チャオ! イタリアより黒田亜樹です!
イタリアと日本を行き来しながら書き続けたこの連載もいよいよ最終回。最後のクライマックスとして賑々しく、イタリアのピアノ曲をご紹介いたしましょう。


- pianist 黒田亜樹
- 東京芸術大学音楽学部ピアノ専攻卒業後、イタリア・ペスカーラ音楽院高等課程を最高位修了。 フランス音楽コンクール第1位。フランス大使賞、朝日放送賞受賞。ジローナ20世紀音楽コンクール現代作品特別賞受賞。現代音楽演奏コンクール(日本現代音楽協会主催)で優勝、第6回朝日現代音楽賞受賞。
No.7ピアノの未来を担う子どもたち
2013.12.25更新
チャオ! イタリアより黒田亜樹です!
在住10年のうちに見えてきたミラノの魅力、イタリアの真実を、ミラノ通信としてお届けしています。これまで6回にわたってお届けしてきたクロアキのミラノ通信、残すところ今回を含めてあと2回となりました。今回はイタリアのピアノ事情についてつらつらと書いてみようと思います。
子どもが学校へ通うようになってびっくりしたのは、イタリアでは普通学校にピアノがない、ということ。息子が通うミラノの市立小学校には、グランドピアノはおろか、アップライトピアノも電子ピアノもありません。別の町に住む知人に聞いても、学校にピアノはないそうです。ずっと昔なら日本でも小学校、中学校にピアノがないこともあったかもしれませんが、今や幼稚園、小学校、中学校も高校も、どこでも必ずといっていいほどグランドピアノがありますね。体育館や講堂に音楽室と、何台も置いてあるのではないでしょうか。全国どこの学校にもグランドピアノがあるわけですから、その気になれば日本ならどこでも音楽祭ができそうです。現代日本のピアノ文化は、もはや国力と呼べるほどではないかと思うこともしばしばです。
コンサート会場にもピアノがない!?
イタリアでは、コンサートホールにはピアノがありますが、教会などピアノのないところでコンサートをする機会も多く、そのたびにピアノがトラックで運ばれてきます。あるときなど、私が会場でリハーサルをしようとするとピアノが見当たらないので、どこで弾くのかたずねたところ、「まだピアノが到着していないんだ。コンサートが始まるまでには着くから心配しないで」と言われてさすがに驚きました。そのとき、ピアノは開演ぎりぎりまで到着しませんでした。
また、日本のように気軽に練習に使える貸しスタジオもイタリアにはほとんどありませんので、国際コンクールの参加者も、めいめい家にピアノを持つ知り合いを探したり、音楽院の練習室をシェアしたりしながら、練習のために大変な思いをします。比較的規模の大きなミラノですらこうですから、地方の小都市に行けば、もっとピアノの数は少なくなるに違いありません。
数多いジュニアコンクールは世界のリトルピアニストの社交場
このようなことを書くと、イタリアのピアノ熱はどうかと穿った見方をしたくなります。でもイタリアは、ヨーロッパでも飛びぬけて子どものためのコンクールが多い国なのです。イタリア人向けのコンクールはもとより、外国人が参加できる国際コンクールも数多く、ドイツやスイス、東欧諸国やロシアからも子どもたちが集います。
わたし自身、国際ジュニアコンクールの審査員を務めることがあります。お母さんと大荷物をもってマケドニアやウズベキスタンから参加したチビッ子は、長旅をものともせず、心を動かす忘れられない演奏をしたのが印象に残っています。その後もお母さんが連絡をくださったりするのですが、世界中どこでもピアノと一緒に生きる子どもたちがいて、それを一生懸命応援する親の姿があるのは世界共通です。ちょっと違うのは、せっかくイタリアまで来たのだからと、コンクールのあとはご両親が率先して、海岸めがけて大喜びで出かけていくところでしょうか。
そうしたイタリアのジュニアコンクールを審査してみて面白いのは、この演奏は1位には足りないから2位をあげましょう、という具合に、相対評価ではなく絶対評価で点をつけていくところで、優劣をつける採点はしません。誰かと競うコンクールではないのですね。おおよそ95点から100点が1位 Primo で、なかでも98点以上はプリモアッソルート Primo assoluto と呼ばれます。「絶対的な1位」、満場一致の1位という感じでしょうか。90点以上は2位、85点以上が3位、80点以上がディプロマという風につづいていきます。そして年齢別にカテゴリーが分かれていて、10歳以下10分以内、13歳以下15分以内、16歳以下20分以内、19歳以下25分以内と、カテゴリーが上がるにつれて演奏時間が長くなります。課題曲のない自由プログラムが多いですが、年齢の高いカテゴリーにエチュードやソナタなど課題を含む自由プログラムが指定される場合もあります。
イタリアで行われている国際ジュニアコンクールでよく知られたものに、モノポリー・コンクール(バーリ)、ゴリツィア国際コンクール(ゴリツィア)、プレミオ・クレッシェンド(フィレンツエ)、カミーロ・トーニ・コンクール(ブレーシャ)などがあります。これらは、長年続く比較的規模の大きなコンクールで、ヨーロッパのみならずロシアやアジアの参加者も多く、別のコンクールで知り合ったピアニストたちが互いに再会を喜び合う姿も印象的。国際ジュニアコンクールは世界のチビッ子ピアニストのちょっとした社交場だったりもするのですね。
前回に続いて、イタリア語ミニ知識…
コンクールをイタリア語では「コンコルソ concorso」といいますが、これは「ともに(コン)+はしる(コルソ)」という言葉からできているんですよ。なるほど本質をついていると感心してしまいませんか?