HPH-MT8インタビュー / プロデューサー・コンポーザー・ギタリスト Godspeed / 青木 征洋氏
Japan/Tokyo, Jul 2017
スピーカーでなければわからなかった音がわかる。ギタリストにも勧めたいヘッドホン。
制作でのヘッドホンの比率は1割だが、その1割が「信じられるか」がポイント。
青木さんはギタリストでありコンポーザー/プロデューサーですが、なぜ音楽制作を始めたのですか。
ギターをはじめたころ、バックの演奏が欲しくて自分で打ち込みでバック演奏を作ったりしていました。それが音楽制作のはじまりでした。
音楽制作でヘッドホンはよく使いますか。
最初、音楽制作はヘッドホンとともにありました。大学1年か2年までは、特にこだわりがなくて家にあったヘッドホンでミックスしていましたが、その後、もうちょっと音が良いヘッドホンを使ってみようと思って、クラシックが綺麗に聞こえるヘッドホンを選んで使っていました。
今でも音楽制作はヘッドホンが中心ですか。
最初の頃はほとんどがヘッドホンで95%まで完成させて、スピーカーは最後に音を出してみて確認するくらいでした。しかしゲーム会社に入社してからはスピーカーをよく使うようになりました。仕事でスピーカーを使うようになってはじめて「ヘッドホンで制作をするのは、実はやりづらいことだった」と気づきました。
ヘッドホンでの音楽制作はやりづらい?
社内の制作の部屋のいくつかが防音室で、そこでスピーカーでミックスする機会がありました。スピーカーでミックスした曲と、ヘッドホンだけでミックスした曲の両方をマスタリングに持っていってラージースピーカーで聴いてみると、圧倒的にスピーカーのほうが、空間がちゃんとできていたんです。ヘッドホンでミックスした曲はスピーカーで聴くと音像が狭いとか、遠くのほうに変な楽器があるとか、いろいろな不整合が出てしまいました。ちゃんと全体を見渡すようにミックスしようと思ったら、スピーカーを使わないとだめだなと気づきました。
現在のヘッドホンの使用比率はどのくらいですか。
作業としては、スピーカー9割、ヘッドホン1割です。でも、その1割の部分の作業が信じられるか否かというのはすごく大きいんです。
初めてHPH-MT220を使った時、耳から外して「ヘッドホンの音だよな?」と確認した
先代のHPH-MT220は予約して購入していただいたと聞きました。
はい。予約して買って、もう2年ぐらいずっと使っています。
HPH-MT220はどのあたりを評価いただいたのでしょうか。
今まで使ってきたヘッドホンよりは、かなりスピーカーに近くて、空間をちゃんと認識できるのが衝撃的でした。ヘッドホンをチェックするために、いつもGRAN TURISMO 5 Prologue ORIGINAL GAME SOUNDTRACKに収録されている「Moon Over The Castle GT5 Prologue Version」という曲を聴くんですが、スピーカーで聴くとわかるけど、スタジオの定番ヘッドホンでは絶対分からなかった低域の量感、立体感、リバーブの残響の消え際などがすごくきれいに聴こえました。思わずヘッドホンを外して、「ん?ヘッドホンからの音だよな?」と確認してしまったほどです。
HPH-MT8はお使いいただいていかがでしょうか。
HPH-MT220を気に入っていたので、HPH-MT8で音が変わったら困るなと不安に思っていましたが、HPH-MT220の良かったところは残っていて、むしろHPH-MT220では気づかなかった部分が解消されていました。
それは具体的にはどんなところでしょうか。
例えばHPH-MT8を聴いて気がついたんですが、HPH-MT220はローミッドにちょっと圧迫感があったのかなと。僕はヘヴィーメタルやインストのメタルをよくミックスするんですが、センターに定位したギターをポンと抜けさせたいときに、スピーカーだとセンターがスコンと抜けてくるのですが、HPH-MT220だと両サイドのバッキングがすごく膨らんで、センターが窮屈そうに聴こえていました。HPH-MT8ではそこがうまい具合にバランスが取れて、スピーカーとの誤差が埋まって、より信じられる音になりました。だから、HPH-MT220だけでミックスをしたら「足元がスッとした感じ」になりそうなところが、HPH-MT8ではどっしりと下まで出せるようになりました。
HPH-MT8はミックス作業でかなり使えるということでしょうか。
そうですね。僕がミックス作業をするときに一番避けたいのは“guess work”というか「これはきっとこうだからこのくらいなんだろう」という予測で作業することなんです。そういう当てずっぽうの領域をできるだけ減らして、聴こえているもので判断をしたい。そのときにその音を信じられる環境を整えるというのはすごく大事です。HPH-MT8はその点、HPH-MT220より信じられるパーセンテージが上がりました。
HPH-MT8で、音以外に良くなったと思う点はありますか。
軽くなったので、首肩が楽になりました。HPH-MT220より15%くらい軽くなったんでしょうか。実感できるレベルで楽になりました。今はそれほど長時間ヘッドホンをしっぱなしってことは減りましたが、ゲーム会社の頃は、フロアで全員がヘッドホンで作業していたので、8時間着けっぱなしということもありました。あと、ヘッドホン自体の重さで頭からずり落ちてくることもあったんですが、それも軽減されました。ヘッドホンの中ではかなりいいと思います。それとケーブルをストレートとカールコードと入れ替えられるようになったのは便利です。それとコンパクトに折りたたむことができて、しかも軽いので、スタジオとかにサッと持ち運ぶのが便利になりました。
HPH-MT8はギタリストにぜひお勧めしたいヘッドホン
ギタリストの立場からもHPH-MT8は評価できますか。
まさにギタリストに勧めたいヘッドホンですね。 住環境から考えて、自宅でアンプにつないでスピーカーからガンガン音を出して練習できる人は、なかなかいないんじゃないでしょうか。特に日本のギタリストは、ヘッドホンを着けて練習する人が多いと思います。またエフェクターなどの音作りもヘッドホンでやっているはずです。そのときに、ヘッドホンが正しい情報を出していなかったら、その音を例えばライブハウスに持って行ったときに、とんでもないことになってしまいます。
ギタリストはあまりいいヘッドホンを使っていないのでしょうか。
ギタリストでヘッドホンにこだわっている人って少ないと思います。でもスピーカーなりヘッドホンなりをいいものを買ってしまいさえすれば、今ある機材の音がちゃんと分かって、もっといい音が作れるのに、と思っています。普段の練習や音作りを、信用できる環境で行うことは大事だと思います。
デモ音源などで音楽制作をするギタリストは少なくないと思うのですが。
そのはずなんですよ。それに僕のフォロワーって、動画を撮ってアップするような、インターネットで活動するギタリストが割と多いんですが、そういう人は、だいたい DAW は持っているんです。DAW を持っているということは、自分の演奏の録音を聴く機会が多いはず。ただ、プラグインやハードのシミュレーターを使っていてギターアンプで音を作っていない人が多いので、ヘッドホンやモニタースピーカーでしか音を決められないんです。だからこそ、ヘッドホンにも絶対にこだわったほうがいい。
もはやギターアンプを使わないのであればヘッドホンが良くないと自分の音がよくわからないということですよね。
90年代以前の、いわゆるアンプシミュレーターなどがなかった時代は、ギタリストの音作りってギターアンプのキャビネットから出た音までで終わりでした。そこから先はエンジニアがマイクを立ててくれたわけです。だからギタリストはキャビネット、ギターアンプから出る音だけを気にしていればよかったのですが、今のアンプシュミレーターは、キャビネットやマイクロフォンもシミュレートをするものなので、どうしてもヘッドホンやモニタースピーカーで追い込まざるを得ない世界に足を踏み込むことになります。ですからいいヘッドホンがないと自分の音がわからなくなってしまいます。
ありがとうございました。今後の活動について一言お願いします。
現在G.O.D.で作品を制作中です。アルバムをリリースして終わりではなく、コラボやイベントも合わせた一連の流れもプロデュースしたいですね。僕がほかのギタリストに対して役に立てるのは、そういう部分かなと思っています。それと音楽制作とはちょっと違いますが、ギタリストが集まってくるような、ポータルサイトを立ち上げたいと思っています。教則コンテンツは世の中にたくさんあって、それを活用して上達すればいいと思うのですが、僕が実際に一番モチベーションにつながったコンテンツはライブビデオでした。自分が好きなギタリストがかっこよく弾いているのを見たら、自分ももっと弾きたいと思うようになります。基礎も大事ですが、このビデオを見たら弾かずにはいられないという思いにさせるものが、定期的にアップされていくサイトはなかなかないような気がするので、そういう観点のコンテンツを目指します。
本日は多忙中お時間をいただき、ありがとうございました。
Profile
プロデューサー・コンポーザー・ギタリスト・ViViX統括。東京大学工学部卒。株式会社TaWaRa所属。2005年にギターインストの流布を目的とした「G5 Project」を開始。4thアルバム「G5 2013」ではオリコンCDアルバムデイリーチャート8位にランクイン。2008年にカプコンに入社し、戦国BASARAシリーズやロックマンXoverの音楽制作を担当。 2014年に同社を退社した後は自身の音楽レーベルViViXとしての活動を本格化させる一方でストリートファイターVの作曲を担当するなど、ゲームコンポーザーとしてもグローバルに存在をアピールしている。2016年4月に新世代のギタリストプロジェクト「G.O.D.」としてリリースしたアルバム「G.O.D.111」の収録曲がKONAMIの音楽ゲームGITADORA Tri-Boostに収録されるなど、音楽ゲームにも活動の場を広げている。