この記事は2018年10月5日に掲載しております。
ピアニストへの道のりは長く、そして多様だ。東大大学院で工学を研究する角野隼斗は、幼少期からピティナ・ピアノコンペティションで金賞・銀賞に輝き、この夏ついに特級グランプリを勝ち取った。ピアノと研究を両立させる新たなピアニスト像とその能力に、注目が寄せられている。
© 山田翔
- pianist
角野隼斗 - 1995年生まれ。2000〜2005年、ピティナピアノコンペティション全国決勝大会にて、A2級優秀賞、B〜D級銀賞、Jr.G 級金賞受賞。2002年および2011年、ショパン国際コンクール in ASIA 小学1,2 年生の部および中学生の部アジア大会にて金賞受賞。2002年、千葉音楽コンクール全部門最優秀賞を史上最年少(小1)にて受賞。2015年、ピティナ・ピアノコンペティション2 台ピアノ・コンチェルトB 部門第1位。2017年、ショパン国際コンクール in ASIA 大学・一般部門において金賞、及び特別優秀賞・ソリスト賞受賞。日本クラシック音楽コンクール大学男子の部最高位。2018年、クリスタルpianoコンクール第1位。デザインKピアノコンクール第1位。ピティナピアノコンペティション特級グランプリ、及び文部科学大臣賞、スタインウェイ賞受賞。これまでに国立ブラショフ・フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団オーケストラと共演。
現在、東京大学大学院1年生。金子勝子、吉田友昭の各氏に師事。2018年9月より半年間、フランス音響音楽研究所 (IRCAM) にて音楽情報処理の研究に従事。フランス留学中にクレール・テゼール氏に師事。
※上記は2018年10月5日に掲載した情報です。
グランプリ受賞は「まさか」の結果
「ピティナ・ピアノコンペティション」は、例年約4万5千人(予選~決勝の延べ人数)が参加し、世界的に見ても最大級の規模を誇るピアノ・コンクールだ。その頂点に輝く「特級」グランプリは、関本昌平、田村響などの優れたピアニストを輩出している。2018年8月21日にサントリーホールで開催されたファイナル・ステージでは、4名のファイナリストが協奏曲を演奏(岩村力指揮、日本フィルハーモニー交響楽団)。見事グランプリに輝いたのは、東京大学大学院1年の角野隼斗だ。大学院では音声の信号処理を研究しているというバリバリの理系。音大ピアノ専攻ではなく、東大理系の学生が優勝したことで、注目を集めている。
「ピアノは3歳くらいから始めました。母がピアノ講師をしているので、家のリビングにグランドピアノがあるのです。気付いたらピアノを触っていましたね。最初の手ほどきは母から受けましたが、6歳から金子勝子先生のもとに通い、ピティナのコンペティションを受けるようになりました。当時はA3級という、とても小さい子も参加できる級があったので、そこから数えると10回は受けました。小4の時にJr.G級で金賞をいただき、東大2年の時に2台ピアノ・コンチェルトB部門で優勝しましたが、最終的に今年グランプリをいただいたのは本当に嬉しく、感慨深いです」
爽やかに、落ち着いた口調でそう語る角野だが、グランプリ受賞は「まさかの結果」だったという。
「ピティナの特級審査は第1~3次予選、セミファイナル、ファイナルと進んでいきますが、自分は第2次か3次予選くらいまでかなと。セミファイナルに進めれば本当にラッキー、くらいに思っていたのです。
大学院での研究もあるため、実際にセミファイナルに進めることになったときは、練習時間の確保がきつかったです。大学院での研究もあるため、1日6時間程度の練習で50分のリサイタルプログラム、そしてファイナルの協奏曲を、2週間で準備。予想していなかったので、本当に大変でした」
ファイナルでは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番ハ短調を選曲した。4名のうち、トップバッターでの演奏となった。
「この協奏曲はピアノの独奏で開始します。会場の空気はかなり張り詰めていたので、最初の一音を出す瞬間は、これまでの自分の人生でもっとも緊張しました。しかしオーケストラとのアンサンブルが始まると、とても気持ちよく演奏できました。指揮者の岩村力さんともアイコンタクトを取ることができて楽しかった。打ち合わせの際、岩村さんも早稲田大学の理工学部をご卒業されていると知り、僕も理系なので、急に親近感を持ってお話させていただくことができました」
この作品では過去に二度、オーケストラとの共演経験がある。ピティナの2台ピアノ・コンチェルトB部門で1位になった際の入賞者記念コンサート、そして2016年にはルーマニアにて国立ブラショフ・フィルハーモニー交響楽団との共演する機会を得た。
「逆に言えば、この2度の経験以外は、オーケストラと共演したことがありません。でも、昔からキーボードやドラムで、ジャズバンドの演奏などをしているためか、一人でステージに立つよりも、オーケストラと一緒にアンサンブルするほうが、気持ちが乗れるなと実感しました。演奏後は、とにかく感謝の気持ちでいっぱいでした」
※上記は2018年10月5日に掲載した情報です。