この記事は2018年8月28日に掲載しております。

のびのびと育った子ども時代

　米国カルフォルニア州フリーモントで、台湾出身の両親のもとに生まれたダニエル・シュー。クラシック音楽を愛する両親、祖父母、姉、兄に囲まれ、末っ子としてのびのびと育った。

「家の中にはいつもクラシック音楽が流れていました。姉と兄が習っていたので、僕もごく自然にピアノを弾くようになりましたが、やんちゃで活発な子どもだったようです（笑）」

　一緒に来日した姉のアシュリーは、「空想好きな子どもで、ごく普通の1日を特別な日に変えてしまう天才でした。外国のスパイが潜入していると言って庭で遊んでいたり、ランプ・シェードを被って忍者の真似をしたり、紙で手裏剣を作って飛ばしたり、腰にスカーフを巻いて棒を差して走り回ったり……、いつも何かおもしろいことをやっていました」と語る。10歳のダニエルと13歳の兄のアンドリューがカーティス音楽院に入学したため、一家はフィラデルフィアに移り、ジュリアード音楽院で学んでいたアシュリーもその後カーティスへ移り、3人とも名教授ゲーリー・グラフマンの門下となる。

「伝説的なピアニスト、ゲーリー・グラフマン先生のクラスに入れたのは幸運なことでした。まだ子どもだったので、それがどんなに凄いことなのかよく理解していませんでしたが……」

　ラン・ラン、ユジャ・ワン、ハオチェン・チャンなど、優れたピアニストを輩出しているゲーリー・グラフマンのクラスで、年長の門下生たちに刺激されながら学んだ。

「クラスの中では小さな弟という位置づけで、それはちょっと嫌だったのですが、彼らの演奏を聴きながら成長することができました。グラフマン先生は楽譜に誠実に向き合い、上品なテイスト、洗練されたスタイルを持った方です。また忍耐強く、絶対に怒ることはありません。先生に「もう少し練習しようね」と言われたら、それは最悪ということです（笑）。生徒一人ひとりの個性を尊重し、こう弾くべきとは決して言わず、広い視野から適切な助言をしてくださり、ここが足りない、ここをもっと改善できると気づかせてくださいます」

　姉や兄とも切磋琢磨しながら学んできた。姉のアシュリーはカーティス音楽院で学んだ後、コロンビア大学で文学を専攻し、演奏活動を続けながら作家を目指している。兄のアンドリューは現在、ジュリアード音楽院で博士研究員として作曲を学んでいる。

「姉と兄は、僕にとって最高の教師です。ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールの期間中も、インターネットのストリーミング配信で僕の演奏を聴き、いろいろアドヴァイスしてくれました。モーツァルトのピアノ協奏曲のカデンツァは、兄が作曲したものを弾きました。いつも彼らに支えられていると感じます」