チャオ! イタリアより黒田亜樹です!
イタリアと日本を行き来しながら書き続けたこの連載もいよいよ最終回。最後のクライマックスとして賑々しく、イタリアのピアノ曲をご紹介いたしましょう。
- pianist 黒田亜樹
- 東京芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業後、イタリア・ペスカーラ音楽院高等課程を最高位修了。 フランス音楽コンクール第1位。フランス大使賞、朝日放送賞受賞。ジローナ20世紀音楽コンクール現代作品特別賞受賞。現代音楽演奏コンクール(日本現代音楽協会主催)で優勝、第6回朝日現代音楽賞受賞。 卓越した技術と鋭い感性は同時代の作曲家からの信頼も高く、「ISCM世界音楽の日々」「現代の音楽展」「サントリーサマーフェスティバル」「B→Cバッハからコンテンポラリー」などに出演、内外作品の初演を多数手がけてきた。
現代音楽の分野にとどまらず、葉加瀬太郎(ヴァイオリン)、小松亮太(バンドネオン)、三柴理(筋肉少女帯)、藤原真理(チェロ)、漆原啓子(ヴァイオリン)、橋本一子(ジャズピアノ)、RIKKI(島唄)らと共演。ポップス、タンゴ、ワールド・ミュージック、アヴァンギャルド、舞台音楽など、ジャンルを超越したユニークな活動を行っており、TV番組やCM音楽の作曲やアレンジ等も数多く、作曲家植松伸夫氏の指名により収録した「ファイナルファンタジーXピアノコレクション」でも話題となる。傾倒するアストル・ピアソラの演奏に於いて内外の評価を確立し、ビクターより2枚のアルバム「タンゴ・プレリュード」「タンゴ2000(ミレニアム)」をリリース。アルゼンチン・タンゴの本質を捉えた表現と大胆なアレンジは各方面で注目される。
以後、ミラノに拠点を構え、イタリアやスイスなどの作曲家・演奏家とのコラボレーションで、欧州各国へ活動の場を広げており、クラリネットのアレッサンドロ・カルボナーレとイタリア、日本で定期的にデュオを続けるほか、オーボエのダヴィド・ワルター、トランペットのアントンセン、プロメテオSQ、指揮のジョルジョ・ベルナスコーニらと共演する。サルデーニャ・カリアリのSpazio Musica現代音楽祭では、図形楽譜を含むブソッティ最新作、「Tastiera Poetica(詩的鍵盤)」(2008)を世界初演した。
イタリア・パルマのレッジョ劇場で、70年代ロックのカリスマ、キース・エマーソンの代表作「タルカス」を、作曲家マウリツィオ・ピサーティと共に現代作品として蘇演、ムソルグスキーの「展覧会の絵」との斬新な組み合わせで、聴衆に熱狂的に迎えられる。
引き続き、ミラノでレコーディングした3rdアルバム「タルカス&展覧会の絵」をビクターより発表。ロック、クラシックファン双方から支持されキース・エマーソン自身より賞賛される。2009年シチリア・カターニアのエトネ音楽祭にて、ELPのフィルムとともに「展覧会の絵&タルカス」を演奏。満場の観客を総立ちにさせた。
20世紀作品を中心としたレパートリーでは、ソロ活動のほか国内外の主要なオーケストラ、アンサンブルと共演しており、レパートリーには、ジャズの即興演奏のカデンツァを含むレジス・カンポのピアノ協奏曲のほか、シェーンベルクのピアノ協奏曲、エマーソンのピアノ協奏曲、ジャレルのピアノ協奏曲「Abschied」、南聡のピアノ協奏曲「彩色計画」などが含まれる。
各地での活発なセミナーのほか、ミラノG.マルツィアーリ音楽院より定期的に特別講師として招かれ、国際コンクールの上位入賞者を多数輩出。ピアノ演奏法の優れた教師としても知られる。
No.2カルボナーレとカルボナーラ
2013.07.25更新
チャオ! イタリアより黒田亜樹です!
在住10年のうちに見えてきたミラノの魅力、イタリアの真実を、ミラノ通信としてお届けしています。今回は、夏休みをゆっくり過ごした日本から戻り、ミラノの仲間たちと室内楽のリハーサルに励んでいた時のお話。
意外にマジメなイタリア人 完璧主義の音楽家もたくさん
彼らと練習をしていて、納得いくまでどこまでも議論をするのにはじめはびっくりしました。若い演奏家ならまだしも、キャリアも長い演奏家たちが繰り広げる激しい議論に、あわやグループ崩壊かと冷や冷やしていると、年上のヴァイオリンのエレナから、「日本ではこんな風には合わせをしないの? 私はこういうの大好き!」と真顔で言われて、返事に困ったこともあります。
ヴァカンス帰りで日焼けした演奏家の友人たちは、ミニスカートに胸元のはだけたファッション。小麦色の肌とそばかすの上に大きなアクセサリーをぶらさげ、すっかり夏休みモード。練習はどうなるかと思いきや、わたしよりずっと勉強してきてあったりして、嬉しい悲鳴をあげるありさまです。
「イタリア人って、案外マジメなのね…」。ステレオタイプのイタリア人像が、またしてもがらがらと崩れました。
思い返せば、最初に先入観をこわしてくれたのは、Vol.1でご紹介した恩師メッツェーナ先生でした。厳格だけれど頭でっかちではないし、観念的でもない。明快で論理的な音楽なのです。
たしかにイタリアは昔からダ・ヴィンチやガリレオといった天才の宝庫。乾電池を発明したボルタをはじめ科学者も多い風土は、何事に対しても好奇心が旺盛で、それでいて慎重を重ねるイタリア人気質によるものかもしれません。音楽家でもトスカニーニやミケランジェリと、完璧主義で知られる巨匠がたくさんいることに気がつきますが、確かにみなさん筋金入りでストイックな練習を積んでいそう!
超絶技巧のカルボナーレ(Cl)とお茶目&真面目に日本ツアー
サンタ・チェチリア管弦楽団の首席奏者として日本を訪れたこともあるクラリネットの名手アレッサンドロ・カルボナーレ。彼もイタリアの完璧主義音楽家といえるでしょう。目にもとまらぬ勢いなのに完璧なフィンガリング。目と耳を疑いたくなる循環呼吸。クラリネットのイメージを覆す名人芸で客席の喝采をとった次の瞬間には、聴こえるか聴こえないかほどの弱音の澄みきったレガートカンタービレで聴衆を魅了します。客席を練り歩く即興もジャズも、支離滅裂に見えてじつは計算され尽くされ、その超絶パフォーマンスは伴奏していてもため息が出るほど見事!
彼が国際コンクールで優勝したとき、冷凍庫で手を冷やして指が回らないようにしてから練習した逸話など、天真爛漫なステージからはとても想像できませんが、これだけ丹念に準備しておきながら、本番前夜にいきなり曲目を変えてみたり、僕は即興するから君はここは適当に弾いてほしいとか、曲の終わりで掛け声をかけてバンザイしてくれ(!)なんてスリリングなスパイスつき。共演者にとっては最後の最後まで気が抜けません。一見無茶なリクエストばかりで最初はあっけに取られたものですが、ステージを重ねるうちに互いの面白さがどんどん引き出せるようになってきました。
このお茶目で真面目なカルボナーレくんとは毎年日本各地でツアーをしています。クラリネットの定番曲からオペラ、ジャズやタンゴまで、盛りだくさんのプログラムで頭が振り切れそうですが、シニョーラ・クロダ、そこはうまくやり切りましてよ。
シニョーラ・クロダのレシピ公開!本場イタリアのカルボナーラ
話は変わってカルボナーレと言えば、必ず間違えられるカルボナーラ・スパゲティ。カルボナーレと仕事をするようになってからは、私もご多分にもれず、インタビューでカルボナーラと言ってしまったり、パスタをカルボナーレと間違ったりしておりますが、じつはロッコ・カルボナーラさんという、やはり有名なクラリネット奏者がいらっしゃいますので、本人の前で間違えるとちょっと困ったことになりますね。気をつけます。はい。
さて、そのカルボナーラ・スパゲティは、中部イタリアのラツィオ州、なかでもローマが発祥の地なのだとか。カルボナーレはローマに住んでいるので、よけい話がややこしくなります。元来は森の中で炭を焼いていた炭焼き職人の携帯食だった「黒コショウかけチーズ」が進化したものらしく、アイデア料理なんですね。日本の卵雑炊のイタリア版というか、手軽にすぐできる家庭料理で、シニョーラ・クロダの大好物であります。カルボナーラ・スパゲティ好きが高じて、こちらのレストランでも頼んだら、「外人はだれでもカルボナーラしか頼まないんだから」、と店の人からがっかりされたほど、われわれ外人みんな大好きなカルボナーレ、じゃなかった、カルボナーラ。
カルボナーラはパンチェッタとパルメザンチーズが決め手です。日本のカルボナーラはクリーム入りでしっとりしたものが多いですが、イタリアのカルボナーラはクリームも牛乳も使わないので、あっさりしているように感じるかもしれません(それでもカロリーは「爆弾級」に重たい料理ですが)。
サイの目に切ったパンチェッタ、つまりベーコンをカリカリに炒め(良質のパンチェッタからは充分油がしみ出すのでオリーブオイルはほとんど使いません)、多めの塩で硬めにゆでたスパゲティ、溶いた卵とパルメザンチーズを一気にからめ、たっぷりのコショウで仕上げます。お好みでスパゲティのゆで汁をほんの少し加えると、食べる頃にはスパゲティがほどよくしっとりします。シニョーラ・クロダはしっとり好み。しかし夫が作ると好みの違いでパサパサになり、家庭内のムードに多少の亀裂が入ります。
…と、こんなことを書いていると、おもわず脳内カルボナーラ状態に。同時に脳内カロリー計算機の黄信号も点滅中! うーん悩みます…。
そう言えば今日はちょうど息子の小学校の横にメルカート(朝市)が立つ日ではありませんか。子どもを見送りついでに、いつものおじさんに特上のパンチェッタとパルメザンチーズを見つくろってもらわなきゃ!
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執筆者 Profile
- pianist 黒田亜樹
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東京芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業後、イタリア・ペスカーラ音楽院高等課程を最高位修了。 フランス音楽コンクール第1位。フランス大使賞、朝日放送賞受賞。ジローナ20世紀音楽コンクール現代作品特別賞受賞。現代音楽演奏コンクール(日本現代音楽協会主催)で優勝、第6回朝日現代音楽賞受賞。 卓越した技術と鋭い感性は同時代の作曲家からの信頼も高く、「ISCM世界音楽の日々」「現代の音楽展」「サントリーサマーフェスティバル」「B→Cバッハからコンテンポラリー」などに出演、内外作品の初演を多数手がけてきた。
現代音楽の分野にとどまらず、葉加瀬太郎(ヴァイオリン)、小松亮太(バンドネオン)、三柴理(筋肉少女帯)、藤原真理(チェロ)、漆原啓子(ヴァイオリン)、橋本一子(ジャズピアノ)、RIKKI(島唄)らと共演。ポップス、タンゴ、ワールド・ミュージック、アヴァンギャルド、舞台音楽など、ジャンルを超越したユニークな活動を行っており、TV番組やCM音楽の作曲やアレンジ等も数多く、作曲家植松伸夫氏の指名により収録した「ファイナルファンタジーXピアノコレクション」でも話題となる。傾倒するアストル・ピアソラの演奏に於いて内外の評価を確立し、ビクターより2枚のアルバム「タンゴ・プレリュード」「タンゴ2000(ミレニアム)」をリリース。アルゼンチン・タンゴの本質を捉えた表現と大胆なアレンジは各方面で注目される。
以後、ミラノに拠点を構え、イタリアやスイスなどの作曲家・演奏家とのコラボレーションで、欧州各国へ活動の場を広げており、クラリネットのアレッサンドロ・カルボナーレとイタリア、日本で定期的にデュオを続けるほか、オーボエのダヴィド・ワルター、トランペットのアントンセン、プロメテオSQ、指揮のジョルジョ・ベルナスコーニらと共演する。サルデーニャ・カリアリのSpazio Musica現代音楽祭では、図形楽譜を含むブソッティ最新作、「Tastiera Poetica(詩的鍵盤)」(2008)を世界初演した。
イタリア・パルマのレッジョ劇場で、70年代ロックのカリスマ、キース・エマーソンの代表作「タルカス」を、作曲家マウリツィオ・ピサーティと共に現代作品として蘇演、ムソルグスキーの「展覧会の絵」との斬新な組み合わせで、聴衆に熱狂的に迎えられる。
引き続き、ミラノでレコーディングした3rdアルバム「タルカス&展覧会の絵」をビクターより発表。ロック、クラシックファン双方から支持されキース・エマーソン自身より賞賛される。2009年シチリア・カターニアのエトネ音楽祭にて、ELPのフィルムとともに「展覧会の絵&タルカス」を演奏。満場の観客を総立ちにさせた。
20世紀作品を中心としたレパートリーでは、ソロ活動のほか国内外の主要なオーケストラ、アンサンブルと共演しており、レパートリーには、ジャズの即興演奏のカデンツァを含むレジス・カンポのピアノ協奏曲のほか、シェーンベルクのピアノ協奏曲、エマーソンのピアノ協奏曲、ジャレルのピアノ協奏曲「Abschied」、南聡のピアノ協奏曲「彩色計画」などが含まれる。
各地での活発なセミナーのほか、ミラノG.マルツィアーリ音楽院より定期的に特別講師として招かれ、国際コンクールの上位入賞者を多数輩出。ピアノ演奏法の優れた教師としても知られる。