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菊地 裕介 氏(Kikuchi Yusuke) ぼくは音楽がやりたい。すべての作品はひとつの方向に集約されている、それを極めたいのです。 この記事は2017年4月27日に掲載しております。

ピアニストの菊地裕介は、パリ国立高等音楽院のピアノ研究科、ハノーファー音楽大学で学び、今年は留学から帰国して日本で活動を開始して10周年という節目の年を迎える。これを機に春と秋の年2回、東京と豊田でリサイタルを開くシリーズを開始した。

Profile

pianist 菊地 裕介

pianist
菊地 裕介
東京生まれ。桐朋女子高校音楽科2年在学中に日本音楽コンクール第2位入賞、卒業と同時に渡仏し、ローム・ミュージックファンデーションより助成を受け、パリ国立高等音楽院高等課程を経てピアノ研究科を修了したほか、5つの一等賞を得てピアノの他に歌曲伴奏、作曲書法の高等課程を修了。また文化庁芸術家在外研修制度の助成を受け、ハノーファー音楽大学に学びドイツ国家演奏家資格を取得。皆川紀子、加藤伸佳、ジャック・ルヴィエ、アリエ・ヴァルディの各氏に師事、マリア・カナルス、ポルト、プーランクコンクール優勝、またジュネーブ、ベートーヴェンなど、数多くの国際コンクールに入賞する。東京藝術大学の講師に招かれ、2007年に帰国後「菊地裕介メシアン生誕100年プロジェクト・幼子イエスに注ぐ20のまなざし アーメンの幻影全曲演奏」「バッハ無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番 ピアノ独奏版編曲」など精力的な活動を展開。ベートーヴェンピアノソナタ全32曲、ラヴェルピアノソロ作品全集(オクタヴィア・レコードTRITON)など録音も多数。
欧州の多くの国々でリサイタルを開催、また多くのオーケストラと共演を重ねている。国内では東京交響楽団、東京都交響楽団、東フィル、東京シティフィル、仙台フィル、大阪シンフォニカーなどと共演。室内楽では清水和音、永野英樹とのピアノデュオやオーボエの巨匠モーリス・ブルグ、若手ではフルートの瀬尾和紀との共演など、いずれも好評を博している。
東京藝術大学、桐朋学園大学、洗足学園音楽大学の非常勤講師を経て現在は東京音楽大学専任講師、名古屋音楽大学客員准教授、他秋吉台ミュージックアカデミーなど、各地にてセミナー、マスタークラスの講師、及びコンクール審査等を務める。 (株)演 代表取締役。
※上記は2017年4月27日に掲載した情報です。

ヴァルディのひとこと

 その後、2003年から2007年までハノーファー音楽院でアリア・ヴァルディに就いた。
「ヴァルディ先生のレッスンは、仕上がった演奏を見ていただくような、検査されている感覚でした。他の生徒たちが聴いているところで通して演奏する。プロの音楽家として、みんなの前で演奏するという雰囲気でした。ぼくも他の人たちの演奏も聴きましたから、自分の耳も開かれた感じがします」
 菊地裕介はいい意味で自我の強い性格である。子どものころから本人いわく「周囲から浮いていた」そうで、思ったことをはっきり口にし、行動に移すため、日本ではなかなか理解されなかった。だが、留学先のヨーロッパではこうした性格はむしろ歓迎される。自由にのびのびと過ごせ、自己主張をしたいために語学習得も速く、自分らしくふるまえた。 
「ヴァルディ先生からは多くの心に残ることをいわれましたが、もっとも印象に残っているのは“ファーストインプレッションを与えるセカンドチャンスはない”ということばです。第一印象が大事という意味で、コンクールを受ける前にいわれました。曲の始まりが大切で、最初になんとなく入るのではなく、最大限集中して始めなさいということです。これにより、聴いている人たちの心をつかむことができるという教えでした」

 ヴァルディのレッスンは、こまかい技術的なことはいわず、全体を俯瞰し、表現力をつけることが主たるレッスンだった。
「たとえば、シューマンの『トッカータ』は、つい必死な思いで弾いてしまいがちですが、先生はひとこと、“色っぽく弾け“といったのです。“楽しい曲なんだから、ジャズみたいに弾いてみたら”というわけです。そのときは意図が十分に理解できなくても、10年経つとわかってくるんですよね。ぼくもそういうレッスンがしたいと思います。学生たちがいまはわからなくても、この先いつかそのひとことが心に蘇ってきて、ああ、そういうことなんだと理解してくれる。そんな指導ができたら最高だと思います」
 菊地裕介は演奏活動、大学のみならず各地のセミナーやマスタークラスで後進の指導を積極的に行い、コンクールの審査員も務め、さらに自身の活動をオーガナイズしたり、企画やアカデミーなどを主宰する音楽事務所「演」を立ち上げている。
 意思堅固で前向きな性格。「ぼくは音楽がやりたい。すべての作品はひとつの方向に集約されている、それを極めたい」と熱く語る。
 非常に率直でユニークな面があり、それが演奏にも全面的に現れている。個性的なピアニストは聴き手にとってはたまらない魅力。ぜひその性格のまま、まっしぐらに進んでほしい。

Textby 伊熊よし子

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菊地裕介さんへ “5”つの質問

※上記は2017年4月27日に掲載した情報です。