HPH-MT8インタビュー / 株式会社トゥ・ミックス 代表取締役社長 / 吉川 明氏
Japan/Tokyo, Sep 2017
遮音性が高くて音量もしっかりあるのでPAで使いやすいヘッドホン。解像度はとても高いです。
ヘッドホンを一番使うのはリハーサルスタジオとライブ後のミックスのチェック。
コンサートやイベントのPAに多く携わっているトゥ・ミックスですが、吉川さんの場合PAの作業でヘッドホンを使うのはどんなときでしょうか。
私が一番よくヘッドホンを使うのはリハーサルスタジオです。普通リハーサルではプレイヤーとモニターエンジニアがいて、出ている音を聴きながらモニターの音を作りますが、新しい曲をやるときなど、場合によっては本番に備えてハウスエンジニアがリハーサルスタジオにミキサーを持ち込んで音作りの作業することがあります。そんな時、ハウスエンジニアは音を出すところがありませんから、ヘッドホンでミックスします。それとライブが終わってから、その日の録音を部屋でチェックする時ですね。時間にして2時間か3時間ですが、この時が一番集中してヘッドホンで音を聴いているかもしれません。チェックは小さいスピーカーで聴いても意味がないので、リファレンスとしてはヘッドホンが一番です。
ステージでのリハーサルや本番中にヘッドホンを使って音を確認することはありますか。
もちろんあります。リハーサルでは単音のチェックから始まって、キック、スネアの音決めをしますが、いろんな音が混ざったときに、ソロ機能でほかの音をポンと消してキックの音やタムの音だけを聴き、そこへのシンバルのカブりなどを確認しますが、モニターとしては全体の音が鳴っていますから、ソロはヘッドホンでなければ聴けません。本番中に特定の音をソロで聴く時もヘッドホンで聴きます。
ハイエンドが伸びた音質で、解像度が高い。
HPH-MT8を使ってみて、どんな印象を持たれましたか。
音質はフラットというよりは、ちょっとミッディ、つまり中域が多いと感じました。言い方を変えると、ハイエンドがすごく伸びていて、今どきのハイレゾ的な帯域の高音はきれいに聴こえますが、高音の「痛いところ」、「耳障りなところ」は少し落としているのかなと思います。その上で250Hz近辺と800Hzあたりがちょっと多い。だからとても音としては聴きやすいです。
解像度についてはいかがでしょうか。
HPH-MT8の解像度はとても高いです。例えばリバーブの成分でも中域がうまくはまっているところはとてもきれいに聴こえますし。ハイエンドもよく伸びていて、しかも音がザラつくことはありません。
実際にPA現場でも使っていただいたそうですが、いかがでしたか。
PAの現場だとなにはともあれ、まずはインピーダンスの関係で「聴こえる/聴こえない」の音量感が問題になりますが、HPH-MT8は音量的には全く問題ありませんでした。装着感も、いつも使っている定番のヘッドホンよりも、かなり着けやすいです。装着中も疲れませんでしたし、密閉感もすごくありますね。コンサート会場で外部の音が大きく出ている状況でも聴きやすかったです。
遮音性・密閉感はPAの現場で大切なのでしょうか。
とても大切です。ヘッドホンに関してPAの現場で要求されるのは「外の音がうるさくてもヘッドホンの音がしっかり聞こえる」ということなんです。アリーナやドームで普通の音量で演奏しているならそれほどシビアではありませんが、ライブハウスのような小さい場所で、ミキシング位置がステージの近くだったり、演奏が大音量だったりすると、遮音性が低いヘッドホンではソロの音が聞こえません。そうなると何のためにヘッドホンを使うのかわからない、ということになってしまいます。その他にもノイズや異音がどこから出ているかを探すというトラブルシューティングもありますが、そんな時は全体で100から110dBの音圧がある中で、ヘッドホンの中だけで聴こえる別の音を聴くことになるわけです。その点HPH-MT8はかなり音量が出ているところで使ってみましたが、遮音性は良好でした。
PAの現場ではヘッドホンの音を基準にスピーカーの音を補正します。
PAの現場における理想のヘッドホンとはどんなものでしょうか。
ヘッドホンは通常のスピーカーよりはるかに精度が高いんです。ですから我々はヘッドホンで聴いたCDの音をリファレンスとし、同じ音をPAスピーカーから出そうとするわけです。ライブ会場でPA機器をセッティングするとき、私たちはできるだけ音がフラットになるようにPAスピーカーをチューニングしますが、その時はヘッドホンの音を基準にしてスピーカーの音を補正していきます。このようにヘッドホンは私たちにとって「基準」なので、まずヘッドホン自体がフラットであってほしいと思います。
PAの現場においてヘッドホンで一番大事なのはフラットな特性ということでしょうか。
そうです。ヘッドホンは「白紙」であってほしいと思っています。絵でたとえれば、あるところで赤を使いたいと思ったときに、キャンバスが真っ白でなければ、どのくらいの赤を使ったらいいのかわからないですよね。キャンバスに色が付いていたら、それを逆算しながらやらなくてはいけませんが、大変な作業です。私としては塗った色がそのまま出てきてほしいんです。そしてコンサート会場のPAスピーカーをチューニングして「白紙」にする作業をするときに、リファレンスにするのがヘッドホンなんです。ですから、そのヘッドホンは「白紙」であってほしい。それが私たちのヘッドホンに対する理想です。
音の次に大事なのは装着感ですね。耳にできるだけ負担がかからないものがいい。普段使っている定番モデルは、長時間使っていると耳がジワーっと、軟骨が痛くなるんですよ。真綿で首を絞める感じでしょうか。1時間ぐらいでも使っていると、取ったときにほっとしますからね。HPH-MT8の装着感はそれがないので、装着性はとてもいいと思います。
本日はご多忙中お時間をいただき、ありがとうございました。
株式会社トゥ・ミックス サウンドエンジニア 中元 洸樹氏
株式会社トゥ・ミックスのエンジニア、中元氏にもお話をうかがいました。
HPH-MT8を使ってみて印象はいかがですか。
ミッドに芯がある音で、リスニングではすごく聴きやすいと感じました。
芯があるというのは、具体的には「音が太い」ということでしょうか。
そうですね。ボーカルとかそのへんのラインが、はっきり聴こえる印象です。いつもは定番のモニターヘッドホンを使うことが多いのですが、ハイエンドのシャキっとした部分をリファレンスとしていたので、HPH-MT8はそれに比べると中域がすごくはっきりしている印象が強かったです。
装着感はいかがでしょうか。
定番モデルがパカパカだったので、それに慣れているところがあるのかもしれませんが、装着感が僕にはちょっとタイトな気がしました。
Profile
屋内外の大規模コンサートやイベントをオペレートするPAカンパニー トゥ・ミックスの代表であり、自らもPAエンジニアとして国内トップ・クラスのアーティストを数多く手掛ける。その豊富な経験と知識で音響設備の設計からコンサルティングまで幅広く活躍している。