アビテックス「防音の先の、いい響きへ」 Vol.3

森 陽子さん(フルート奏者)

調音パネルの前でフルートを演奏すると「私は今、吹きたい場所」にいる、と感じます。

華麗で美しいフルートは、管楽器としては音量が小さいイメージがありますが、音が響きやすく音域が高いこともあり、実は練習場所には苦労をするのだとか。そこで今回はフルート奏者であり、フルート教室も主宰している森陽子さんをアビテックスの防音ショールームにお招きし、アビテックスや調音パネルの効果を実際にご体験いただきました。

Q1.高輪防音ショールームにご足労いただき、ありがとうございます。本日はインタビューの前にアビテックスをご体験いただきましたが、どんな印象だったのでしょうか。

以前からアビテックスはもちろん知っていました。でも最近のアビテックスは遮音性が高いだけでなく、室内の響きを良くする工夫がされていることを知ってとても驚きました。

試奏の前にアビテックスについてご説明。ピアノの自動演奏で遮音性と室内の響きをご体験いただいた。

Q02.実際に自動演奏のピアノの音でアビテックスの遮音性をご体験いただきましたが、いかがでしたか。

思っていた以上に遮音性が高かったです。私も自宅で教室をやっているので、同じ家の中でも、別の部屋ではこのくらい聞こえる、家の外ではこのくらい聞こえる、隣の家ではこのくらい聞こえる、ということがこのアビテックスのショールームで具体的に体験できて興味深かったです。かなり大きい音でピアノを弾いても隣の家ではほぼ「何も聞こえない」状態なんですね。驚きました。

ピアノの音が隣家ではどのくらい聞こえるかを体験中の森さん。ショールームは静かなのでわずかにピアノの音は聞こえるが、実際の屋外は自動車の騒音や生活音があるため、ピアノの音はほぼ聞こえなくなる。

Q03.アビテックスの室内で聴いたピアノの音はいかがでしたか。

狭いスペースでかなり強めに弾いているのに、ガンガンとうるさい音でなく、いい響きが感じられました。なぜでしょうか・・・・・。

Q04.アビテックスは外に音を逃さないように遮音しながら、響きを整理し、音をまとめる機能を持つ仕組みが壁面にあるからなんです。

なるほど。でも、あれだけでそんな効果がでるなんてちょっと不思議ですね。

アビテックスの壁面の吸音と響きのバランスを整えるパネルの中身を見る森さん。

Q05.アビテックスの防音効果の違いが比較できるように「調音なし」「グラスウールによる吸音」「調音パネルあり」のそれぞれの空間で吹いていただきました。感想はいかがでしたか。

「調音なし」の空間は、まず部屋の狭さに圧迫感がありました。狭い空間なので音は回っているのですが、楽器の「響き」は感じることができませんでした。

音がまったく処理されない「調音パネルなし」。フルート本来の「響き」を感じることができなかった。

Q06.「グラスウールによる吸音のみ」の空間での演奏はいかがでしたか。

吸音の空間は、部屋に入った時点で雑音がスッとなくなるので「疲れそうだな」という気持ちになります。吸音されていることが吹く前に耳で感じられるんですね。

Q07.吸音の部屋は実際に吹いてみて、やはり音が吸われていく印象はもちましたか。

はい。響きがほとんど吸われてしまいます。吸音された部屋で吹くと音大の練習室を思い出します。当時は夜遅くまで音が出せて助かると思っていましたが、部屋がまったく響かないので、自分の音の響きが聞こえません。今思えば、あれはあまり練習になっていなかったかもしれません(笑)。

「グラスウールによる吸音」。響きが失われてしまうため、響きがわからない、運指の練習だけしている気がする、と森さん。

Q08.響きのない部屋での練習が、あまり練習にならないのはどうしてですか。

響きがないと、楽器が一番鳴るポイントが分からないんです。「ただ運指の練習をしているだけ」という感じです。楽器の練習って、楽器がいちばんよく響くところを探しているようなところがあるんです。でも吸音された部屋では、響きが聞こえないので、それがわかりません。自分の響きを聴くという管楽器の練習で一番大切なことができない気がします。

Q09.調音パネルの空間はどんな印象でしたか。

調音パネルの空間では、フルートの音の響きのポイントがよく聴こえました。とても吹きやすかったです。

Q10.この3つの部屋はとても狭い空間なので管楽器の練習場所には適していないと思うのですが、調音パネルがあると全然違いますか。

確かにとても狭いですが、調音パネルの空間なら練習できる感じがします。やっぱり自分の響きが聴こえるからですね。吹いてみて、「ああ、ここなら聴こえる」と思いました。

狭い空間だが調音パネルの効果でフルートの響きのポイントが聴こえ、練習がしやすい。

「調音パネルなし」「グラスウール」「調音パネルあり」の比較はショールームの調音パネル体験コーナーで体験できる。

Q11.その後、ショールームのロビーでも調音パネルあり/なしと条件を変えてフルートを吹いていただきました。どう感じましたか。

まず、最初にパネルがない状態で吹きましたが、演奏するには「音が響きすぎる」と感じました。広いところに向かって吹いているような印象で、廊下の奥の方に自分の響きが溜まっているような印象を持ちました。

ショールームのロビーでフルートを吹いていただいたところ、響きすぎる印象だった。

Q12.調音パネルを置いたら、どんな変化がありましたか。

パネルを置く前の「響きすぎていた部分」、つまり余分な響きが調音パネルにうまく吸収されたようで、適度ないい響きに変わりました。パネルの手前に音が響くポイントがあると感じます。私にとって自分の音が「ちょうどよく返ってくる場所」が吹きたい場所なのですが、まさにその「吹きたい場所」にいる気がしました。

同じ場所で調音パネルを置いて試奏。余計な音がカットされて音が整理され、自然な響きが生まれた。

Q13.森さんにとって「返ってくる自分の音を聴く」ことは、重要なのでしょうか。

はい。もし自分に返ってくる音がなかったら、今出している自分の音がイメージできません。音が返ってくれば、そこに向かって吹くイメージで演奏します。ですから自分に返ってくる音は、私にはとても重要です。

Q14.この調音パネルは、今日が初体験でしたか。

はい。初めて見ました。ただパネルが立ててあるだけなのに、とてもいい反響が得られますね。楽器を練習する人は音が外に漏れないように部屋を吸音することで防音することが多いと思いますが、このパネルがあれば部屋の中ではいい響きが得られて、とてもいいと思います。

Q15.最後に自由設計のアビテックスの部屋でも演奏していただきましたが、いかがでしたか。

部屋の中で響きがいい場所を探して吹いてみましたが、よく自分の音が返る場所があって、気持ちよく吹くことができました。管楽器奏者にとってこんな練習室があったら素敵ですね。とても快適でした。

自由設計のアビテックスで試奏。部屋の中でも響きがいい場所を探す森さん。

Q16.森さんがフルートを始められたときのことを教えていただけますか。

フルートは中学1年生の時、ブラスバンドに入って吹き始めました。入学式でブラスバンドがズラッと並んで演奏していて、それが朝日を浴びて楽器が輝いていて、とてもかっこよく見えたんです。その中でもフルートとトロンボーンがいいなと思いましたが、フルートを選びました。

Q17.その頃は学校で練習していたのですか。

そうです。学校の音楽室で朝練、昼練して、放課後は人がいない木の下などで練習していました。家でもよく練習していましたが、当時は防音の苦労はありませんでした。

Q18.その後音大に進まれたのですね。

はい。音大時代は学校の練習室がありましたが、数が限られていたので争奪戦でした。その防音室が、今日体験した「吸音のみ」の音の感じでした。でも防音室というものはそういうものだと思っていました。

Q19.その後、演奏家として東京で活動されるようになった時の練習環境はどんな感じでしたか。

音大を卒業してすぐ東京に出てきましたが、最初は防音のマンションに住みました。マンション自体は24時間音を出しても大丈夫という部屋でしたが、長く住むには厳しい環境でした。防音室に住んでいるようなものでしたから、自然音がまったく入ってこなくて辛くなってしまったんです。ここに住んだのは結局1年半くらいでした。

Q20.なるほど。その後はどうされたのですか。

とにかく「防音」ありきで探しましたから、引っ越しには苦労しました。家でフルート教室をやっていたこともあったので、防音のための窓に毛布を吊したり、音が外に漏れそうな換気扇や窓に防音用のフタを自作してはめ込んでふさいだりと、本当にいろんな苦労をしました。私にとって、フルートの練習の歴史は防音の歴史で、住むところも、まず「音が出せるところ」が条件だったんです。

Q21.練習場所で苦労された森さんにとって、理想の練習場所とはどんなところでしょうか。

外に対しては遮音されていて音が漏れない、そして練習する部屋の中は適度な響きがある、そんな環境が理想ですね。適度な広さと適度な返り。響きはほしいけど、残響はいらない。そんな感じです。小ホールとまでは言わないですが、よく響くサロンのような部屋があれば最高ですね。

管楽器奏者にとっての理想的な練習環境とは?

・適度な広さと適度な音の返り

・響きはほしいが、残響(よぶんな響き)はいらない

Q22.今日体験いただいたアビテックスはフルートの練習環境としていかがでしょうか。

とても素晴らしかったです。理想にかなり近い環境ではないでしょうか。普通に防音した部屋でも先ほど試した調音パネルがあれば、フルートの演奏に適したいい響きが得られそうです。

Q23.森さんのフルート教室の生徒のみなさんも、同じように練習場所には苦労されているのでしょうか。

そうですね。部屋で練習していると隣から壁を叩かれたり、下から棒で突かれたりした、という話を聞いたことがあります。カラオケボックスで練習している方も多いです。フルートに関して言えば、練習に適した場所を探すのは大変なんです。公園などの屋外は砂ぼこりもあってフルートの構造上よくありませんし、カラオケボックスも決して響きがいいとは言えません。環境や予算的な条件が許すのであれば、アビテックスのような響きのいい防音室があれば、それは理想的だと思います。

Q24.この記事の読者の方は管楽器を練習している方が多いと思います。最後に管楽器が上達するコツについて、何かアドバイスをいただければ幸いです。

一番大切なことは余分な力を抜くことです。これはみんな言いますが、実は一番難しいことです。

Q25.管楽器は音を出すために力んでしまいがちですから、フルートを吹きながら力を抜くのはなかなか難しいことかもしれません。

ただ、自分もそうですが、頑張ると「いい音」は出ないんです。ダラッとしたほうがうまくいくときがある。たとえば、水面に向かって石を投げてハネさせる「水切り」っていう遊びがあるじゃないですか。ああいうものはがんばって練習しても、なかなかうまくいきません。でもあるとき、ふっと力を抜いて投げることができると、スタンスタンと6、7回水面を跳ねるという、あの感覚に似ているのではないかと思います。「次はいい音を出そう」という邪念がなくなったとき、力が抜けるのかもしれません。

Q26.本日はありがとうございました。

森 陽子

森 陽子

フルート奏者。エリザベト音楽大学卒業。海外講習会にて、J.ゴールドウェイ(スイス)、マリア・アントニア・ロドリゲース(スペイン)、ビセンス・プラッツ(スペイン)に学び、ディプロマ取得。2005年より松尾ホールにてリサイタル活動を開始。フルート曲に限定せず、他楽器曲を編曲し、フルート演奏を探求してきた。これまで篠﨑史子(ハープ)、青柳晋(ピアノ)、鷲宮美幸(ピアノ)、碓井俊樹(ピアノ)等と共演。

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