HPH-MT8インタビュー / シンセサイザー・プログラマー・作編曲家・プロデューサー / 松武 秀樹氏
Japan/Tokyo, Jan 2018
音量が大きくても小さくても、ぼやけないできちんと聴こえる。ライブでも制作でも使えるヘッドホンだと思います。
シンセサイザーは音域が広いのでヘッドホンは欠かせない
松武さんはステージでいつもヘッドホンをしている印象が強いのですが、やはりヘッドホンとのお付き合いは長いのでしょうか。
長いですね(笑)。普通ならスピーカーで聴きながら音楽を作って、ところどころ「ヘッドホンで聴くとどうかな」と確認すると思うんですが、僕の場合は逆。僕は基本ヘッドホンで音を作っていって、最後にスピーカーで確認することが多いです。
ヘッドホンを使われるのはシンセサイザーの音域が広いからでしょうか。
そうです。シンセサイザーは自然楽器とは比べものにならないほど高い音から低い音までを出すことができますから、モニターするためには広い再生帯域が必要なんです。僕が使ってるアナログシンセサイザーは昔のトランジスタで音を作っている、今で言えば「ハイレゾ」なんです。とんでもない音域まで再生する能力を持っているので、たとえばシンセサイザーの音の判断、特に高音はいいヘッドホンでないと聴き取ることができないんです。もちろん非常に低い10Hz以下の低域はヘッドホンでは聴こえませんが、トータルでどれだけ下が鳴っていて、どれくらい上が聴こえるか。そのバランスが判断の基準になります。ですから基本はヘッドホンでモニターしています。
今でもシンセサイザーとヘッドホンはワンセットなんですね。
昔と比べるとスピーカーの性能もずいぶん良くなったので、最近はスピーカーを使用して音を作ることもありますが、それでもスピーカーでは聴こえない音がやっぱりあるんです。たとえばシンセサイザーで音を作る場合、ノイズが乗っているかどうかを判断するケースが多いのですが、それもヘッドホンのほうがより明瞭にわかります。
「え、ヤマハってヘッドホンでここまでやっていたんだ」と驚きました
HPH-MT8を使われるまでは、どんなヘッドホンをお使いでしたか。
一番良く使っていたのは、スタジオで定番のヘッドホン。良くも悪くも定番なので使ってはいましたが、ドンシャリなので、実際より良く聴こえてしまうんです。だからHPH-MT8を手に入れてからは使用頻度が減りました。HPH-MT8のほうが能率がいいんですよ。
「能率がいい」とはどういうことですか。
いわゆる明瞭度ですね。僕らはそれを「能率がいい」と言っていますけど、要は音量を大きくしても小さくしても、音がぼやけないできちんと聴こえるということ。ヘッドホンにはそれを求めています。
それは「音が細かくよく見えること」を要求しているということですか。
そうですね。例えばノイズを入れたシンセサイザーの音が、ハイパスフィルターでどのように聴こえているか。そこをちゃんと聴きたい。それが聴こえていないなら、ノイズを入れた音を作る意味があったのかなと思ってしまいます。
その明瞭度が他のヘッドホンとの違いでしょうか?
はい。下手な演奏やレコーディングの質が低くても、うまく化粧をして良いサウンドとして聴かせてくれるタイプのヘッドホンもありますが、制作の現場ではもっと実直な音を聴きたい。その点においてHPH-MT8は洗練されているんです。下手なものは下手にちゃんと聴こえるし、良いものは良く聴こえる。そこがいい点だと思います。
ヤマハのヘッドホンを使うのは初めてですか。
そうなんですよ。昔からシンセサイザーもスピーカーもヤマハさんのものをいろいろと使ってきましたが、ヘッドホンは初めてで、はっきり申し上げて、「え、ヤマハってヘッドホンでここまでやっていたんだ」って驚きました。
ライブは一発勝負だから、ヘッドホンが唯一の頼り
ヘッドホンは装着性や使い勝手も大事だと思いますが、そのあたりはどう感じられましたか。
ちょうどいい感じの圧力です。ヘッドホンって再生能力も大事ですけど、耳に違和感がないとか、パッドの柔らかさとかって大事ですよね。ヘッドホンはやっぱり人間が直接身につけて使うものだから、骨格にちゃんと合うものが必要だと思うんです。
ライブなどでは装着性は、やはり重要でしょうか。
私の場合、ライブの間、ずっとヘッドホンを装着しており、長時間ヘッドホンを使いますから装着性は特に大切です。しかもライブは一発勝負ですから唯一の頼りなんです。だからヘッドホンが痛いからって外すわけにはいきません。よく頭が痛くなるヘッドホンってあるじゃないですか。かけたときに頭に密着するので一瞬はいいんですけど、ずっとやってるとこめかみのあたりが痛くなってきて辛いんですよ。でもHPH-MT8はいいですね。ちょうどいい角度と締め付け具合とで、痛くなりません。これはかなりヤマハさんでも研究されたんじゃないかな。
HPH-MT8ではケーブルが着脱できてカールコードとストレートが交換できるようになりました。そのあたりはいかがでしょうか。
ミュージシャンは雑なので(笑)ケーブルを本体にくるくる巻いちゃうんですけど、それって断線の原因になるじゃないですか。だからケーブルは交換できたほうがいいと思います。
ステージでは遮音性も大事だと思います。その点はいかがでしょうか。
私の場合、ライブでオーディオとシンセサイザーの音を同期して鳴らすことがありますが、その時はオーディオとシンセの同期音源のレベルバランスもヘッドホンでとらなければなりません。ですからしっかり遮音されていて、しかも大きな音でも音が飽和せずにバランスや音色が明瞭にモニターできないと困るんです。HPH-MT8は遮音性が高くて能率が高いので使いやすいですね。僕らが言っている「能率が高い」というのは、そういうことなんです。
今後はスタジオでもライブでもHPH-MT8は活躍しそうでしょうか。
今、すでに3本くらい並行してレコーディングをやっているんですけど、HPH-MT8を使って音を確認しています。あとライブも何本か予定がありますが、全部HPH-MT8を使おうと思っています。
本日は御多忙中お時間をいただき、ありがとうございました。
Profile
シンセサイザー・プログラマー / 作編曲家 / プロデューサー。
1970年、シンセサイザーとコンピューターを組み合わせて演奏されていた「スイッチド・オン・バッハ」を聴き、新しいフィールドに大いなる興味と関心を抱く。20歳から冨田勲氏のアシスタントとして、当時日本には数台しかなかった“モーグ・シンセサイザー”による音楽制作のスタッフを経験。独立後もシンセサイザー・ミュージックの可能性を追求、 モーグ・シンセサイザー・プログラマーの第一人者としてロック、ポップス、CM音楽のレコーディングに参加する。1977年~1982年にかけて、シンセサイザー・プログラマーとしてYMO作品に参加し、数々の伝説的なレコーディングを経験し、ワールドツアーを含めたYMOライブにも帯同。「YMO第4のメンバー」と称される。1981年には自身のユニットであるLOGIC SYSTEM(ロジック・システム)を結成し、現在までに15枚のアルバムを発表。そのうちの2枚は世界8ヵ国でメジャー リリースされ、各地に熱狂的なファンを生み出している。2015年に著書『松武秀樹とシンセサイザー』(DU BOOKS)、2017年に活動45周年を記念するCD BOX SET『ロジック・クロニクル』を発表。同年、第20回文化庁メディア芸術祭「功労賞」を受賞。