コンサートレポート

コンサートレポート

2021年、富士河口湖町でスタートした「富士山河口湖ピアノフェスティバル」。2022年の今年も9月22日~25日の4日間にわたって開催され、ピアニスト・イン・レジデンスである辻󠄀井伸行さんを中心に豪華アーティストが集結。ピアノや音楽の多彩な魅力を届けました。(前編)

2022年9月22~25日(河口湖ステラシアター、河口湖円形ホール、河口湖総合公園ほか)

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

『富士山河口湖ピアノフェスティバル』は2021年、富士山の麓で産声を上げました。雄大な自然に囲まれた環境の中でピアノのさまざまな魅力を満喫するフェスティバルは、新しいカタチのピアノフェスティバルとして注目を集めています。まだまだ若いフェスティバルですが、実はその背景には長年にわたる取り組みと熱い思いがあります。

 美しい湖と富士山の雄姿という、かけがえのない財産をもつ旧河口湖町(合併により現在は富士河口湖町)。雄大な自然という観光資源は、一方で季節や気候によって大きな影響を受けることもまた事実でした。
そこで、文化振興と経済活性化を両輪として始まったのが「五感文化構想」です。うち、聴覚を満たすものとして誕生したのが、ピアノフェスティバルのメイン会場である『河口湖ステラシアター』でした。
「劇場は街づくりの中核になり得ます。大きな可能性があり、うまく使うことができれば音楽を通じて地域が変わると考えました」
館長の野沢藤司さんはそう話します。

富士山河口湖ピアノフェスティバルのメインステージ「河口湖ステラシアター」

 河口湖ステラシアターが完成したのは1995年。ギリシャに現存する古代の野外音楽堂を模した半円形鉢型の客席を持ち、緑の芝生と森、そして富士山の眺望をバックステージにする野外大ホールです。野沢さんは、この劇場を地域の支えとなる新しい社にしたいと考えました。音楽のまちづくりを進め、2002年8月には佐渡裕さん監修のもと第1回富士山河口湖音楽祭を開催。今や夏の風物詩としてすっかり定着しています。
 2007年には、後付けで可動屋根が設置され、全天候型の野外大ステージに生まれ変わりました。
「当初から屋根の構想はありました。ようやく屋根ができたことによって、雨天でも公演が可能になり、稼働率は大幅に高まりました。リスクが大きかったクラシックやオペラの公演もできるようになりました」(野沢さん)

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

可動屋根が開いている状態

 そして、夏の河口湖音楽祭の20年目に合わせる形でピアノフェスティバルが実現。この可動屋根を施工したのは、株式会社横河システム建築です。ノエビアスタジアム神戸、香港のカイタックスポーツパークなど数多くの可動屋根を手がけていますが、可動屋根が設置された音楽堂は全国でもここだけだそう。
「建物はつくるだけではなくて地域を活性化することが重要で、全国各地の市町村が建てた建物の稼働率を上げる、そのお手伝いができればと考えています」横河システム建築の担当者はそう話します。
実は同社は企業版ふるさと納税という形で、富士山河口湖ピアノフェスティバルを支えています。
「音楽堂に設置する屋根なので、設計時には大学の音響工学の先生と実証実験を重ね、反射板や吸音板を最適な位置に設置しています」(同・担当者)
 もともとあった劇場と屋根は独立した構造で、ホールに負荷をかけない造りになっています。
 屋根と建物上部の間に設けた隙間から常に外気を取り入れられ、屋根の開放により瞬時の換気も可能です。当初は想定もしていなかったメリットも生まれました。2021年、コロナ禍で多くのイベントが中止になるなかで第1回が行われた富士山河口湖ピアノフェスティバル。同社の気流シミュレーションによって、施設の高い換気性能も実証されており、感染症対策にも配慮した上での開催だったのです。

 もうひとつ、富士山河口湖ピアノフェスティバルを支えているのがボランティアの存在です。音楽の町のシンボル的存在でもあるこの劇場は、完成当初から住民たちで育てていく計画でした。そのため、1995年の河口湖ステラシアターのオープン時からコンサートにボランティアという概念を持ち込み、その体制を確立してきました。
 チケットもぎりや場内案内、チラシ配布、そして時にはアーティストをもてなすための食事もつくります。運営だけでなく、企画や通訳、次世代を育成するボランティアも活躍しています。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

 ガラ・コンサートが行われる9月23日は、あいにくの雨。河口湖ステラシアターのステージ上には、リハーサル中の辻󠄀井伸行さんとそれを見守る調律師の姿がありました。アーティストサービス東京の片岡昌彦さんです。
 辻󠄀井さんが弾いているのは、ヤマハのコンサートグランドピアノ「CFX」の新モデル。東京から運ばれてきました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

 多くのピアニストと対話を重ね、長い年月をかけて開発されたヤマハ最高峰のピアノ。さらなる進化を遂げたCFXは、まるで弾く者の意思を感じているかのように反応し、演奏者と一体となって響き合っていきます。
「野外なので温度や湿度が変わりやすく、ライトや観客によっても音色が違ってきますから、その点は気を遣いますね。でも、辻󠄀井さんは『今回もヤマハのこのピアノがなければフェスティバルは成り立たないです』とおっしゃってくださっています」

 リハーサルを終えると、辻󠄀井さんから片岡さんにこんな言葉がかけられました。「音すごくいいですね、最高です。よく鳴って嬉しいです」

さあ、コンサートの始まりです!

▶後編に続く



Text by 福田 素子
Photo by Tomoko Hidaki

■TV放送のお知らせ
辻井伸行 in 富士山河口湖ピアノフェスティバル 2022
放送局:BSフジ
放送日:2022年12月27日(火) 20:00〜21:55
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