YG-2500
大室 裕昭 (商品開発部打楽器設計課)
1981年入社。これまでにティンパニと、ビブラフォン、グロッケンシュピール、マリンバ等の音板打楽器の開発・設計を担当。現在は打楽器全般における新商品開発のプロジェクトリーダーや設計リーダーを務める。
※所属部署および部署名は取材当時のものです。
この楽器を開発することになったきっかけを教えてください。
大室)
これまでのグロッケンになかった音域を上にも下にも伸ばして、より広い音域で演奏できるようにというコンセプトのもと開発がはじまりました。
特にヨーロッパ地域からそういった要望があったんです。チェレスタで演奏する曲をグロッケンで代用するという使い方も多く、グロッケンの音域をどこまで広げたいかと現地でインタビューをしたときに、C52~E92までの音域があれば充分だろうという話になったんですね。特に高音の部分は、グロッケンの高音は周波数が高いので、人間の耳でよく聞き取れなくなることがあるんですね。本当はE(ミ)とかD(レ)とかの音が欲しいのにそこまで音域がない楽器だとC(ド)の音を叩いてごまかすなんてこともあるみたいですよ(笑)。実際そういう風にたたいてみると、Eの音に聴こえちゃうんですよね。でもそんなことはやってはいけませんから、ちゃんとEの音が出るようにということでこの音域に決めたわけです。
ヨーロッパでは、この音域でダンパーペダルと共鳴管がついたタイプというのはごく一般的です。それが日本でもより一般的になることが今後の課題かもしれませんね。この楽器をイメージして吹奏楽などで作曲家が曲をつくってくだされば、この楽器もより一般的になるかもしれません。
この楽器の最大の特長はなんですか?
大室)
1986年くらいからヤマハはディーガンのグロッケンシュピールを作っているので、この楽器の最大の特長は、そのノウハウをヤマハの楽器の中にも取り入れることができたということですね。
ヤマハのグロッケンは、鉄の材料を「音をなるべく素直に伸ばす」というのがコンセプトで、硬い鉄を均一に焼きなましてそんなに硬くない状態にしているんです。ディーガンの発想というのはそれとは違って、硬い鉄を真っ赤に焼いたあとで、ぐっと叩いてつぶして音板を作っていたんです。ディーガンの音板はディーガンらしくより硬くなるように特別な熱処理をしています。具体的に言うと刃物を作るときの焼き入れみたいな処理ですね。でも焼入れをしてしまうとまさしく刃物みたいな音になって耳障りなので、そこまで硬くならないような焼き馴らしという特別な熱処理を採用しています。
その熱処理をこのYG-2500にも応用しています。これは他メーカーにはできない特別な処理です。ディーガンの伝統を参考にしながら、ヤマハ独自の新しい価値を取り入れたということです。
ヤマハのグロッケンは、もともとディーガンのグロッケンを非常に意識してつくられています。ですからディーガンと形も良く似ていますね。
ただ、ディーガンとまったく同じではなくてヤマハのオリジナリティが高いものにしたかったので、特別な熱処理を採用して音が伸びてディーガンとは違う材質になるようにしたんです。
調律方法にも特長があるということですが、具体的にはどのような方法でしょうか?
大室)
音板もこれまでビスで留めていたものを、穴を開けてひもを通すというマリンバやビブラフォンのようなタイプにしました。これにはグロッケンの音板の長さをどう調節するか、いかに調律をうまく合わせるかという点で非常に苦労しました。従来のグロッケンシュピールは、調律のために裏側を削るということをあまりしません。そんなに裏を削らないでちょっとこする程度なんですね。
裏を削らないということがどういうことかというと、音板の長さがそのままピッチに影響するということです。だから基本的に直線的に音板が並ぶのではなくて、低音部がすごく長くなって高音部が極端に短くなる、曲線的なカーブを描く並びになります。 でもそうするとひもが通せないですよね。そうならないように、ある程度直線的な配置にしてかつグロッケンらしい音色に調律するという点で苦労しました。ですからこの音板はかなり裏をえぐっています。
このグロッケンは基音だけではなくて倍音の調律もしています。グロッケンは基本的に基音のみの調律なのですが、この音板は4倍音の調律もしています。
グロッケンにダンパーペダルがついているとどのような利点があるのですか?
大室)
モーツァルトの「魔笛」などでは、チェレスタの代用として使われることも多いので、フレーズが早いですよね。早すぎて手では止めきれないというときにダンパーペダルがあるとこまめに止められます。