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清塚 信也 氏(Kiyozuka Shinya) 僕にとってピアノは、自分を表現するための道具。それ以上でもそれ以下でもありません。 この記事は2014年11月14日に掲載しております。

5歳からクラシックピアノの英才教育を受け、現在はピアニストを軸に幅広い活躍を遂げている清塚信也さん。ピアノの演奏だけでなく、ドラマや映画などでは吹き替え演奏や演奏演技指導を手がけ、俳優としても出演。さらに、ラジオ番組のパーソナリティーや雑誌の連載などマルチな才能を発揮しています。今年9月には、同級生でピアニストの髙井羅人さんとタッグ組んだ初の連弾CDとDVD『KIYOZUKA☆LAND』を発表。今秋はこの作品を機に「K'z PIANO SHOW2014~KIYOZUKA☆LAND」と題したリサイタルを開催します。そんな清塚さんの足跡を辿りました。

Profile

pianist 清塚 信也

pianist
清塚 信也
5歳よりクラシックピアノの英才教育を受ける。中村紘子氏、加藤伸佳氏、セルゲイ・ドレンスキー氏に師事。桐朋女子高等学校音楽科(共学)を首席で卒業。1996年、第50回全日本学生音楽コンクール全国大会中学校の部第1位。2000年、第1回ショパン国際ピアノコンクール in ASIA 第1位、2004年、第1回イタリアピアノコンコルソ金賞、2005年、日本ショパン協会主催ショパンピアノコンクール第1位など、国内外のコンクールで数々の賞を受賞。人気ドラマ「のだめカンタービレ」にて玉木宏氏演じる「千秋真一」、映画「神童」では松山ケンイチ氏演じる「ワオ」の吹き替え演奏を担当し、脚光を浴びる。知識とユーモアを交えた話術と繊細かつダイナミックな演奏で全国の聴衆を魅了し続け、年間約120本の演奏活動を展開。 TV番組「ジョブチューン」「ビーバップ! ハイヒール」「たけしの誰でもピカソ」「みゅーじん<音遊人>」や「朝日新聞<ひと>欄」等で取り上げられるなどメディアの関心も高い。今までにポーランド国立放送交響楽団、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団、モスクワ・フィルハーモニー交響楽団、ザグレブ・ソロイスツ、東京都交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、山形交響楽団と協演。舞台「ジョルジュ」への出演(村井国夫、音無美紀子、竹下景子、鳳蘭、渡辺美佐子、真那胡敬二の各氏との共演)、華道家假屋崎省吾氏や書道家武田双雲氏とのコラボ公演、中島美嘉「SONG FOR A WISH」編曲&ピアノ演奏、映画「うつし世の静寂に」音楽監督、広島東洋カープ「栗原健太選手」バッターボックス登場曲の演奏&作曲、NHK大河ドラマ龍馬伝「龍馬伝紀行」テーマ曲演奏、NHK教育テレビ「ミューズの微笑み~ときめき美術館」へのナビゲーター役での出演、「NHK歌謡コンサート」「FNS歌謡祭」「僕らの音楽」「ミュージックフェア」等の音楽番組での有名アーティストとの共演、映画「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」「ベルセルク/黄金時代篇III 降臨」などのサウンドトラック演奏など、次々と新たなるフィールドへの挑戦を続け、常に話題と注目を集めている。「ぐっすり眠れるピアノ」「Charge Up」など8枚のCD、書籍、教則本、楽譜集などを発表するほか、「プレバト!!」「踊る! さんま御殿」「中居正広のミになる図書館」などのバラエティ番組出演、エッセイ連載、レギュラーラジオ番組「清塚信也ピアノラウンジ(全国5局ネット)」のパーソナリティなど、マルチピアニストとして縦横無尽に活躍。2013年1月全国公開の映画『さよならドビュッシー』で岬洋介役として俳優デビュー。2014年2月に初のライブDVD『清塚信也☆THE LIVE』を発売。2014年9月、朋友「髙井羅人」と連弾ユニットを結成し、アルバム『KIYOZUKA☆LAND(キヨヅカランド)』(CD+DVD)を発売!2015年公開予定の映画『ポプラの秋』(主演:本田望結)では、医師役での出演のほかに音楽(作曲&演奏)を担当。
※上記は2014年11月14日に掲載した情報です

母親が導いてくれたピアニストへの道

 ピアニスト以外に生きる道はない。そんな険しい道を清塚さんが歩むことになったのは、お母様のピアノへの強い憧れからだった。その思いを最初に託された2歳年上のお姉様は、桐朋学園の「子どものための音楽教室」でヴァイオリンを習うことになる。まだお留守番のできない年頃だった清塚さんは、母親に連れられて姉のレッスンを側で聴き、音楽と出会う。
「姉が習っているのを聴いているうちに、自然に絶対音感が養われました。絶対音感といえば、特別な才能だと思われるかもしれませんが、子どもが意識して聴いていれば、誰にでも身につくものなんです。絶対音感があればピアノが上手くなるかといえば、関係ない。ところが、絶対音感が身についた僕に才能があると信じた母は、5歳からピアノを習わせました。ソルフェージュで聴音したり、過密なスケジュールのレッスンを受けたり。耳から指先にいたるまで、すべてを訓練するという内容でした」
ピアノ中心の生活で、子供心に「これで食べていけなかったら、自分の将来はどうなるだろう」とまで思い詰めたことがある清塚さんだったが、音楽の楽しさには気づき、味わっていた。
「音楽は、聴く方だったら楽しめます(笑)。リズムを取ったり、和音の豊かさだったり、僕なりに音楽は好きでした。特にバッハを弾いていると、彼が考えに考え、計算し尽くした技法などがだんだん見えてくるようになりました。和音で構成され、その溢れ出るような音楽性には、人を感動させるための仕掛けがある。単に和音がきれいなだけではなくて、前後の関係があるからこそ、その和音が引き立つようになっているんです。音楽を聴いたり、発見したりすることで得られる喜びは感じ取っていましたが、その気持ちに浸っていられるのは5時間以上ある練習のうち、ほんの40分程度でしたね(笑)」
中学生になると練習時間は10時間が当たり前になり、普通なら週に一度のレッスンも、清塚さんは3、4日に一回という頻度で受けていた。そんな日々を清塚さんはこう振り返る。
「僕をプロにしたいという母の意志の強さと勇気はとてもすごいと思います。自分が踏み入れたこともない世界に子どもを行かせようとするなんて、一種の賭けのようなもので、決断力を越えていますね。僕にも2歳の子どもがいますが、同じことは決してできないです。だけど、今となっては母が僕にくれた愛情だと思って受け止め、とても感謝しています」

演じるという魅力

その後、2年にわたるロシアでの留学を経た清塚さんは、決められて歩んできた道を自分自身の道だと思えるようになった。
「日本人が少ないだろうと思って、ロシアを選びました。海外の地で初めて一人暮らしをして、母や先生やその他のしがらみすべてから解き放たれて、自由な時間を過ごしました。人間らしい人生を取り戻したといっても過言ではありません。そのとき改めて音楽っていいなって思えたんです」
本人の意志で音楽と向き合うことができるようになり、帰国後はコンサートを中心とした活動をスタートさせた。
そして映画『神童』では松山ケンイチさん演じるワオの吹き替え演奏でメディアデビュー。さらに人気ドラマ「のだめカンタービレ」では玉木宏さん演じる千秋真一役の吹き替え演奏をし、話題となる。そして演奏の演技指導にも携わるようになった。
「弾き真似とは、いかに本当に弾いているようにみせるかを教えるものです。一番印象に残っているのは映画の『さよならドビュッシー』で橋本愛さんに演奏指導したときのことです。彼女が『月の光』を弾くというシーンがあって、実際は僕が弾いているその音に合わせて、彼女が弾き真似をするんです。本当のピアニストは動きが柔らかいんですが、素人がピアノを弾こうとすると鍵盤を上から下へ押すという動作になってしまう。同じ事をピアニストがやったらミスに繋がってしまいます。ですから彼女には、鍵盤に触っていて、弾いた後に手を上に上げる、つまり下から上に動かす方が、ピアニストらしいモーションだと教えてあげました。
すると手首から肘にかけての動きがだんだん柔らかくなっていって、その動きで弾くと曲の出だしのところがとても上手く弾けるようになりました。それがとてもいい音だった。フォームから入るのって大事なんだなと改めて勉強になりました」
芝居の現場に携わるようになって清塚さんの関心や思いは“演じる”ことに向けられ、強く惹かれた。 「高校生の頃からワークショップに行ったりしていたこともあって、もともと芝居はやりたかったことでした。芝居は個性がキャラクターとして捉えてもらえる。人間味があるとか、味があるとか評価してもらえるのでやりがいがあります。照明、音声、相手の台詞、カメラワークなど、いろいろな人との関わりが多くて、一つとして同じじゃないものが生まれます。周りがどう関わっているかを無視して毎回同じ演技をしていたら、げんなりするでしょう。何が起こるかわからない現場がとても楽しいんです」

連弾という表現の可能性

方法は異なるものの、自分を表現するという意味では、音楽も芝居も同じだと清塚さんは語る。表現の幅は広げつつも、本業のピアニストとしても、新しい表現への挑戦は忘れない。今秋発表したCDとDVDでは、「連弾」という表現で新境地を拓いた。
「今回連弾した髙井羅人は、小さい頃から試験やコンクールという難関を一緒に乗り越えてきた戦友のような存在です。彼は7年間のドイツの留学を経て帰国しましたが、その経験と能力を生かす場がなかなかないということで、僕が声をかけて一緒に演奏することにしました。ここからは現実的な話になりますが、ピアニストが2人でできるということは限られていますし、2台のピアノが必要となると、地方に行くとピアノの調達が大変でコンサートができません。そこで思いついたのが連弾でした。ところが、いざ連弾の曲を探し始めるとどれもダサいことに気づきました。モーツァルトやベートーヴェンといった名だたる作曲家が書いているんですが、全然いい曲がないんです。実はそれにはちゃんとした理由がありました。連弾って、“家族で楽しんでください”という意図があるので難しく書けないんです。だから複雑な曲ではないから、プロが弾いても物足りないんですね。だから、オリジナルで創ろうと言うことになり、既存の連弾の曲をアレンジしたり、洋楽をアレンジしたり、作曲したりと工夫してできたのが『KIYOZUKA☆LAND』なんです」

清塚さんは、こうして生まれた作品を通して、「連弾」という表現に新たな可能性を見出した。
「改めて連弾をやってみて、すごく面白いと思えました。実はとても可能性に満ちている。それは88鍵って一人で弾くには余りますよね。両手で弾いてもどこか弾いていない鍵盤がありますが、二人で弾くとわりとカバーできるんです。この弾き方は理にかなっていると思いました。ピアノは音域が広いというのが特性ですから、オーケストラの曲も、バンドの曲も弾ける。ありそうでなかったニューサウンドです」  そんな新境地を拓いた連弾のDVDの特典映像では、ヤマハのCFXが活躍した。
「CFXがこれまでのピアノと格段に違うのは、音の伸びや豊かさですね。特に低音の印象はがらりと変わりました。連弾だと片手ではなくて、両手で低音部を弾けるので、その良さが引き立ちます。例えばベーゼンドルファーのグランドピアノも太い音がしますので、ベートーヴェンの交響曲であればその良さを発揮しますよね。
(これに対して)ヤマハのCFXには、アクションのクリアさ、爽快さという強みがある。反応がとても速いので、鍵盤を押してから音が出るまでのタイムラグがとても緻密なので、機敏なジャズのような音楽にも向いていると思います。楽器の良さだけでなく、整音の巧さが世界的なブランドである所以でしょう。音の豊かさは、まさに連弾に適した楽器だと思いました。ショパンにとってのプレイエルだったり、リストにとってのエラールだったり、僕がCFXと出会って、お互いが歩み寄って育てられているという関係は、まさに僕が憧れてきたピアニストとピアノの関係です。とても贅沢なことですね」

Textby 山下シオン

清塚 信也 へ “5”つの質問

※上記は2014年11月14日に掲載した情報です