アビテックス「防音の先の、いい響きへ」 Vol.2

鷲宮 美幸さん(ピアニスト)

まるで、ホールで弾いているようないい響きで弾けました。これ、嘘じゃないですよ(笑)。

各地の音楽祭での公式ピアニストやオーケストラ公演のソリストとして、室内楽奏者として、また桐朋学園大学嘱託演奏員などでも活躍中のピアニスト鷲宮美幸さん。いつものアビテックスの試奏ルームでの体験だけでなく、今回は会議室にグランドピアノを持ち込み、調音パネルの効果を鷲宮さんに実際にご体験いただきました。

Q01.本日は高輪防音ショールームにご足労いただき、ありがとうございます。今日はまず通常のアビテックスのショールームでピアノを弾いていただきました。その感想からお聞かせください。

最初はアップライトのアビテックスのお部屋で試弾させていただきましたが、2畳のお部屋で弾いているとは思えない、ちょうどいい快適な残響でした。今のアビテックスには音を吸うだけではなくて響かせる仕組みがあると聞いて驚きました。

2畳タイプのセフィーネNSでアップライトを試弾。「とても2畳の部屋で弾いているとは思えない」と鷲宮さん。

Q02.グランドピアノが入った3畳の部屋でも試弾していただきましたが、いかがだったでしょうか。

弾きやすかったです。普通グランドピアノであの狭さの空間だと、とても弾いていられないんです。狭いところだと、やっぱりピアノはうるさくなってしまうんです。特に普通の練習室でグランドピアノの屋根を上げて練習することは、まずあり得ません。でもアビテックスでは屋根を上げて気持ちよく演奏できました。目をつぶって弾いていると、もっと広い場所で弾いているような錯覚を覚えます。

3畳タイプのセフィーネNSでグランドピアノを試弾する鷲宮さん

Q03.屋根を上げて弾くほうが、気持ちがいいですか。

はい。本当はいつも、本番と同じように屋根を上げて自分に返ってくる音を聴きながら弾きたいんです。でも普通のレッスン室ではピアノの音が大きくなって耳が辛くなるので、とても屋根は上げられません。

Q04.次に小さな調音パネルの体験用ブースで、「調音なし」「グラスウールによる吸音のみ」「調音パネルでの響きが整えられた空間」を体験ください。小さめの管楽器の方にはこのブースで直接吹いていただくのですが、ピアノはちょっと無理なので、手を叩いて響きをご体験ください。

調音パネルなしで手を叩くと直接的な響きがした。

Q05.グラスウールの部屋はどうですか。

「グラスウールによる吸音」。手を鳴らしても響かずエネルギー感がないスカスカした音になる。

Q06.最後の「調音パネルあり」の部屋はどうでしたか。

ここは狭いのに音が心地よく響くんですね。不思議な気がしました。こんなに狭くてどれも同じように見えるのに、壁を変えるだけで響きが全然変わるのですね。驚きました。

調音パネルの部屋は適度な響きで狭さを感じさせない。

Q07.ありがとうございました。さて、では同じことを実際にグランドピアノを使って実験してみようと思います。

ほんとですか! ぜひよろしくお願いします。

Q08.というわけでショールームから移動していただきました。ここは「反響が強すぎて話が聴き取りにくい」と評判が悪い会議室です。今日は特別にここにグランドピアノを運び込みました。まずは何もしない状態で弾いてみていただけますか。

はい。

響きが強い会議室でそのままグランドピアノを試弾。

Q09.いかがでしょうか。

部屋の中でピアノの音がワンワンしてしまって凄いですね。あまりにも音が充満して、細かい部分や表情が聴き取れませんし、強く弾くと自分で何を弾いているかわかりません。この環境で演奏するのはちょっと辛いです。

Q10.ではこの部屋の壁に吸音用のグラスウールのパネルをとりつけてみましょう。

会議室の壁面全体に吸音効果のあるグラスウールのパネルを貼る。

Q11.これで先ほどの「グラスウール」の部屋と同じ防音された部屋になりました。試奏していただけますか。

グラスウールは高音を中心に吸音するため低音成分は残っている。

Q12.弾いた印象はいかがでしょうか。

弾いていて「つまらないな」と感じました。高音がすごく壁に吸われてしまっているんですね。淋しい音です。逆に低音域はゴンゴンとうるさすぎるくらい鳴っていました。あれはどうしてでしょうか。あんなに音が吸われているはずなのに、低域の音が暴れるのは?

Q13.グラスウールの特徴として高音はよく吸音するのですが、低音は吸音できないんです。グラスウールや絨毯は、実際には1000ヘルツ以上の高音しか吸音できないので、今鷲宮さんが感じられたような、高域は削られているのに、低音は鳴りすぎているという、バランスが悪い状態になったのだと思います。

なるほど、そうなんですね。もし予備知識なしで弾いたら「ピアノに問題があるのかな」と思うくらい、高音域と低音域の音量に差がありました。こうやって弾いてみると、ピアノって高音が削られると本当に寂しいし、演奏していても楽しくありません。しかもせっかくのいいヤマハのピアノ、高音のきらびやかさが特徴的なのに、そこが削られると残念な感じです。

Q14.こうした音の状況は、やはり演奏にも影響しますか。

はい。無意識に高音が出ない部分をなんとかしなきゃ、パランスを取らなきゃと、高音を目立たせるように弾くと思います。余計なことに気を使いますから、音楽に集中できませんし、どうしても自然な演奏ではなくなってしまいますね。

Q15.では、調音パネルに交換してみましょう。では弾いてみてください。

これは素晴らしいです! まるでホールで弾いている感覚でした。いや、これ嘘じゃなくて。私たちはコンサートのリハーサルの時に、ステージのいちばんいい響きの場所を探してピアノを動かしてみるのですが、その「響きがいちばんいい位置」に置いたピアノを弾いているような感覚です。

Q16.コンサートのリハーサルではステージ上でピアノを動かすのですか。

はい。響きが一番いい場所がみつかるまで動かします。結構、時間がかかります。

Q17.響きはかなり違うものですか。

違います。コンチェルトの場合はピアノを置く場所が限られているのでピアノはなかなか動かせませんが、ソロのリサイタルや室内楽ではいつもピアノを置く場所を工夫します。

Q18.そのくらい響きを大事にしているホールでのコンサートに近い響きだった、ということは、この場所の響きはかなりいいグレードが高い響きだということでしょうか。

はい、そう思います。

Q19.試しにですが、ピアノの下に調音パネルを入れてみてもいいでしょうか。

ぜひ試してみてください。

Q20.いかがでしょうか。

私のところではあまり変わらない気がしました。

Q21.弾き手には大屋根からの音が大きいので分かりにくいかも知れませんが、周りの私たちには違いが良くわかりました。ピアノの音がよりクリアで粒立ちがよくなったように聞こえました。

それは素晴らしいですね。

Q22.本日は何度も試弾いただき、ありがとうございました。鷲宮さんは調音パネルをご存知でしたか。

アビテックスはもちろん知っていましたけど。調音パネルは知りませんでした。こんないい響きになるなんて、ちょっと信じられないですね。もっといっぱい宣伝してください!

Q23.ありがとうございます。先ほどから「返ってきた音」という言葉を何度かうかがいましたが、ピアノは返ってきた音を聴いて、タッチや音量を調整しながら演奏するのですか。

そうです。ただ気持ちとしては、近くで鳴らすのではなく、ここで弾いた音をできるだけ遠くまで、客席のいちばん後ろまで響くように鳴らしたいと思って弾いています。

Q24.それだけ響きを大切にする、ということは、響きすぎる部屋、あるいは響きがない部屋ではピアノの練習は難しいのではないでしょうか。

そうなんです。たとえば「よく響く部屋」だとフォルテからピアノになったときに、あまりにも音が残っていたので、聴き取れなかったです。またグラスウールを使った「響きがない部屋」だと、高音が吸われてしまうから、高音が出るように強く弾いてしまうといった、悪いクセがついてしまうかもしれません。やはり響きのバランスがいい部屋だと、練習がはかどりますし上達も早いと思います。

Q25.ピアノの練習には、部屋の響きも影響があるということでしょうか。

響きのバランスいい部屋で練習することはとても大切なことだと思います。今日最初に弾かせていただいた2畳あるいは3畳のお部屋は、ピアノを練習するにあたって、とてもバランスのいい響きがあって、ストレスなくピアノを弾くことができました。弾いているとまったく狭い感じがしなくて、夢中にピアノを弾いていて、ふと顔を上げたら真横に壁があって驚いた、という感じです。

Q26.本日はありがとうございました。

鷲宮美幸

鷲宮美幸

桐朋学園大学ピアノ科入学。在学中、フランス音楽界の第一人者H.ピュイグ=ロジェ氏に見い出され、パリに留学。帰国後、桐朋学園大学を卒業。第56回日本音楽コンクール入選を皮切りに、UFAM国際コンクール・室内楽部門第2位、日本室内楽コンクール第3位、国際ピアノデュオ・コンクール2台4手部門第2位(日本人最高位)など、多くのコンクールに入賞するとともに、トゥール国際アカデミーでは2年連続で最優秀受講生に選ばれた。音楽の構造を的確に把握した上での繊細かつ大胆な表現は高く評価され、現在各地の音楽祭での公式ピアニスト、オーケストラ公演のソリスト、室内楽奏者、桐朋学園大学嘱託演奏員などで活躍中。また多くの国内外の著名なソリストに請われ、ジャン・ワン、マクサンス・ラリュー、レ・ヴァン・フランセのジルベール・オダン等と共演し、また世界屈指のチェリスト、ミッシャー・マイスキーと「徹子の部屋」「ニュース23」でも共演し、好評を博す。NHK FM「名曲リサイタル」に度々出演し、2007年11月にはNHK BS「ぴあのピア」にソロで出演している。

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