ASRシリーズ アルトサクソフォン用シンセティックリード

ヤマハシンセティックリード開発ストーリー

樹脂リードを上達の近道に。ヤマハシンセティックリードのこだわりをご紹介します。

鰕原 孝康(えびはら たかやす)

シンセティックリードプロデューサー。2012年ヤマハ入社。学生時代の楽器音響学の知識や管楽器開発経験をベースに樹脂リードの企画を考案。自身はホルンを演奏。

大野 徹(おおの とおる)

シンセティックリード設計開発担当。1982年ヤマハ入社。リコーダー・Venova開発に携わり、管楽器×樹脂の組み合わせでは知識とノウハウが豊富。自身はクラリネットを演奏。

まず、どうして樹脂リード(人工的に葦を模したリード)開発をヤマハが始めたのか、振り返ってみたいと思います。樹脂リード開発の経緯をお話いただけますか。

まず、どうして樹脂リード(人工的に葦を模したリード)開発をヤマハが始めたのか、振り返ってみたいと思います。樹脂リード開発の経緯をお話いただけますか。

鰕原:きっかけはサックスやクラリネットの音を左右する「リード」が、実は初心者にとって大きなハードルになっている、という議論でしたね。

大野:そうなんですよね。昔から使われている葦リードは使いながら徐々に馴染ませていく(業界用語で「育てる」)ことで、演奏する人の出したい音色や表現を自在に操ることができる魅力があります。一方、良い葦リードを見分ける、育てるのは簡単ではありません。最初は、初心者にとってはまずは吹きやすい、温度や湿度などのコンディションに左右されにくいリードを使った方が良いという意見もあります。

鰕原:葦リードは意外に初心者には難しいものですよね。樹脂リードを選択する人も増えていると聞いています。

大野:確かに樹脂リードを選ぶ人も増えています。例えば経験者の中には、良い葦リードを温存したいから練習時には樹脂リードを使うという人もいます。

樹脂リードを初心者のためのものに

鰕原:そんな議論の中で私が思ったのは、樹脂リードの恩恵を受けるのは初心者であるべきじゃないか、ということなんです。まだアンブシュア(楽器を吹く口の形)ができていないうちから吹きにくいリードを選んでしまう。そういったリードを何とか吹くためにアンブシュアが崩れてしまう。そうではなく、アンブシュアや奏法に合わせて吹きやすいリードを選ぶ、という発想です。そうすれば楽器を吹くことももっと楽しくなると思うんです。だからこそ、いつでもストレスなく音が出る樹脂リードを、初心者にこそ使ってほしいと感じました。

大野:樹脂リードを初心者が吹く、って中々そういう発想は無かったのですが、鰕原さんの話を聞いて「なるほど」と。初心者でもまっすぐに音が出しやすいリード。楽器につけたとき、口に入れたときに違和感がない、見た目にもリードに近いもの。確かにこういったリードは今まで無かったかもしれない。じゃあ、ぜひやってみようと、こういった点をコンセプトに開発を始めました。

実現するためにこだわったポイント

開発でこだわったポイントはどこですか?

開発でこだわったポイントはどこですか?

鰕原:音が出しやすいからと言って、音色が葦リードから遠くなってもいけないですよね。大野さんには吹きやすさと自然な吹奏感の両立という難しい課題にチャレンジ頂きました(笑)。

大野:簡単に言うんだから(笑)。実際は手探りで良い形状を探しながら、葦リードの研究も行い、どうやったら自然な吹奏感が出るのか必死で考えました。ヒントの1つがリードの振動です。リードは上下に振動することでマウスピースの先端とくっついたり離れたりする。これが高速で起きることで音が鳴ります。このリードの振動に特徴があるのではないかと考え、葦リードがマウスピースの上で振動するようすをハイスピードカメラで撮影してみました。すると、葦リードは単に先端が一緒に上下するのではなく、まず左右の端がマウスピースにつき、その後に中心部分がつく、という特徴があることがわかりました。そこで、樹脂リードでも同じような振動を得るため、なるべくリードの左右の端を薄くし、中央に背骨を走らせるようなデザインにしました。

また、音の出しやすさにはリードの「反り」も関係します。リードがマウスピースと逆方向に反ってしまうと、マウスピースとリードの開きが大きくなるので音が出しにくくなるんです。この「反り」を最小限にするため、樹脂リードには熱処理を加えています。イメージとしてはオーブンの中で温める感じなのですが、これによって形状を安定させることができます。さらに、熱処理によって音色も深みのあるものになったので、熱処理は試してみて大正解でした。

最後に、これからヤマハシンセティックリードを試す方へのメッセージをお願いします。

鰕原:楽器を練習する際には、常に良いコンディションで練習することが上達への近道と言われていますよね。実際にクラリネットを吹く大野さんとしては、「良いコンディション」は何だと思いますか?

大野:初めてクラリネットらしい音が出た時、本当にうれしかったのを覚えています。これから憧れていた色々な曲が吹けるんだなとワクワクした。その時に感じた「自然と音が出る楽しみ」を感じられるのが「良いコンディション」じゃないかと思うんです。だからこそ、いつも自然に良い音が出るリードで正しいアンブシュアや姿勢を楽しみながら身につけていってほしいと思います。樹脂リードは慣らしも要りませんし、湿度や温度にも強いので、いつでも同じコンディションで吹くことができますし。

鰕原:それに、樹脂リードだからといって音色に変化が出ないかといえばそうではありません。樹脂リードにもそれぞれわずかな違いがあります。人によって口の形や体格も異なりますし、マウスピースなど周りのセッティングによっても理想の番手は異なります。その日の調子に応じて、リードの位置を少しずらすなどして調整することもできます。リードの選び方、調整の仕方はFAQページにも載っているので、ぜひ参考にしてもらえればと思います。

リードに振り回されるのではなく、自分でリードをコントロールしていつも良い状態で吹いてもらえれば、きっと楽しみながら上達できるんじゃないでしょうか。

最後に、これからヤマハシンセティックリードを試す方へのメッセージをお願いします。