装、ネットワーク環境までを含む全面改修となりました。
伊藤氏:
私は映像分野を中心に副調整室のシステム構成や機材更新計画を担当しました。今回は2卓同時配信を実現するため、スタジオだけでなく楽屋も4部屋から8部屋に増やすなど、音響だけではない、まさに全面的な刷新でした。シーズン開幕日の9月15日に間に合わせるため、設計から施工、試験運用までを約10か月というタイトなスケジュールで完遂しました。
機器に関して改修前はアナログ運用が中心だったそうですね。
島村氏:
以前はヤマハの「QL5」と「TF5」を使い、対局音、実況、解説、審判、VTR、SE、BGMなど多岐にわたる入力をアナログパッチで管理していました。しかし番組の演出が高度化したことと、今シーズンからの2卓同時進行で入力規模が大幅に増加します。従ってアナログ運用では対応が無理だと判断し、ヤマハのデジタルミキシングコンソール「DM7」を2台導入し、チャンネル構成や音声設計を刷新しました。
伊藤氏:
Mリーグは通常の番組に比べて扱う音声要素が多いですし、野球中継でいえば球場側の音響が担う入場BGMやアナウンスなども一括して行う必要があります。こうした状況から、柔軟かつ拡張性の高い音声運用への移行を目指して、デジタル化、フルIP化へ踏み切りました。
フルIP化とは具体的にどんな内容ですか。
伊藤氏:
映像伝送はSDIに加えてSMPTE ST 2110を採用し、音声はDanteベースのネットワークオーディオ構成に刷新しました。ネットワーク上で素材を共有できるようになったことで、2つの副調整室間で同じマイクを扱ったり、送出先を柔軟に切り替えられるようになりました。また本線音声もAES/EBUへ移行したことで、信号経路全体がシンプルかつ明確になり、遅延やノイズを最小限に抑えることができました。
加藤氏:
IP化で音声や映像機器の連携が容易になり、配線変更もソフトウェア上で完結できるので、番組制作の自由度も大きく向上しています。将来的な機材更新やスタジオ拡張にも柔軟に対応できる点もメリットです。
2台の「DM7」を導入した理由は高音質、コンパクトサイズ、
卓越した操作性、そしてヤマハならではの保守体制
音声調整卓として「DM7」を選定した理由をお聞かせください。
島村氏:
まずヤマハミキサーはスタッフが使い慣れており、フェーダーのレスポンスやタッチパネルの操作感も非常にいいです。また「DM7」はサイズ感としても今回のスタジオ規模に最適でした。
伊藤氏:
システム面ではDanteに標準対応しており、I/Oラックの「Rio3224-D3」と組み合わせることで入力拡張が容易な点が挙げられます。2卓化と大規模な入力数に対応するうえで、この拡張性は決定的でした。また、電源が二重化されている点も、安心感があります。
加藤氏:
加えて採用の決め手は、ヤマハの手厚い保守体制です。放送・配信は「止められない現場」ですので、万が一のトラブル時に部品交換や修理対応が迅速であることは極めて重要です。長年ヤマハのミキサーを運用してきた実績から、バックアップ体制には信頼を置いています。
「DaNSe」が実現したクリアな競技音声と
競技特性にあわせて柔軟に使用できる多機能さ
「DM7」導入後の変化や音質についてはいかがですか。
島村氏:
操作面では、2つの大型タッチパネルで別々の情報を同時に表示できるので視認性が非常に高く、直感的に操作できます。音質面では96kHz動作時の透明感が際立っています。現在は48kHzで運用していますが、以前より明らかにクリアです。特に声の抜けが良くなりました。
伊藤氏:
オペレーターからはノイズ抑制機能「DaNSe」がかなり使えると好評です。空調音やコンソール周りのファンノイズなどの定常ノイズを自動的に除去できるため、以前はEQで細かく調整していた作業負担が大幅に軽減されました。
島村氏:
実際、本番直前にブラインドのモーターが故障して異音が発生した際も「DaNSe」のおかげで瞬時に対応でき助かった、という事例があります。
加藤氏:
「DaNSe」の素晴らしい点は声質を変えずにノイズだけを除去できることなんです。聴きやすさを損なうことなく使えるので、非常に助かっています。
麻雀という複雑な競技の音声を扱う上で「DM7」が便利な点はありますか。
島村氏:
入力数が多いので助かっています。たとえば「打牌音(だはいおん)」を抑えて緊張感を出したい競技中と、自然な声を届けたいインタビュー時とで、フェーダー設定を明確に分けています。ゲートやエフェクトを用途ごとに使い分けることで、聴かせたい音を適切に届けることができます。
伊藤氏:
1つの卓の中に競技音、実況、解説、審判、演出音声などが混在している上に、2卓が同時に進行するという過酷な状況です。どうしても互いの音が干渉しやすいため、音声卓には高度な調整機能と繊細なコントロール性能が求められますが、「DM7」はそれにしっかり応えてくれます。
あとはタリー連動機能が便利ですね。映像スイッチャーからのタリー信号と連動しフェーダーを開く設定にしているため、マイクの上げ忘れなどのヒューマンエラーを防げます。
島村氏:
私はユーザーディファインドキーの使い勝手がいいと思います。本番環境に合わせてフェーダーのLED照度を落とすなど細かいカスタマイズができ、快適にオペレーションできます。
2つの麻雀卓と2つの「DM7」が拓く新たな演出と連携強化
スタジオ同様に副調整室も2つ並んで同じ空間にあるのは珍しいですよね。
加藤氏:
珍しいと思います。場所の制約でせざるを得なかった面もありますが、実際運用してみたら良かった点も多いです。
伊藤氏:
たとえば選手の入場演出など、2つの卓で進行タイミングを合わせる場面が多々あります。その際、オペレーター同士の距離が近く、コミュニケーションが取りやすいことがメリットで、もし別室なら難易度は格段に上がっていたと思います。
2卓化で現場に関わるスタッフの人数も増えているのでしょうか。
加藤氏:
はい。演出、映像、音声、VE、制作、フロアスタッフまで含めると1卓あたり約30名、2卓同時進行するとその倍近い人数になります。まさに修羅場、のような熱気に包まれます。
最後に「DM7」への今後の展望をお聞かせください。
伊藤氏:
IP化によるシステムの刷新により、制作の自由度が大きく広がりました。「DM7」は、これからのMリーグの番組制作に欠かせない中心的な機材として活躍してくれると思います。
島村氏:
「DM7」も、別拠点で運用している「DM7 Compact」も、とても扱いやすいコンソールだと思います。音質と操作性のバランスが良く、複雑な競技音声にも対応してくれます。特に「DaNSe」機能は非常に有効でした。今回得た知見を活かし、今後もより臨場感のある音声を届けていきたいです。
加藤氏:
「DM7」の導入により、音質、運用性、そして拡張性が飛躍的に向上しました。特に2卓同時進行という極めて複雑な番組制作でも安定運用できており、今後の重要なステップになりました。ここで蓄積されたノウハウは、他の大型スタジオの機材更新にも反映されると思います。