コンサートレポート

コンサートレポート

2021年、富士河口湖町でスタートした「富士山河口湖ピアノフェスティバル」。2022年の今年も9月22日~25日の4日間にわたって開催され、ピアニスト・イン・レジデンスである辻󠄀井伸行さんを中心に豪華アーティストが集結。ピアノや音楽の多彩な魅力を届けました。(後編)

2022年9月22~25日(河口湖ステラシアター、河口湖円形ホール、河口湖総合公園ほか)

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

『富士山河口湖ピアノフェスティバル2022』にはピアニスト・イン・レジデンスである辻󠄀井伸行さんのほか、加古隆さん、川久保賜紀さん、遠藤真理さん、三浦友理枝さん、菊池洋子さん、東京佼成ウインドオーケストラ、そしてジャズ界の巨匠、山下洋輔さんが登場。4日間にわたり、『河口湖ステラシアター』『河口湖円形ホール』『河口湖総合公園』の3つの会場でコンサートを繰り広げました。

 フェスティバルは「辻󠄀井伸行の音楽教室『ピアノはともだち』」からスタート。会場となった小学校には約200人の児童が集まり、辻󠄀井さんの思い入れがある4曲が披露されました。
 その後、子どもたちが自由に奏でた音階やリズムを辻󠄀井さんが瞬時に感じ取り、完全に再現。「とてもすごかったです、下手でもいいから自分もやってみたいと思いました」「一生自慢できます」などといった声が子どもたちから聞かれました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

9月22日(木)に富士河口湖町立河口小学校 体育館で開催された“辻󠄀井伸行 音楽教室「ピアノはともだち」”。「子どもたちにピアノや音楽の楽しさを伝えていきたい」と辻󠄀井さん。

 コンサートの幕開けは、9月22日に開催された「辻󠄀井伸行プレミアム・リサイタル」。会場となった河口湖円形ホールは、奏者の息遣いまでが聴こえる自然音響設計のホールです。収容人数100人という小規模なホールだけに、辻󠄀井さんの超絶技巧を間近で体感する超プレミアムなリサイタルとなりました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

9月22日(木)に河口湖円形ホールで開催された、100名限定の“辻󠄀井伸行プレミアム・リサイタル”(使用ピアノヤマハCF6)

 9月23日(金・祝)、河口湖ステラシアターでは『辻󠄀井伸行 THE BEST 2022』が行われました。
ステージ中央に配されたのは、ヤマハのコンサートグランドピアノCFX新モデル。レスポンスの良さでも高い評価を得ているそのピアノは、自らの片割れである演奏者を待ちわびるかのように佇みます。
 グレーのスーツに身を包んで登場した辻󠄀井さんは、ベートーヴェン『ピアノ・ソナタ第14番《月光》』で聴き手の心をわしづかみに。続いて、ドビュッシー独特の絵画的な音楽を、繊細なタッチで表現します。その音は空間を大きく包んで、浮遊するかのよう。
 ショパン『スケルツォ』は、技巧的な第1楽章、甘美で流麗な旋律で始まる第2楽章、激しく鋭いタッチとしっとりと美しいメロディの対比が心をつかむ第3楽章、そして目まぐるしくフレージングが変わる第4楽章へ。CFXとひとつになって描き分けていく、辻󠄀井さんならではの心揺さぶるショパンにひときわ大きな拍手が沸き起こりました。さらに、アンコールのショパン『子守唄』でも会場を魅了します。
 実はこの日のコンサートは周囲の交通事情などにより、開演時間が遅れてのスタートとなっていました。遅延を詫びた上で「フェスティバルではいろいろなことが起こりますし、それがフェスティバルの醍醐味だと思うので」と温かいユーモアに満ちた言葉で、会場が和やかな空気に包まれました。
「せっかくなのでもう一曲」と最後はリスト『リゴレット・パラフレーズ』。鳴り止まない拍手に、最後は鍵盤蓋を閉めて「おしまい!」の合図。チャーミングな一面も見せてくれました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

9月23日(金・祝)に河口湖ステラシアターで開催された“辻󠄀井伸行 THE BEST2022”

 同日、河口湖円形ホールでは、『川久保賜紀 遠藤真理 三浦友理枝トリオ プレミアム・リサイタル』が行われました。
 2009年に結成されたトリオが初めて演奏したというラヴェル『マ・メール・ロワ(ピアノ三重奏版)』、心地よいフランスの風を感じさせるドビュッシー『ピアノ三重奏曲』、そして最後のプログラムは一転して情熱的なピアソラ『ブエノスアイレスの四季(ピアノ三重奏版)』。それぞれの楽器が雄弁に歌い、かつ寄り添う演奏に会場中が酔いしれます。
 100名限定のこのコンサート。息ぴったりの3人のアイコンタクトも見てとれる親密な空間で、室内楽の醍醐味をたっぷりと味わわせてくれました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

9月23日(金・祝)に河口湖円形ホール開催された“川久保賜紀、遠藤真理、三浦友理枝トリオ”(使用ピアノヤマハCF6)

 翌9月24日(土)には、河口湖ステラシアターでガラ・コンサートが行われました。名付けて「PIANO+」。辻󠄀井さんをはじめ、ジャンルを超えた名立たるアーティストが出演し、ピアノの多彩な魅力を一気に堪能できるコンサートが約3時間にわたって繰り広げられました。
 ステージ1に登場したのは、川久保賜紀、遠藤真理、三浦友理枝トリオ。『ラストエンペラー』、『メリークリスマス・ミスターロレンス』など坂本龍一さんの名曲全6曲を披露しました。これらは、坂本さんがトリオのためにアレンジした楽曲。現代を代表する作曲家の作品を日本のクラシック界を牽引するトリオが流麗に奏でました。
 ステージ2で会場を魅了したのは、2021年に続いてこのフェスティバルに参加した加古隆クァルテットです。加古さんが奏でるベーゼンドルファーの音色とバイオリン、ビオラ、チェロの音が時にひとつになり、時に語り合い心に染み入ります。映画音楽やクァルテット結成10周年を記念して書いた楽曲、さらに新曲などが聴き手を唯一無二の加古隆ワールドへ導き、ラストは名曲『パリは燃えているか』。大きな拍手の中「あちらまで歩くのも面倒なので」と笑いを誘い、アンコールに応えてくれました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

9月24日(土)に河口湖ステラシアターで開催された“川久保賜紀 遠藤真理 三浦友理枝トリオ”(写真上)と“加古隆クァルテット”(写真下)。

 ステージ3は、辻󠄀井伸行&フレンズ。今回の“フレンズ”は、辻󠄀井さんとバイオリニスト三浦文彰さんの呼びかけによって名プレイヤーたちが集結した夢のオーケストラARKシンフォニエッタのメンバーです。演奏曲は若きショパンの佳作『ピアノ協奏曲第1番(室内楽版)』。ショパンはオーケストラよりも室内楽アンサンブルで協奏曲を演奏することを好んでいたとも言われますが、室内楽ならではの魅力をたっぷり感じさせてくれました。
 日本のジャズシーンを長きにわたり牽引してきた山下洋輔さんは2022年の今年で80歳。ステージ4では、山下洋輔スペシャル・カルテットとして、その年齢が信じがたいほどパワフルで自由奔放かつ狂熱のパフォーマンスを展開しました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

“辻󠄀井伸行&フレンズ”(写真上)と“山下洋輔スペシャル・カルテット”(写真下)

 最終日となる9月25日(日)に河口湖総合公園で行われたのは「ピクニック・コンサート」。実は24日開催の予定でしたが、悪天候のため延期に。当日は晴れ間も覗き、富士山麓に広がる自然のなか辻󠄀井さん、山下洋輔さんら世界一流のピアニストの演奏を楽しむすばらしいコンサートとなりました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

9/25(日)に河口湖総合公園で開催された“ピクニック・コンサート”。(使用ピアノヤマハC3)

 フェスティバルを締めくくるのは、河口湖ステラシアターで開催された「辻󠄀井伸行 山下洋輔 加古隆 PIANO&WINS」。吹奏楽界の頂点に立つ東京佼成ウインドオーケストラが正指揮者の大石剛さんとともに総勢40人を超える大編成で参加し、最高のソリストと共演します。
 ステージ1のソリストは吹奏楽とは初共演となる加古さん、ステージ2は辻󠄀井さん、ステージ3は山下さんと超豪華な顔ぶれ。東京佼成ウインドオーケストラの重厚かつ華麗なサウンドとソリストの美しいピアノの音色に会場中が圧倒され、胸を熱くしました。

富士山河口湖ピアノフェスティバル2022

9/25(日)に河口湖ステラシアターで開催された“辻󠄀井伸行 山下洋輔 加古隆 PIANO&WINDS”。

 第2回を迎え、さらにパワーアップした「富士山河口湖ピアノフェスティバル」。

「ピアノは、幅広いジャンルに対応できるすばらしい楽器です。ピアノ・ソロはもちろん、弦楽器や管楽器との共演など、さまざまなピアノの魅力をたくさんのみなさまにお伝えしたい」

 そんな辻󠄀井さんの言葉通り、ピアノの魅力が詰まったかけがえのないフェスティバルとなりました。

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Text by 福田 素子
Photo by TOSHIYUKI HIRAMATSU(9月24日撮影)Tomoko Hidaki(9月22日、23日、25日撮影)

■TV放送のお知らせ
辻井伸行 in 富士山河口湖ピアノフェスティバル 2022
放送局:BSフジ
放送日:2022年12月27日(火) 20:00〜21:55
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