HPH-MT8インタビュー / サウンド デザイナー ・ 作編曲家 / 飯嶋 慶太郎氏
Japan/Osaka, Oct 2017
まるでその場に居るかのような再現性があるんです。
とても解像度が高いと思います。
作編曲からサウンド・デザインまで幅広く活躍されている飯嶋さんですが、普段はどのようなシーンでヘッドホンを使いますか。
フィールドレコーディングをすることが多いので、その際のモニターとして使います。あとは出先でミックスをすることもあるので、ヘッドホンを持ち込むことは多いですし、とても重宝しています。また急な仕事が入ってくることもあるので、できる限り持ち運ぶようにしています。
先日外録にHPH-MT8を持っていってリニア中央新幹線の通過音を録ってきたんです。通過音というのは風きり音なんですが、トンネルから出てくるところでは相当な低周波が先にフェードインしてくるんですよ。これをかなり早い段階でちゃんとキャッチできるヘッドホンだなと感じました。とても解像度が高いということだと思います。
チェックするときに信頼の置けるヘッドホンが良いと考えています。
スタジオ制作でもヘッドホンは使いますか。
もちろんスタジオでの音楽制作でも使っています。基本的にはスピーカーがメインなんですが、低音域の確認や、環境を変えて聴く必要があるときにはよくヘッドホンを使いますので、ひとことで言うとチェック用途で使用することが多いですね。 当然のことですが、チェックするには信頼の置けるヘッドホンが良いと考えています。今までは別のモニターヘッドホンを使っていたんですが、HPH-MT8を2016年のInterBEEで試聴したときにちょっとびっくりしたんですよ。比較する時って今まで使ってきたヘッドホンを基準にするじゃないですか。付け心地だったり、高域の抜けの感じだったり。ミックスのバランスとかを聴いたときに、HPH-MT8は直感で移行できるなって感じましたね。正直「うわ、これほしい!」と思いましたよ。笑
細かい作り込みにヘッドホンを使うことはありますか。
それは場合によります。ヘッドホンで初めから最後までミックスをすることはまず無いんですが、イメージが先に出て曲作りがスタートするときは、スタジオで作業を始めるとは限らないので、出先で作業を始める場合は先にヘッドホンでザックリ作ってしまって、スタジオに持ち込んだりします。ですから、細かい作り込み以外にもヘッドホンを使うことはありますね。
聴きたい音の曇りがとれたという印象ですね。
ヘッドホンは複数台使用されていますか。
今はHPH-MT8と定番のモニターヘッドホン、それにキャラクターの違うモニターヘッドホンの3機種を使っています。
他のヘッドホンと比べて音質はいかがですか。
明らかに豊かになったと感じました。豊かというのは変に色付けをしているという意味ではなくて、聴きたい音の曇りがとれたという感じでしょうか。
定番のモニターヘッドホンだと高域に少し癖があって、シャリシャリしがちだったりするんです。そうでないヘッドホンの場合だと、逆に低域がモタモタしているものが多くて、そういう意味でこれまで使ってきたモニターヘッドホンは“曇り”が気になっていたんです。 でもHPH-MT8はシャリシャリもなければモタモタもしない。ようするに“曇り”が無いんですよ。「これは!」と思いましたね。笑
とても自然な音が入ってくる印象です。
モニター用のヘッドホンを選ぶときの基準は何ですか。
変な色付けが無いこと。要はフラットであるということですね。
HPH-MT8はフラットだと感じますか。
物理的に100%フラットということはありえないですが、HPH-MT8は、よりしっくり来ると言いますか、とても自然な音が入ってくる印象です。
自然な音が入ってくるとは、どういうことですか。
ヘッドホンにも周波数の特性があると思うんですが、今まで定番のモニターヘッドホンを使っていたときも「このバランスだとスピーカーではこう聴こえる」という自分の中の基準があるんです。それを自分で変換をしながら聴くんですよ。HPH-MT8に替えてからは、その“変換作業”がすごく簡単になりました。スピーカーに近いというか、素直に聴こえるようになったと感じましたね。以前よりスムーズにミックス作業に移れるようになりました。
音質以外のところでヘッドホンに求めることはありますか。
私は着け心地ですね。欲を言えばもう少し軽ければいいかなと思います。
着け心地を重視するということは長時間使用されるんですか。
ライブ収録になったりすると2時間くらいは着けっぱなしだったりするので、着け心地は重要です。HPH-MT8はイヤーパッドがオーバーイヤーなのとクッション性がよいので、長時間の作業でも疲れないですね。
拾いたい音がちゃんと拾えるんです。
先日外録でニューヨークへ行った時に、モニターはすべてHPH-MT8で行いました。使っていて感じたんですが、拾いたい音がちゃんと拾えるんですよ。プレイバックしたときがわかりやすいんですが、スピーカーじゃないのに、まるでその場に居るかのような再現性があることに驚きました。
プレイバック中に子供の声がして後ろを振り返ったらHPH-MT8の音だったことがあって、それくらい生々しいというか、リアリティのある音なんです。あと、密閉度が高いのでタイムズスクエアのようなにぎやかな場所でもプレイバックが確認しやすかったですね。
今後違ったシチュエーションでもHPH-MT8を使われることはありそうですか。
ライブレコーディングでは必ずヘッドホンを使います。以前、お寺の中にマイクを立ててクラシックのアンサンブルを録音したときも、会場の中で録っているのでモニターにはヘッドホンが必須でした。別室で録音するときでもノイズチェックや回線チェックはヘッドホンで行いますので、そういった現場をはじめ、色々なシーンでHPH-MT8を使いたいと思っています。
その他にHPH-MT8で気に入っている点はございますか。
以前のモデル(HPH-MT220)と比べて、ケーブルが取り外せるようになったことです。私はストレートケーブルを使うことが多いですが、カールケーブルと選べるようになったのは良いですね。もう一つ、細かいところですが、私の場合は標準ジャックとミニジャックの変換が必須なので、HPH-MT8が変換できるのもありがたいです。
Profile
サウンドデザイナー。映画・TV番組・TVCM等の音響効果・音楽制作を手がける。 音響効果を担当した映画『aramaki』『Shikasha』( ‘10年 平林勇監督作品)がベルリン、カンヌの両国際映画祭にノミネート。『663114』(‘12年 同監督)では、第66回毎日映画コンクールで「大藤信郎賞」受賞、第62回ベルリン国際映画祭で「Special Mention」受賞、第10回ファントーシュ国際アニメーション映画祭でベストサウンド賞を受賞。
テレビ東京開局50周年企画の宇宙体感シアター「SPACE BALL」において、日本ポストプロダクション協会主催の「JPPA AWARDS 2013」サウンドデザイン部門でゴールド賞を受賞。
2013年のWorld Media Festival(ドイツ)で金賞を受賞したテレビ番組『しまじろうのわお!』も担当しており、同番組は2015年・2017年の2度にわたり国際エミー賞にノミネートされた。
現在は関西の制作拠点「Studio301」を主宰する傍ら、神戸電子専門学校のサウンド分野において後進の育成にも注力している。