音楽史について学ぶ
バロック音楽
バロック音楽の背景
劇音楽が誕生した1600年から、大バッハ(J. S. バッハ)の死んだ1750年までの約150年間をバロック音楽の時代とよびます。政治的には絶対主義の時代です。なかでも、その体制を最も早く確立したフランスでは、この時期、ルイ13世(在位1610-43)、ルイ14世(在位1643-1715)、ルイ15世(在位1715-74)という3代の君主が立ち、とくにルイ14世時代には、バロック建築として有名なヴェルサイユ宮殿を中心に、けんらんたるフランス文化が繰り広げられました。しかし、ドイツはまだ統一されておらず、諸侯が分立している形が続いていました。神聖ローマ帝国の皇位継承権を持つオーストリアがやや衰えを見せ始め、むしろ新興勢力であったプロイセンが次第に優位に立ち、18世紀の中頃にはフリードリヒ大王(在位1740-86)が登場してきます。
17世紀時代にはオーストリアのハプスブルク家の分国のような形だったスペインは、フランスのブルボン王朝の隆盛にともない、18世紀初めにはブルボン朝系の王による絶対主義国家となりました。イギリスは16世紀後半のエリザベス女王のあと、1649年の清教徒革命、60年の王政復古、88年の名誉革命といういくつかの歴史的な事件を経て、1707年にはスコットランドを併合して大ブリテン連合王国となります。その頃には、清教徒革命後にアメリカに移住した人たちによってアメリカが建国され、1776年に独立宣言を行うことになります。ロシアはやや遅れて、近代国家としての形態を整え始めましたが、まだこの時期には充分にその力を発揮するには至っていません。
このバロック時代に先立つ3世紀ほどの間は、ヨーロッパ全土にわたってルネサンスの運動が展開された時期です。ルネサンスというのは、14世紀頃から16世紀頃にかけてヨーロッパにおこった精神的、文化的な運動です。それまでの文化が王侯貴族や聖職関係者によって作られていたのに対して、一般市民階級の間におこった世俗的市民文化であるという特徴があります。
ルネサンスは自然と人間を発見した文化だといわれています。これは1つには、科学の発達によって人々が世界観の広がりに目ざめたことと、それによって人間とはなにかを考えるようになったことと関係があります。いいかえれば、中世的な教会と対立せざるをえなくなった状況から生まれてきたのがルネサンスでした。つまりルネサンスとは、「人間のあるがままの姿を追求するというヒューマニズムの精神」にほかなりません。また、1453年にはビザンツ帝国が滅亡して、イタリアへ亡命してきた学者や文化人により、古代の学術書や文学書が紹介されて大きく啓発されたことも刺激となりました。そうしたルネサンス思潮は、15世紀におけるグーテンベルク(J. G. Gutenberg, 1400頃-68)の活版印刷術の発明と発達によって、ヨーロッパ全土に急速に伝えられていくことになります。
こうして、15世紀時代には、画家のボッティチェリ(C. Botticelli, 1444-1510)をはじめ、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonaldo da Vinci)、ラファエロ(S. Raffaello, 1483-1520)、ミケランジェロ(B. Michelangelo, 1475-1564)などが現れます。また科学の面では、地動説のコペルニクス(N. Copernicus, 1473-1543)やそれを発展させたガリレイ(G. Galilei, 1564-1642)などが現れ、印刷術と同様に、羅針盤や火薬の発明などが相次ぎます。こうして精神的な面だけではなく、物質面からの人間の思想的変革も行われるようになって、人々の考え方を根本的に変えていくことになるのです。
音楽史でバロック時代といっている時期は、そうした人間精神の変化と社会的な情勢の変化を受けて、次のフランス革命による近世的な人間性への目ざめ、つまり、個人としての人間が確立されていくまでの、過渡的な時代といえるでしょう。同じように音楽もまた、近世音楽(つまり和声音楽)への準備的な時期であるといえます。いいかえれば、「われわれが現在親しんでいる音楽のさまざまな要素が、この時代にほとんど登場しはじめた」といってもいいでしょう。
このバロック時代で音楽史的に大切なことがらは、2つあります。1つは劇音楽(直接にはオペラ)の誕生とその発展であり、もう1つは本格的な器楽が興隆(こうりゅう)したことです。
17世紀時代にはオーストリアのハプスブルク家の分国のような形だったスペインは、フランスのブルボン王朝の隆盛にともない、18世紀初めにはブルボン朝系の王による絶対主義国家となりました。イギリスは16世紀後半のエリザベス女王のあと、1649年の清教徒革命、60年の王政復古、88年の名誉革命といういくつかの歴史的な事件を経て、1707年にはスコットランドを併合して大ブリテン連合王国となります。その頃には、清教徒革命後にアメリカに移住した人たちによってアメリカが建国され、1776年に独立宣言を行うことになります。ロシアはやや遅れて、近代国家としての形態を整え始めましたが、まだこの時期には充分にその力を発揮するには至っていません。
このバロック時代に先立つ3世紀ほどの間は、ヨーロッパ全土にわたってルネサンスの運動が展開された時期です。ルネサンスというのは、14世紀頃から16世紀頃にかけてヨーロッパにおこった精神的、文化的な運動です。それまでの文化が王侯貴族や聖職関係者によって作られていたのに対して、一般市民階級の間におこった世俗的市民文化であるという特徴があります。
ルネサンスは自然と人間を発見した文化だといわれています。これは1つには、科学の発達によって人々が世界観の広がりに目ざめたことと、それによって人間とはなにかを考えるようになったことと関係があります。いいかえれば、中世的な教会と対立せざるをえなくなった状況から生まれてきたのがルネサンスでした。つまりルネサンスとは、「人間のあるがままの姿を追求するというヒューマニズムの精神」にほかなりません。また、1453年にはビザンツ帝国が滅亡して、イタリアへ亡命してきた学者や文化人により、古代の学術書や文学書が紹介されて大きく啓発されたことも刺激となりました。そうしたルネサンス思潮は、15世紀におけるグーテンベルク(J. G. Gutenberg, 1400頃-68)の活版印刷術の発明と発達によって、ヨーロッパ全土に急速に伝えられていくことになります。
こうして、15世紀時代には、画家のボッティチェリ(C. Botticelli, 1444-1510)をはじめ、レオナルド・ダ・ヴィンチ(Leonaldo da Vinci)、ラファエロ(S. Raffaello, 1483-1520)、ミケランジェロ(B. Michelangelo, 1475-1564)などが現れます。また科学の面では、地動説のコペルニクス(N. Copernicus, 1473-1543)やそれを発展させたガリレイ(G. Galilei, 1564-1642)などが現れ、印刷術と同様に、羅針盤や火薬の発明などが相次ぎます。こうして精神的な面だけではなく、物質面からの人間の思想的変革も行われるようになって、人々の考え方を根本的に変えていくことになるのです。
音楽史でバロック時代といっている時期は、そうした人間精神の変化と社会的な情勢の変化を受けて、次のフランス革命による近世的な人間性への目ざめ、つまり、個人としての人間が確立されていくまでの、過渡的な時代といえるでしょう。同じように音楽もまた、近世音楽(つまり和声音楽)への準備的な時期であるといえます。いいかえれば、「われわれが現在親しんでいる音楽のさまざまな要素が、この時代にほとんど登場しはじめた」といってもいいでしょう。
このバロック時代で音楽史的に大切なことがらは、2つあります。1つは劇音楽(直接にはオペラ)の誕生とその発展であり、もう1つは本格的な器楽が興隆(こうりゅう)したことです。