A-S3000/CD-S3000 開発者からのメッセージ

序にかえて ーーー 開発者からのメッセージ


CD-S3000/A-S3000の企画は、2年前に始まりました。

HiFiの名を冠するオーディオ機器にとって、高精細な音の表現は当然であり、その上に高い表現力を求められます。
その「高い表現力」とはなにか?
それは、より音楽が愉しく聴けることなのではないか?
音そして音楽のメーカーであるヤマハだからこそ、今できるすべての技と力で、表現力の高みを目指したい。
その意志そのものが、CD-S3000/A-S3000開発の一つの原点です。

一般に音楽の三要素としてよく「メロディ」「リズム」「ハーモニー」ということが言われます。
伝統的にヤマハは、「メロディ」「ハーモニー」の表現を得意とし、評価をいただいてきました。
それならば、私たちが表現力の高みを目指すために必要なのは「リズム」、特に低域のリズムに表される
演奏者のタイム感なのではないか?
あるいはもっとエモーショナルな、例えばヴォーカルだったら歌い手の胸が、咽喉が、ボディが鳴っている、
その感覚なのではないか?

私自身、音楽好きで楽器を弾く人間ですから、これらは非常にシビアな問いでした。


CD-S3000/A-S3000のメインテーマは「音楽性」です。

一言で「音楽性」といいました。それを表現するための大切な要素が3つあると私は考えます。
一つ、小さな音でも遠くまで届く、抜けの良い音の解放感。
二つ、音楽のエモーショナルさ。
演奏者の身体で表現される深い情感。
三つ、演奏者とあい対しているかのような、
「音楽がここにある」という確かな実感。

ジャンルを超えたこの「音楽性」をオーディオで実現するには、質の良い低域——ただ重いだけではなく、
芯があり、かつ適度な響きを備えた低域——のリズムが、メロディやハーモニーと調和する必要性があります。
「音楽性」を表現するには小手先の技術は役に立ちません。
まず、ディスクなどに記録された音楽情報をあまさず、すべて引き出すことが前提であり、その情報を活かし、
今までにない低域の表現力を実現するためのパワーの供給、それを損なわないためのロスの低減が重要でした。
幸いにして、圧倒的な情報量を担うD/Aコンバーターに出会うことができ、低域のドライブ能力の高い出力素子を
採用することもできました。

そこからは、「いかに膨大な情報量をうまくオーディオ信号として出すか」
「いかに経路の上流・中流・下流で情報を絞らないか」という闘いになってきます。
ロスをなくすのがポイント、と簡単に言ってしまえることですが、シンプルな目的だからこそ手法・センスが問われます。
音は常に流れ去っていくもの。瞬間的に消えていくものだからこそ感覚的なものが大切です。
まず圧倒的な情報量の「音」ありき。それを「音楽」として表現するために、どうコントロールしていくか。
私たちが今まで積み重ねてきたもの——アナログ技術の粋、設計のセンスといったもの——をすべて、
シンプルな目的のために積み重ねて行きました。
その中で技術に溺れないで済んだのは、「どうしたいか」つまり「音楽性」という指針がはっきりしていたこと、
そして、音と音楽の会社「ヤマハならではの音楽表現」の感覚が開発チーム内で共有しやすかったせいでしょう。

圧倒的な情報量を背景とした抜けの良い解放感、
音楽のエモーショナルさ、演奏者のタイム感に支えられた「音楽がここにある」という確かな実感。
ヤマハならではの音楽表現の、現時点での解答がここにあります。
ヤマハHiFiの目的は、「音楽ファンのための音楽再生機」です。
新しい音を提示できるオーディオを、常に皆様に提供していくことが使命です。
ぜひ、オーディオファンの方々に止まらず、ライブやコンサートに通う、あるいは私のように
自ら楽器を演奏する方々にも、家で、自分の部屋で空気を震わせて音楽を聴くことの楽しさを
堪能していただきたいと思います。

2013年9月
AV開発統括部第2開発部HiFiグループ
熊澤 進