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實川 風 氏(Jitsukawa Kaoru) どうしたら作品の真のすばらしさを聴き手に伝えることができるのか、それを追求しています。 この記事は2016年1月27日に掲載しております。

2015年10月パリで開催されたロン=ティボー=クレスパン国際音楽コンクールのピアノ部門で、第1位なしの第3位入賞を果たした實川風。直前にはフランス中部のノアンで、「ショパン・ナイト」と題するコンサートに参加した。それらの様子、また、子ども時代のことから今後の抱負まで、ことばを尽くして雄弁に語った。

Profile

pianist 實川 風

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實川 風
実川風は2015年10月フランス・パリで行われたロン=ティボー=クレスパン国際コンクールにて1位なしの第3位を受賞、併せて最優秀「リサイタル賞」及び「新曲賞」を受賞した。1989年千葉県出身。東京藝術大学音楽学部首席卒業、および同大学院修士課程修了。2007年ショパン国際コンクールin Asia一般部門金賞、ピティナ・ピアノコンペティション特級銅賞・聴衆賞受賞。2008年名古屋国際音楽コンクール第1位、併せて聴衆賞・ビクター賞・名フィル賞を受賞。第77回日本音楽コンクールピアノ部門第3位。 2013年サザンハイランド国際ピアノ・コンクール第2位(オーストラリア)、2015年3月に行われた「日本ショパン ピアノコンクール」にて第1位を獲得した。これまでの輝かしいコンクールでの受賞と共に国内外でのリサイタルや室内楽での活躍も目覚ましく、上海音楽祭への参加やロン=ティボー=クレスパン国際コンクールの直前には、ショパンの命日にあわせてフランスのノアンで行われた“ショパン・ナイト”でヨーロッパ・デビューを果たした。これまでに、ポーランド国立クラクフ室内管、東京ニューシティ管、東京フィル、ニューフィル千葉、東響、名古屋フィルとの共演等がある。2008年度ヤマハ支援制度奨学生、2011年シャネル・ピグマリオンデイズ参加アーティスト。ピアノを山田千代子、ダン・タイ・ソン、多美智子、御木本澄子、江口玲の各氏に、フォルテピアノを小倉貴久子氏に、室内楽を川中子紀子、伊藤恵の各氏に師事。東京藝術大学内にて、アリアドネ・ムジカ賞、安宅賞、アカンサス賞、大賀賞を受賞。2011年には名古屋名駅ロータリークラブ椿賞を受賞している。2015年1月より1年間ヤマハwebサイト「ピアニストラウンジ」にて“どこ吹く風PARTⅡ~實川風の音楽日記”を連載していた。2016年3月23日にはソニー・ミュージックダイレクトより初めてのアルバム「The Debut(ザ・デビュー)」でCDデビューを果たす。
※上記は2016年1月27日に掲載した情報です

ショパンは近づきにくい作曲家です

 直前の10月16日、ショパンの命日の前日には、フランス中部アンドル県にある小さな町、ノアンで演奏する機会に恵まれた。ノアンはジョルジュ・サンドの別荘があることで知られ、ショパンがこの屋敷で名曲の数々を作曲している。
「実際にジョルジュ・サンドの別荘を訪れると、あまりにもサンドの存在感が強く、ショパンは彼女の一生の一瞬にからんでいたという感じを受けました。ショパンの部屋は、彼と別れた後はすぐにサンドの仕事部屋に改築され、あまり別離の悲しさや辛さは引きずっていないんだなあと思いました(笑)」

コンサートは「ショパン・ナイト」と題され、ノアンのお城で開催された。ここには古いプレイエルとヤマハCFXが入っていた。實川風は両方のピアノを使い、ショパンのノクターン第18番、ワルツ第5番、12の練習曲より第1番「エオリアン・ハープ」、「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」を演奏している。
「ぼくはショパンの作品は大好きなのですが、自分で演奏すると、どうしても作曲家に近づけない感じが残るのです。ショパンは近づきにくい作曲家で、自分の方に寄ってきてくれない。ぼくのストライクゾーンがとても狭いのです。ですから、一歩でも近づくために弾き続けるわけです。ショパンの音楽は、無駄な音がひとつもない。すべての音符の意味がつながっています。こまやかなのに大胆でもあり、確固たる構築感も備わっています」
以前は、楽しんでショパンを演奏することができた。だが、最近になって、より作品の偉大さに気づき、表現の難しさを意識するようになったという。
「ショパンの作品からどういうことを読み取り、それを自分なりに表現し、聴いてくれる人たちにどのように伝えていくか、その重要性を痛感しています。ぼくはアルゲリッチやブレハッチの録音をよく聴きますが、どうしたら作品の真のすばらしさが伝わるのか、その極意を録音から聴き取るようにしています。アルゲリッチの演奏はあまりにもすばらしく、衝撃を受けました。ブレハッチはすべてが自然で、何も特別なことはしていない。ルバートもごく自然で、感動してしまいます」
ダン・タイ・ソンはマズルカの演奏に魅了され、實川自身、マズルカをこよなく愛すため、「30年後にはマズルカ全曲を演奏したいですね」と目を輝かせる。

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實川 風 へ “5”つの質問

※上記は2016年1月27日に掲載した情報です