コンサートレポート

コンサートレポート

俊英ピアニストの魅力を多彩なプログラムで聴く~鈴木隆太郎 ピアノ・リサイタル~

2019年8月29日(東京文化会館小ホール)

18歳で渡仏、パリ国立高等音楽院で学び、イル・ド・フランス国際ピアノコンクール第1位ほか、数々の国際コンクールで優秀な成績を収め、パリを拠点に演奏活動を展開している鈴木隆太郎さん。2019年8月29日、文化庁と日本演奏連盟が主催する新進演奏家育成プロジェクト〈リサイタル・シリーズ〉に登場し、渡仏から10年の足跡を辿るような多彩なプログラムを楽しませてくれました。

■プログラム
ドビュッシー:前奏曲集 第1巻より
第5曲 アナカプリの丘
第6曲 雪の上の足音
第7曲 西風がみたもの
ショパン:マズルカ イ短調 作品17-4
ショパン:ピアノソナタ第3番 ロ短調 作品58
シューマン:トッカータ ハ長調 作品7
ベートーヴェン:ピアノソナタ第7番 ニ長調 作品10-3
リスト:ドン・ジョバンニの回想

 ドビュッシーの前奏曲集第1巻からの3曲、「アナカプリの丘」「雪の上の足音」「西風がみたもの」で幕を開けたリサイタル。柔軟なタッチでヤマハCFXから繊細なニュアンスに満ちた音色を引き出し、さまざまな情景が描き出されていきます。続いてワルシャワからパリに移ったばかりの頃のショパンの望郷の想いが投影された《マズルカ イ短調 作品17-4》をみずみずしく聴かせ、ショパン後期の傑作《ピアノソナタ第3番 作品58》。のびやかな感性でドラマティックな音楽を構築し、会場を感動の渦に巻き込みました。

 後半のステージは、シューマン《トッカータ ハ長調 作品7》でスタート。鮮やかな技巧で若き日のシューマンの情熱あふれる音楽を紡ぎ出しました。続くベートーヴェン《ピアノソナタ第7番 ニ長調 作品10-3》では、楽譜を緻密に読み解きながら、力強い推進力で第1楽章を清々しく歌い上げ、深い精神性を感じさせる第2楽章、明るく優雅な第3楽章、何かを問いかけるような動機とそれに応えるようなフレーズで展開する第4楽章、ベートーヴェンの魅力を再発見させるフレッシュな演奏を楽しませてくれました。そして最後の曲は、リスト《ドン・ジョバンニの回想》。パリ国立高等音楽院の修士論文でリストによるオペラ編曲作品を取り上げた鈴木さんは、超絶技巧の難曲として知られるこの作品のドラマ性をピアノで再現することの意味を掘り下げ、ヤマハCFXの色彩豊かな音色を駆使して、オーケストラやオペラ歌手の歌声のような響きを生み出しました。冒頭のドン・ジョバンニに殺された騎士長の呪いのテーマの暗く重々しい和音、アルペジオ、半音階の快速なパッセージから聴衆はモーツァルトのオペラの世界に誘われ、「お手をどうぞ」のテーマの華やかな変奏、再び現れた騎士長の呪いのメロディー、「シャンパンの歌」のテーマの圧倒的なフィナーレまで、洗練されたピアニズム、知的なアプローチに魅了されました。

 鳴りやまない拍手に応えて、アンコールはショパン《練習曲 作品25-11「木枯らし」》。精巧なテクニック、しなやかな感性あふれる鮮烈な演奏でコンサートを締めくくりました。

 終演後、鈴木さんは「ヤマハCFXはどの作曲家の作品にも絶妙に反応し、表現したいことのすべてを表現させてくれました。会場の音響も素晴らしく、インスピレーションを刺激されながら演奏することができました」と語ってくださいました。若き俊英の今後の活躍が楽しみです。

Text by 森岡葉